002_己/死ぬかと思ったが本番は、これからだ!
『002_己/死ぬかと思ったが本番は、これからだ!
/2040/12/13
/DFW/平原/活力の草原
/ギルド『鬼斬』マスター 小田一二四大尉』
「到着しました」
パカの満面な笑みに俺が宣言する。
「俺が許可するまで運転は、禁止!」
「えー、どうしてですか! ちゃんと目的地に早く着きましたよ!」
パカのクレームに対して俺が言う。
「乗り物を壊した場合には、ちゃんとと言わん!」
カーシートから降りた後に点検したチューから報告を受けたトクヒデがやってくる。
「想定外の落下に無理な加速、崖との接触もろもろで修理費は、三千CC(三十万円)は、超えるそうだ」
この手の品は、貴重なDFWの素材を使っている為に高価だ。
「安全運転って奴を俺が教えてやるから覚悟しておけ」
そう釘を刺してから現実逃避的にカーシート上でした事前ミーティングにそってボー達が動いているのを確認していく。
俺達は、アンダー達の相手が狙う新兵の反対側に到着している。
間に入って安全を図る事も考えられたがその場合、どうしても逃走を許す可能性が高い。
その為に、背後を俺達が抑え、左右から抑える予定になっている。
最初に目的についたのは、モコだった。
モコは、タイプとしては、トクヒデと同じ複合四法と治療に特化している。
トクヒデがした俺ですら理解できない高等理論を即答していた。
詰まるところ、トクヒデと同じで前線に出て戦うタイプでは、ない。
俺やミドルの様な前線向きが居て初めて真価を発揮するタイプだ。
勿論、今回直接戦わせたりしない。
『康丑式陣詠拡物土壁』
自分の描いた陣を基準に詠唱が届く範囲まで土壁を広げる魔法。
それでアンダー達と新兵、モコとの間に壁を作って遮断する。
「ただの土壁でもあそこまで広域に展開しているのは、始めてみたぞ」
俺の正直の感想にチューが苦笑する。
「土壁なんて強い塵獣には、紙切れと変らないかんね。熟練者になればなるほど出番が少ないんだよ」
「それでもだ。あそこまで極めるのには、さぞ努力したんだろうな」
複雑な気持ちだった。
事情は、どうあれモコは、俺の娘だ。
同時に確かに万五郎の技術を引き継いでいる。
万五郎を否定したい気持ちと裏腹にその実力の高さには、確かな嬉しさもあるからだ。
「運よく十二人とも成功したからね。それぞれに特化した形に分けてずっと努力してきたからね」
チューの言葉に嫌悪感が濃くなるが今は、それを無視して状況を確認する。
いきなりの土壁にアンダーの連中は、動揺している。
前回同様、銃火器を装備した奴がいるが、そこそこの厚さがある土壁相手では、意味が無い。
とり得る手段は、そう多くない。
モコと反対方向に遠回りして新兵を狙うのが一番選択しやすい手段だろう。
それだけに先に潰してやる。
『康辰気集詠砲爆撃』
周囲の気を収束して広範囲に爆発を発生させる、八手の中でも四法の『詠法』と四技の『気技』を合わせた超攻撃型魔法使いタイプの奴が使う術がアンダーの連中を襲う。
ずっと本を読んでいたボーは、チュー曰く、『気技』の神才だ。
そのボーが放った爆発攻撃がアンダーの連中が向かおうとした先から撃たれたのだ、奴等に残された道は、一つしかない。
俺達の方への逃走。
「準備は、終わったぞ」
最初から準備をしていたトクヒデとその手伝いをしていたパカとニョロが大きく描いた魔法陣にアンダーが入った。
『己丑卯式陣泥変』
アンダーが踏み入れた大地が深い泥に変化してその足を飲み込んでいった。
「どうなってるんだ!」
「壁や爆発の次は、泥沼かよ! 何でこんな目に合わなきゃいけないんだ!」
アンダーの部不相応な不満に俺が近づいて答えてやる。
「犯罪者だからだろ!」
「貴様、何のつもりか知らないが、俺達のバックには、凄い人が居るんだぜ! 俺達にこんな事をしたと知ったらただじゃすまないぜ!」
お約束の恫喝に俺は、敢えて黙る。
「今更ビビってもお終いだぜ! あの方々は、何時でも援軍を出せるんだからな!」
黙っている事に勘違いしたアンダーが予想通りに口を滑らせた。
「合っていて欲しくない予感だったんだがな」
俺は、苦笑気味にそう言いながらトクヒデを見る。
「アンダーが頻繁にDFWに入れた時点で予測が出来た事だろう」
トクヒデは、諦めきった顔をしている中、チューが言う。
「やっぱり、どっかのギルドが関わっているって事だね」
それを聞いてアンダー達が驚いた顔をする。
「が、ガキ! 何を言っているんだ! 俺達は、ギルドとは、何の関係ないぞ!」
「えーとね、さっきの何時でも援軍を出せるって事は、RMSの支部かフォールポイントの独自管理が認められているギルドじゃないと駄目でね。RMSの支部に関して言えば、その出入り記録は、国際法にも関連してるから在り得ないんだよ。そうなるとね答えは、ギルドって事になる」
チューの説明にアンダーが慌てて弁明してくる。
「ガキは、解らないだろうが何事にも抜け道があるんだよ! 俺達は、それを使ってだな……」
尚も色々言っているが、それをこっちに言っている時点で誤魔化しているしかとれねえ。
ギルドと繋がっているのがモロ解りだ。
「さてとここの情報をRMSの支部に報告してこいつらを回収してもらうか」
そういって俺が視線をそらした時、そいつが動いた。
さっきから大声で俺達に話しかけてきた奴では、ない。
アンダーの中では、地味な姿をしたそいつは、泥から抜け出して、俺の首に向かって一閃を放って来た。
「『乙戌体剣斬』だな。アンダーとは、思えないいい腕だ」
俺は、自分の剣でそれを受け止めていた。
「業と隙を見せたな」
確信をもってそいつが言ってくるので俺が頷く。
「そうだ。お前みたいのが隠れたままだと回収しに来た連中に迷惑だからな」
間合いが広げられた。
基本、『体技』において『乙』以上の技を出せるのは、一定の訓練を受けた者に限られている。
怠惰なアンダーには、無理な技、ギルドからの監視者だな。
俺は、ゆっくりと息を吐いて、一気に体内の気を高める。
先に動いたのは、相手だ。
更に間合いを広げたと思った瞬間、一気にこっちに加速。
『乙亥体剣穿』、剣による突進型の突き。
俺がレイドに使った突きより高度と言われる由縁は、その間合いの取り方だ。
威力が一番出る間合いからの突きを放っている。
その為、単純な威力勝負ならば『甲亥体剣穿』が劣るだろう。
だがしかし、必ずしも『甲亥体剣穿』よりまさっている訳では、ない。
『甲卯体剣烈』、俺の剣が相手の剣をその手から弾き飛ばした。
「『乙戌体剣斬』の明確な弱点。最大の威力が出る間合いを求める為にそのタイミングを図るのは、容易だ」
飛ばした剣は、トクヒデが既に確保している。
暗器の類は、隠しているだろうが正面からの戦いが継続できる状態では、無い筈。
後は、油断しないようにじっくりと攻めて確保と考えていた時、そいつは、大きく飛びのいた。
その先には、ニョロが居た。
驚いた表情を見せてあっさりと背中を取られ、片手で両腕を掴み上げられるニョロ。
「おい!」
俺が視線で責めるとチューが肩を竦めるだけだ。
「お前自身は、油断していなかった様だが、こっちのガキどもは、駄目だな。いくら武器を失おうとガキの一匹くらい捕まえるなんて容易い事だ」
勝ち誇るそいつに対してニョロは、涙目で叫ぶ。
「嫌、エッチなことするんだ! 薄い本みたいに!」
俺は、ため息を吐く。
「何を言ってるんだ?」
チューが少し思い出すような動作をしてから手を叩く。
「あれは、確かニ三十年前に同人誌が認知され始めた頃のお約束セリフだ」
「下らない真似を……」
思わず顔を押さえる俺を他所に相手は、ニョロの戯言を無視してこちらからの間合いを更に広げる。
そんな中、ニョロの体が不自然な程に相手に押し付けられる。
特に股間の辺りにだ。
「おい、そんなに体を押し付けるな!」
相手の言葉にニョロが涙目で言い募る。
「でもでも、するんでしょ? エッチな事?」
「誰が胸の膨らみの気配もないガキとそんな事をするか!」
相手のもっともな意見に対してニョロは、更に体をこすり付ける。
「だけど硬くなってるよ?」
顔を顰める相手を見てチューが余計な事を言う。
「接触による単なる肉体反応だから貴方がロリコンだって証明じゃないから安心して」
「五月蠅い!」
そう怒鳴る相手に同情してしまう。
「そんで、何をしてるんだ?」
俺が小声で尋ねるとチューが視線をこちらに向けずに言ってくる。
「房中術って知ってる?」
「聞いた事が無いな」
俺がそう答えるがトクヒデが眉を顰めて小声で言ってくる。
「性的行為で不死を求める中国で行われていた術だと聞いた事がある」
「おい!」
思わず声を大きくする俺に対してチューは、手を下に何度も下げて声量を抑えろって忠告しながら続ける。
「新しい生命を誕生させる為の行為ってそれだけ大きな力で、それを自己の生命延長に使うって技術なの。その応用は、猫万の『気技』にも用いられているよ」
意外な関連性に戸惑いながら俺が促すとチューが続ける。
「『心法』って魔法でもあるけど、催眠術って技術も取り込んでいるの。催眠術は、簡単に言えば外部刺激で脳味噌の動きに干渉する技術でね。もっと言えばどんな方法でも脳の動きに干渉すれば催眠術は、施せる。簡易房中術、相手の性器という敏感部分への刺激と心理操作による視界や聴覚でない、接触刺激と内部を流れる気のコントロールに因る脳干渉による催眠。『康巳気体心躁浸』、接触による催眠術だよ」
そんな説明が終わる頃には、相手の瞳から意志の光が消えていた。
「言っておくが、RMSに事前申請ない心理操作系の『心法』は、違法だぞ」
俺の追及にチューがそっぽを向く。
「犯罪者に囚われた無力な少女が自己防衛の為の仕方ない行為って事にしといて」
「お前な……」
俺が頭を掻く中、トクヒデが言う。
「まあ、方法は、あまり褒められた事じゃないが丁度いい状況だ。相手の情報を出来るだけ引っこ抜くぞ」
「そうなるな」
俺は、そういって渋々納得するのであった。
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