第11話

(………なぜこうなった?)



今、俺は頭を抱えていた。俺は今、アーガイア国の王、つまり魔王と2人で向かいあって座っている。テーブルの上にはナターシャが淹れてくれたお茶の湯呑み。



ガースとの話し合い後、ガースは報告のためと言い、村の中へ。


その間に、俺は3人の副官に指示を与えた。敵兵の死体の処理だ。このまま放っておいたら一部は死人になるが、他は腐ってしまう。そうすると、衛生的によろしくない。



一応、アマンダに敵兵の装備の中で何かロストエデンで使えそうなものはあるか確認したが、即答で「ない。」と言われてしまった。



戻ってきたガースに敵兵の装備は必要か確認すると、「いただけるので!?」と驚いていた。だから、ジョー研究用の魔道士の装備の一部以外は全てソドン村へ。なんでも、これだけあれば相当な金になるのだそうだ。



そして、敵兵の死体処理をソドン村の大人たちとアマンダ直属部隊が協力して行った。すると、日が暮れてきたので彼女らはソドン村で一泊することに。



朝起き、出発しようとしているとアーガイア国の救援部隊が到着した。救援部隊の指揮を魔王自らがとっており、ガースから話を聞いた魔王が「私も行こう。」と。




頭を抱えていても事態は動かないので、腹を決める。


「私が司令官の三鍵 唯人です。ようこそ、ロストエデンへ。」


改めて見ると(この魔王、若いな。それに…イケメンだ。)と思っていると、魔王が口を開く。


「私がアーガイア国の王、シューベルト・シュナイデンです。

まずは、ソドン村を救ってくれたことに感謝を。」


(早く帰ってくれないかなぁ…?)俺はそう思うがもちろん顔には出さない。



「それで、ガースから聞いたのですが、3000の敵兵を200で破り、さらに一人として欠けていない。これは本当ですか?」


「直接戦場で戦闘を行ったのはアマンダ直属部隊の200ですが、支援として100ついていましたので、計300ですが。」


俺は人の表情を読み取ることを得意としている。だけど、目の前の魔王の表情は読み取りづらい。



「率直に聞きましょう。貴国全体でどれほどの戦力が?」



うーん、正直にいうとどれぐらいの戦力があるかはわからない。100万までは数えていたんだけど…

それに現在もアンドロイドを造っているのだ。日々増えていくのをわざわざ数えている暇はない。



「レディ、現在のロストエデンの戦力は?……空気を読んで少なめに頼む。」

俺は小声で注文をつけることを忘れない。


「ハイ…」


突然の声に魔王が驚く。

「うおっ!姿を消す魔法か?いや、私の感知には何も…」



俺は説明しなかったことを詫び、レディがコンピュータであることを説明するが、コンピュータが何かわからない魔王には理解できないようだった。


レディが告げる。

「現在のロストエデンの総戦力は180万デス。」


俺と魔王は2人同時に「ブフゥゥゥッ!」とお茶を噴く。そして、また同時に「ゲホゴホ…」と咳き込んだ。その拍子に湯呑みを落としてしまい、ガチャンと大きな音が響く。


俺は小声で「レディ、空気読んで少なめにって言ったろ。」と。


「ハイ、デスカラ188万7260のトコロを180万にしまシタ。」


家電の値引きじゃないんだから…俺はまた頭を抱えた。レディに頼ったのが間違いだった。


魔王が叫ぶ。

「3000の敵を300の部隊で蹴散らす兵が180万だと!!しかし、そんな数の兵がいるようには見えなかったが…」


「ハイ、ロストエデンはウランを採掘するために地下を掘っておりマス。そちらの地上に近い部分をアレクセイ様が改造し、広い空間を何層も造り、そちらに……

アンドロイドですので、食糧も必要ありませんカラ…」



レディさん、ペラペラ喋りすぎである。後で注意しないと…と俺が頭を抱えていると、魔王が急に、


「すまない、唯人殿。アーガイア国と同盟を結んでくれ!今すぐに!!」


俺がポカンとしていると、魔王は続けて、


「なんなら、そちらのメイとか言ったか?あの娘を私の妻に貰おう!こちらからも唯人殿に出そうではないか!」


俺の額がピキピキッと音を立て、何も考えずに叫んでしまっていた。


「あぁんっ!?うちのメイを妻にだぁ!?絶対やらん!大体6歳の子だぞ!ロリコンかてめーは!!!」


魔王の方も我を忘れたように叫び返す。


「あんたんだきゃ言われとーないわ!!報酬に魔族の女の子を欲しがるロリコンやないか!」


俺は慌てて


「ち、ちがうぞ!!シューベルト君、キミは大いなる勘違いをしている。落ち着くんだ。」


「オレだって、もっとこうボンキュッボンのオトナの方がええにきまっとるぎゃ…!」


「いいや、テメーの目はロリコンの目だ。メイが危ない!!テメーには会わさないでおかないと…」


そこまで言ったとき、ふと扉を見る。


俺たちは気づくのが遅かった。さっきの湯呑みを落とした音を聞きつけたのだろう。ナターシャとアーガイア国の女性補佐官らしき魔族がこちらを冷たい目で見ていた。


俺たち2人はまた同時に、

「いや、違うぞ。ナターシャ。こいつはロリコンだが、俺は違う。」

「違うぞ。フェルト。こいつはロリコンだが、俺は違う。」


彼女らは何も言わずに扉を閉めた。冷たい目で見つめたまま。

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