わくわくとたゆたゆ

おばちゃんの畑仕事を手伝ったり、持ってきたきた本を読んでいるうちにあっという間に学校が始まる時期になった。おばちゃんの畑はとても広くて、おばちゃんでも何処に何を植えたか分からなくなるらしい。畑での作業はとても大変なので、壮助が手伝ってくれると、とても助かるとおばちゃんが言っていた。おばちゃんが住んでいる地域は山の上ということもあり、昼間は暑く、夜になると寒いという中々厄介な気候だった。しかし、体は丈夫なほうなので、特に体調を崩す事は無く、暑さがピークになる8月は無事に乗り切ったのだった。

母の死体を思い出す日は徐々に減っていき、憂鬱だった学校も少しは楽しみになってきたりしている。

そして、登校日初日の朝。


「じゃあ、行ってくるね」


「気を付けていってらっしゃい」


優しいおばちゃんの笑顔に見送られ、僕は建付けの悪い大きい玄関をガラガラと開けて、学校への道のりを歩き始めた。学校は山の麓に作られており、僕は30分ほどかけて山道を下り続けた。その途中である人物と出会った。


「あれ、それってうちの制服?」


その子は後ろからいきなり声をかけてきた。僕は彼女の勢いに少し戸惑いながらも、たどたどしく返事を返す。


「あ、えっと、転校してきたんだ」


「えーっ!こんな田舎によく引っ越してきたね」


「いろいろあって」


僕が口ごもると、彼女は不思議そうに僕の顔をまじまじと見つめて


「都会暮らしに疲れちゃったとか?」


「そう、そんな感じ」


「へー」


彼女はそのあと、大畠 奈津と名乗った。僕が東京に住んでいた話をすると、彼女は少女のように目を輝かせて


「都会っていいよね!」


と無邪気な笑顔でそう言った。

太陽のように明るい女の子だなと思った。奈津の少し茶色い短めの髪の毛が朝の光に照らされてきらきらと輝いて見えた。ショートヘアがよく似合っていた。髪の毛の合間から見える小さくて白い耳が子猫のようで、とても魅力的だ。


「学校って、どんな感じなの?」


「うーん、別に普通の学校だよ」


「部活とか、有名なものはないの?」


「有名なものかぁ」


そう言って奈津は少し考えて


「うさぎくらいかな」


「うさぎ?」


僕がそう聞くと奈津は学校の鞄からスマートフォンを取り出して、僕にある写真を見せてくれた。

そこにはピースサインで笑っている奈津と可愛らしい白いうさぎが写っていた。


「そこそこ大きめのうさぎ小屋があってね、そこで三匹くらいうさぎを飼ってるの」


「へぇ、かわいいね」


「でしょー、私が飼育員係をやってるんだよ」


「そうなんだ、時間がある時に見に行ってみるよ」


「うん」


その会話を最後に、僕たちの間には少し気まずい空気が流れ始めた。それもそうだ、僕たちはまだ初対面だし、僕は人と話すのはあまり得意なほうではないのだから。

しかし、僕は気まずい空気が苦手なわけでもなかった、むしろ気まずそうにしている相手の顔を見るのは楽しいと感じることもある。


「あ、あのいきなり話しかけてごめんね」


「ううん、全然気にしないで」


「じゃあ、私、先に行ってるから・・・」


そう言い残して、彼女は学校への道を早足で駆けていった。

なんだか悪いことをしたなぁと思いながら、僕もゆっくり学校へと足を進めた。

森の中では、名前の分からない鳥が綺麗な声で鳴いていた。


それから少し歩いたところに、僕が通うことになっている学校があった。

ぼろぼろの黒ずんだコンクリートで出来ている福田中学校はまるで森の中に佇む廃墟のようだった。都会の学校しか通ってこなかった僕はこれが学校だとは到底、信じれないほどだ。

しかし、校門に近づくと挨拶運動をしている先生が声をかけて来てくれた。


「おはようございます、もしかして転校生の立花 壮助君かな?」


髪が薄く、中肉中背のいかにもエロ漫画に出てきそうなおじさんが唾を飛ばしながら話しかけてくる。僕は距離を置いて


「はい、そうです」


と答えた。


「そうかい、よく来たね、職員室で君のクラスの担任をしている倉敷先生が待っているから訪ねてみなさい」


「分かりました」


ぺこりと頭を下げて僕は足早に職員室へと向かった、校舎は狭く歩くたびにぎしぎしと廊下の軋む音がしたが、田舎の学校ではこれが普通なのだろうと思うことにした。

職員室は校舎が狭いおかげですぐに場所が分かった。


職員室の扉の前に立つ。

そうすると、色々な感情が湧いてきた。

これから始まる学校生活への、期待や人間関係に対する不安。もしかしたら凄く綺麗な女の子と仲良くなれるかも、とか。

久しぶりにわくわくしている。


「遅刻だぁぁぁ!」


後ろから何かが飛んできた。

それは勢いよく僕にぶつかり、そのままもつれるように廊下に倒れ込んだ。


「いったぁー、って君、大丈夫かい?」


それは巨大な乳だった。

そう、呼吸が出来なくなるほどの巨大な、

乳だった。


「ふぁの、ふぉいてもらえますか?」


「わぁ、ごめんね」


その強大な乳をもった女性は手をついて立ち上がり


「もしかして、君が立花君?」


と聞いてきた。

僕は目の前で乳がたゆたゆするのを堪能できたことに感動を覚えながら


「はい、僕がそうです」


と言った。


「そっか~、私が担任の倉敷です、よろしくね」


わくわくとたゆたゆが止まらなかった。







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