-12日前に会った転校生
松本青葉
第1話
「タケル、今日転校生が来るみたいよ」
とナナミは興奮気味にタケルに話しかけた。タケルは大してその転校生とやらに興味はない。親の仕事の関係で引っ越しが多かったタケルにとって、転校というのはそこまで大きいイベントのように思えなかった。しかし大多数の人にとっては一大イベントなのだ。
「別に興味ないし」
とタケル。
「転校生って女子らしいわよ! それも結構かわいいと噂の」
「なんで知っているんだ?」
「今日の放課後にたくさん話したじゃない?」
そう言い二人はしばらく雑談に興じた。
「はーい、席についてー」
とチャイムの音とともに担任の先生が教室の扉を開けた。その後ろには確かに女子生徒がいた。
「えー、この度うちの学校に転校してきた北山ナナミさんです」
すると北山ナナミは簡単な自己紹介を始めた。
「さようなら、北山ナナミです。高次元から覗きに来ました」
クラスメイトは全員混乱している。北山ナナミは自信満々な笑顔でよろしくと言うと忽然とその場から姿を消した。
放課後、タケルは席で本を読んでいたのだが、隣の席に北山ナナミが座っていた。ふと目が合ったが、タケルは恥ずかしくて目をそらしてしまった。しかし北山ナナミは声を掛けた。
「久しぶりだね、タケル。-12日ぶりくらいかな?」
タケルは何も答えない。
「何で転校生に興味がないの?」
とナナミ。
「え、それは……」
「知ってる。見えてるから」
「君は高次元から来たのかい?」
「ええそうよ、あと君じゃなくてナナミって呼んで」
「なぜ下の名前で?」
「気にすることはないわ」
「答えになっていないぞ」
「私には答えが見えているのよ」
会話がかみ合っていないとタケルは感じているが、ナナミは会話がかみ合っていないとタケルは感じていると知っている。
「わかった、じゃあまずはナナミが高次元からきたことを証明してくれ」
ナナミは少し悩むそぶりを見せると
「なら今から、別の3次元に移るわ。タケルからは見えなくなるはずよ」
彼女は消えなかった。
「おい、別の3次元に移ったのでは?」
「初めまして、あなたの名前を教えてもらっても?」
「武藤タケルだが、初めましてではない。-12日前に会っているはずだ」
「それが今日よ」
「今日は-12日前ではないだろう?」
「そうかしら、明日になれば今日は昨日になるのよ」
「君の目的はなんだ?」
「暇つぶしよ。ただタケルを観察するだけ」
「明日も?」
「私の明日とタケルの明日は違うわ」
「次元の差ってやつか?」
「そうね、私にとっての今はタケルにとっての昨日でもあり明日でもあるわ、ただ場所が違うだけ」
「なぜ僕に話しかけるんだ?」
「私は話していないわ、見てるだけよ」
「僕と会話しているじゃないか」
「ええ、その通りよ。こんにちは」
ナナミは姿を消した。
-12日前に会った転校生 松本青葉 @MatsumotoAoba
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