第3話 最初の規則
目を開けると、また同じベッドにいた。
食べたのを戻したところまでは覚えているけれど、また気絶しちゃったのか。
「あ、起きた」
メガネの子は、確か。
「フラッスン君でしたっけ?」
「へぇ、物覚え良いね。あと、年の近い院生に君もいらないし、テイネイに話さなくて良いよ」
「じゃあ、フラッスンかな」
「そうそう。同じ被害者仲間なんだからさ」
被害者?
何を言ってるのかわからないけど、それよりもお腹がゴロゴロ鳴っていて気になる。
「腹減るよね。そこのリンゴは食って良いよ」
青くテカっているリンゴを引っ掴むと、すぐにかぶり付いた。
若干張りが無くなっていているけれど、まだまだ汁気があって美味しい。
スラムだともっとカサカサのリンゴばかりだったからなぁ。
「あれ? もう起きてるじゃん」
こっちはノッポンだっけ?
「ちょうど起きたところだよ。それより最初の巻物持ってきてくれない?」
「あれがあったな。ちょっと待ってろ」
腹も満たされて少し落ち着いてきた。
新しく置かれた水も飲み干して、大満足だ。
「持ってきたぞー」
「サンキュー。新入りはこいつの名前も覚えてる?」
満たされている俺は何でも答えるぞ。
「ノッポンでしょ」
「おぉ! 頭は悪くなさそうだな」
そこでノッポンがちょっと考え込む。
「どうかした?」
「そういえばお前の名前聞いてないなと思って」
「あぁ、俺はガ……」
あれ?
ガルって言えねぇ。
「あ、古いのじゃなくて新しいのな」
「ペチョスだよ」
「ぶふ! やっぱりそういう名付けか」
なんかおかしいかな?
確かに聴き慣れない言葉だけどさ。
「ペチョスは知らないかもしれないけど、僕たちの名前は全部外国の言葉なんだよ。ノッポンは西方で背が高い。フラッスンは東方にあるお菓子。モチョコとペチョスも東方の食べ物だね」
「司祭様に名前のセンスは無いよねー」
そういえば、スラムにも食べ物の名前の奴らも居たっけ。
「そんで、古い名前は卒院するまで言うことは出来ないから」
「どういうこと?」
「それも全部巻物に書いてあるから、今開くね」
_______________
<body>
<header>
<h1>タダーシ孤児院</h1>
<nav>
<ul>
<li><a href="1.html">1:神の祝福を受けた新しい名前を名乗ること<color#ff6347></a></li>
<li><a href="2.html">2:タダーシ孤児院の専属司祭から、要請があった場合は協力すること<color#ff6347></a></li>
<li><a href="3.html">3:御業から意図的に目を逸さぬこと<color#ff6347></a></li>
<li><a href="4.html">4:孤児院は自分たちで整備すること<color#ff6347></a></li>
<li><a href="4.html">5:バグを見つけたら神へ報告すること<color#ff6347></a></li>
</ul>
</nav>
<h2>お知らせ</h2>
<p>野生のデバッカー募集中</p>
</header>
<p>ようこそ、タダーシ孤児院へ</p>
</body>
_______________
「なんだこれ!?」
「読みづらいよな。よくわかんない記号は無視して、読めるところだけで良いんだ。ひとつずつ説明していくね」
1:神の祝福を受けた新しい名前を名乗ること
「みんな最初に試すけど、先輩たち一人として昔の名前を言えた人はいない。司祭様にもらった名前は、神に認められた名前みたいで、それを使うしか無いんだ」
2:タダーシ孤児院の専属司祭から、要請があった場合は協力すること
「たまに司祭様から手伝いを頼まれる。その時に協力しなさいということ。半日で終わる時もあれば、長期で1ヶ月同行することもある」
3:御業から意図的に目を逸さぬこと
「僕らの目は御業を使った時に、神様と共有できるみたい。ちゃんと使えているか確認するために、目を離さないようにということ。」
4:孤児院は自分たちで整備すること
「住む場所は自分たちで直しなさい。ちなみに寄進されたものは自由に使って良いみたい」
5:バグを見つけたら神へ報告すること
「これが一番難しい。先輩含めバグが何かいまいちわかってないんだ。しかも文書に残せないみたいで、今までのバグは先輩たちから口頭で伝え聞くしか無い」
1は体験済みで、4は住処を守るわけだからわかる。
2って司祭様だろ? 思い出したくもないけど、あれで司祭様は亡くなったはずだ。
3の御業は体験したけど、あれから目を離すなって苦行でしかない。
5は、さっぱりわからない。
「よくわからなかった。というか新しい司祭様が来るの?」
「ん? 司祭様は一人しかいないよ」
「え? 今は司祭様がいないでしょ」
「出かけてるってこと?」
話が噛み合わないな。
爆発したのは見てたと思うんだけど。
モンモンと考えていたら、コツコツと階段を上ってくる音が聞こえた。
「モチョコの音じゃないな」
少し重めの音でシスターかと思って、扉が開くのを待つ。
「今戻ったよー。新しい子は元気してる?」
「へ?」
「いたいた。ちょうど新人用の紙を見てたのか。ここのトマト色良いでしょ? 神様にhtmlで頼まれてさ」
え?
そっくりさん?
いや、本物。
「ぎゃあああああああああああああああああ」
「フラッスン抑えろ!」
「一人じゃ無理!」
抜け出せねぇ。
怖い!
めっちゃ見られてるし!
「うーん。毎回こうなるの何でだろ」
「「何ででしょうねー」」
「ペチョスにバグは……無し! 右目のは……仕様です!」
「右目!?」
何を言ってるんだ!
「はなせぇぇぇぇ!」
「ダメダメ」
「ペチョスより1年院生やってるんだ。力で負けるはずないよ」
言われた通りビクともしねぇ。
「まぁ、今日はこのくらいで良いか。そうそう、ペチョスはしばらく豆か魚料理だって」
司祭様がいなくなるまで、捕まったままで、ようやく解かれた時には落ち着き始めていた。というか疲れて動けなかった。
「何あれ? 司祭様死んだと思ってたんだけど」
「あぁ。あの人たぶん死なないよ」
「不死身ってこと?」
「本人の話だと違うみたいだけど、僕たちからしたら不死身だね」
不死身じゃないけど不死身とか、わけわかんない。
「神様に愛されているとか言われてるね。聖教会でもここだけ特殊らしいし」
「フラッスン。あれだけ教えたほうが良いんじゃない?」
「あれか」
何だかわからないけど、聞いておいたほうが良い気がする。
「司祭様の許可なく、御業の真似はしないほうが良いよ」
真似したところでできそうにないけど、成功しても爆発するイメージしかない。
「続きは明日にしようか。本棚の本は勝手に読んでも良いよ」
「俺、文字読めない」
「あとで一度開いてみるといいよ。意外と読めるからさ」
フラッスンは、言い終わるとすぐに立ち上がった。
「モチョコから、ノッポン仕事だってさ」
「うお!? 相変わらず良い耳してるな」
「ペチョスは2日後まで休みだから、院内をぶらついてみると良い」
疲れた。
とりあえずもう一回寝るか。
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