第6話 VS勇者 頂上決戦!
勇者がやってくる日か。
俺が何かするわけじゃないけど、なんだか緊張するな。
なんだか街の人たちもそわそわしている。
「ゆーしゃが帰ってくるぞ」
「ユーシャ様! ひぇぇぇ」
「おい。荷物詰め込め。早く出るぞ!」
街から出ようとする者たちが多い。
一言だけ言わせてくれ。なんで昨日出ていかなかったんだ?
「ペチョスの目がいつになく黒目が強く見えますね。闇のように吸い込まれるみたいです」
目の光がないんでしょ。別にカッコよく言い換えなくていいです。もう目が死んでると言ってもかまいません。
「その特別な右目で何を見るのか」
アホな人が今から逃げようとする様です。
「神父様。朝食でもいただきましょうか」
「良いですね。ブレックなファーストは神もすすめています」
「何言ってるかわかりませんが、食べた方が良いってことですね」
「さすがペチョス。なかなかわかってきましたね」
わからないことがわかりました。
やや質素な朝食を済ませ、しばし腹を休ませる。
「神父さまー! お話してー!」
「良いでしょう良いでしょう」
昔々、仏利炎神という神様がいました。その神様が世界の
「神父様! 神父様!」
「どうしました?」
「全員寝てます」
「まさか! これからチートやハッカーと戦うんですよ!?」
寝ちゃったものは仕方ないでしょ。というか俺も話の9割わかりません。
寝てなかったのを褒めて欲しいくらいです。
「仕方ないですね。続きはまた今度に致しましょう」
神父様がため息を吐いていると、急に街全体がざわめき出す。
「来たみたいですね。さっそくお出迎えに行きましょう」
「は、はい!」
とうとう勇者と見えることになるのか。ドキドキするな。
騒ぎのある大門へ向かいそこで待機していると、豪華な馬車がやってきた。
「勇者様ばんざーい!」
「ばんざーい!」
「きゃーーーー! 勇者さまー!」
「ウェーイ」
若干おかしい奴もいる。いや、全員おかしいのか。
昨日まで勇者を罵倒してた奴まで称賛している。
「これは最悪ですね」
「やはりバグですか?」
「いえ、もっとタチが悪い。私が話すので、あなたは見ているだけにしていなさい」
「わ、わかりました!」
いつになく真剣な神父様に気圧されてしまった。
そのまま待っていると、勇者の姿が見えてくる。キンキラの鎧を着込んで、着込んで、頭がクラクラする。神父様がデコピンしてこなかったら、そのまま倒れていたかもしれない。
「よくぞお戻りになられました」
「あんたは……」
「教会を代表し、勇者様の認定を確認しに参りました」
「ふふふ。とうとう教会も俺を認めたか」
「申し訳ありませんが、鑑定をさせていただきます」
「存分にやってくれたまえ!」
神父様の鑑定か。高位の司祭のみが使える技だと聞いたことあるけど、どんなものなのだろうか?
「では失礼して、デバーーーックモーーードゥ! ふんふんふん」
うわぁ。めっちゃカッコ悪い。
これって遠見する時にもやってた手メガネじゃないか。
勇者様もドン引きしてるし。
「ど、どうだ? 勇者だったろ?」
「はい。確かに名前:勇者、職業:勇者@#でした」
ん? 今変なの聞こえた気がしたような。
「だったら教会は認めるということだな」
「いいえ。教会は認めません」
「なんだと!?」
「個体名:勇者に不正を確認したので修正に入ります」
「こちらでも確認済み認めます」
今の俺じゃない!
いや、俺なんだけどしゃべってないよ! 勝手に口が……。
「不正だと! どこがだ」
「ストーリー改変は重大なレギュレーション違反ですよ。TASのツールも違反です。さらにキャラ設定までいじってますね。アイテムもですか? これは救い用のない罪です。ここまで酷いのは久しぶりですね」
「お前はいったい……」
「申し遅れました。この世界でデバッカーをしているタダシと申します。短い間ですがよろしくお願いします」
「デバッカー……まさかお前も!?」
俺、デバッカー、違う。
「彼は見習いですよ。いずれは立派なデバッカーになっていただきたいですね」
訳わかんねぇ。
「それなら、お前を倒せば切り抜けられそうだな」
「貰いツールで粋がってるチーターに、デバッカーを倒せますかね?」
「やってみないとわからないだろう!」
「「うおぉぉぉぉぉ!」」
すげぇぇぇぇ。二人とも空中で指をめっちゃ動かしてる!
何をしてるかわからねぇぇ。
「ふふふ。その程度ですか」
「ならばリアルファイトだ!」
勇者はぇぇぇ!
神父様吹っ飛んだ!
「残像です」
「めっちゃ血ついてますよ!」
いかん。声が出てしまった。
「復元に失敗しました」
「まさか復元まで……」
「今度は私の番です! うぉぉぉぉぉ!」
いつまで叫んでるんだろ?
「おい。まだか?」
「うぉぉぉぉ!」
「来ないなら行くぞ! おりゃー、ぷげ」
今の動きおかしくないか?
5m以上離れてたのに一瞬で捕まってた。そこから投げ落とし。
「く、くそ。それこそチートぢゃないのか」
「ふふふ。おかしなことを言いますね。これは仕様です」
「仕様……だと? ぐふぅ」
「あなたの敗因はツールに頼ってしまったことです。独自改変だったなら、私ももっと苦労したでしょう。それでも荒ぶる神は見ていますがね」
「荒ぶる神……まさか、そうだったのか。これでアカBANかな」
「残念ながら、重罪ですので永久凍結です。新垢を期待しませんように」
「ふふふ。良い思いさせてもらったぜ。じゃあな」
「いつの日か、神の恩赦があらんことを」
まったくわからねぇ。
たぶん説明聞いてもわからねぇ。
これがフラッスンたちの言ってたことか。
「今回のことでペチョスもかなりバグを見たでしょう。バグについてより深く知れましたね。ふふふ」
「はい!」
理解できないとわかりました。
「さぁ、教会へ戻りましょう! まだまだ仕事は残ってますからね」
その後、神父様は少女を救うために仕様を使ったが、一緒に爆散するという御業で一緒に復元されることになった。
教会の孤児とシスターたちに強烈なトラウマを植え付けて、俺たちは帰ることになる。
「ちゃんと捕まっていなさいよ?」
「はい!」
「せーの!」
「ぶへ。うげろろろっろろろろ」
この日のことは、ロープホーレの街で神が降臨した日ということになり、祭りが開かれることになる。『怪物ユーシャとタダーシ神父の決戦』は子供たちに大人気で読み聞かせとして伝承されているが、教会で話すと一日コースの説法が開かれる。
普段活気のある教会も、祭りの日だけは光を通さぬ深海のように真っ暗に締め切られているそうだ。
「ペチョスも成長したな。大人への階段を登ったか?」
「あぁ。今回のことで身に染みた」
「お、おう」
「世の中には理解できないことがいっぱいあるんだな」
「そ、そうか」
大人になって孤児院を出ることになったペチョスは、タダシ神父に他の神に関する名前を願った。タダシも快く了承し、フローズンクランチを縮めてフローチという名前をつける。
フローチは世界を放浪し、床抜けや壁抜けを見つける天才として教会へ多大な貢献をすることになる。その功績を讃え『野生のデバッカー』の称号を授けられる。
その時の名言が今も教会の石板に刻みつけられ、多くの人に感動を与えている。
”何人も神の御業とバグからは逃れられぬ。 byフローチ”
おしまい
神父様のご乱心 コアラ太 @kapusan3
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