1人で
盛大な乳パンチを食らった後に、僕は倉敷先生から学校の説明を受けていた。
「この学校はね、中学生が6人、小学生11人、教員4人で合計21人の小さな学校なんだー」
「はぁ」
「私は中学生6人を担任してる、倉敷です!
そして、校門にいた人が校長先生の田中先生ね、後は小学生を担任してる袴先生て人がいて、用務員さんの旭川さんて人がいるから徐々に覚えていってね」
「はぁ、はい」
「じゃあ、2時間目の体育から早速参加して貰います!よろしくね!」
「はぁ、分かりました」
「じゃあ9時半までに体育館に来てねー」
「はぁ」
そんな感じで雑な説明を受けた僕は教科書類と学校の鞄を貰い、教室で自分の道具を整理していた。すると
キーンコーンカーンコーン。
学校のチャイムが鳴った、慌てて時計を見る、時刻は9時半、ぼーっとし過ぎた。
というか、田舎の人達はあんな勢いのある人達ばかりなのだろうか、まだ授業に出てすらも無いのに感じたことのない疲れを感じていた。これが、気疲れというものだろう。
都会では気疲れなんてした事無かった、みんな僕と距離を置いていたし、父の噂のせいで僕と仲良くなろうなんて思う人間は1人もいなかった。
ずっと、1人で生きてきたのだから。
急いで前の学校の体操服に着替えて小さな体育館に向かうと、既に倉敷先生と数人の生徒が体操服に着替えて準備体操を行っていた。そのなかには、今朝会った大畠さんの姿もあった。
「すみません、遅れました」
僕は生徒たちに好意の目を向けられるのを感じながら倉敷先生のもとに小走りで向かう。
「いいよ~、まだ準備体操しかしてないし。みんな~、集まって」
倉敷先生の声でそれぞれ準備体操を行っていた生徒たちが僕のもとに集まってきた。まずい、自己紹介の言葉なんてこれっぽちも考えていない。
案の定、倉敷先生はみんなの前で僕の紹介を始めた。
「えーっとね、東京から引っ越してきた立花 壮助君です!東京から引っ越してきて分かんないことも多いと思うから、みんな仲良くしてあげてね」
「よろしくお願いします」
僕がそう言うと髪を刈り上げている強面のヤンキーみたいなやつがわざとらしく舌打ちしたのが分かった。やはり、田舎では東京出身というだけであまりいいイメージを持たれないのかもしれない。
でも、そんなのもうどうでもいい。
僕は別に友達を作るためにこの学校に来たわけじゃない、勉強して、就職して、おばちゃんにもっと楽な生活をさせるためにここに来たのだ。
東京出身だから、とかそんなどうでもいいことで僕を判断する人間にいちいち構ってなどいられないのだ。
「はーい、じゃあ今日はバレーボールをしましょうか」
みんなそれぞれ倉庫からボールを取り出してパスの練習を始めた。
僕も練習の相手を探していると
「壮助君、一緒にやろ?」
後ろから大畠さんが声をかけてきてくれた。
「うん、やろう」
僕は大畠さんの優しさに感謝しながら下手くそなレシーブでボールに遊ばれるのだった。
そんなこんなで、時間は過ぎていきいつの間にか6時間目の終了のチャイムが学校中に鳴り響いた。
僕が道具をまとめて、帰る準備をしていると
「おい、ちょっと付き合え」
強面のヤンキーに声をかけられた。目つきは豹のように鋭く、雰囲気はとても大人びていてとても同学年とは思えないほどだ、身長も僕より全然高く、体つきもがっしりした印象を受ける。
「うん、いいよ」
ヤンキーに連れられてきたのは、2時間目で使った体育館の裏だった。
明らかに僕に何かするつもりなのだろう、隣にはもう一人ガラの悪い男がいる。
「お前さ、東京からきたからって俺たちのこと馬鹿にしてるだろ?」
ヤンキーがすこし荒い口調で話し始める。
「内心では田舎者どもがって、思ってんだろ?」
僕の肩を掴み、顔を近づけて威圧してきた。
僕はそんなこと思ったこともない、むしろ都会より人は暖かいと思う。近所のおばさんはサイダーをくれたし、あいさつをすれば笑顔でそれに答えてくれる。
東京に比べればなんていいところなんだろうと、そう思っている。
「そんなことない」
僕は彼の目を真っ直ぐ見つめ返して、そう言った。
「あぁ、そうかよ、ならいいんだけどよ」
ヤンキーは僕から手を離して
「帰ろうぜ」
と、つまらなそうな顔をしながら、もう一人の連れと一緒に帰っていった。
やっぱり、どこに行ってもああいう人種は存在するんだなと少し気持ち悪さを感じながら僕も帰ろうとしたその時。
「大丈夫!?」
そう言いながらこちらに向かって大畠さんが走ってきていた。
「さっき、ごうちゃんたちに、絡まれてたでしょ?」
息を切らしながら、彼女は心配そうにこちらを見つめてきた。
「ごうちゃんって、そんな可愛い名前してるんだ」
「うん、牧野 剛って名前なんだけどね、昔からごうちゃんって呼んでるんだ。本人は嫌がってるんだけどね」
「そうなんだ」
「私、今から帰るんだけどさ」
「うん」
彼女は少し恥ずかしそうな顔をして
「一緒に帰る?」
願ってもないことだった。
少しだけ上目遣いの彼女にどきどきしながら
「ぜひ、エスコートさせて頂きますよお嬢様」
と調子に乗ってしまうのだった。
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