002_戊/計画通りに進むと思った?

『002_戊/計画通りに進むと思った?

/2040/12/13

/DFW/平原/活力の草原

/ギルド『鬼斬』新メンバー 武田雪子二等兵』


「何事にも抜け道ってあるんだよね」

 あちきの言葉にトクヒデさんが苦笑する。

「そうだな。例えば、今回採取の仕事をしないからとチューまで同行するというのは、抜け道以外の何物でもないな」

 そう、今回、RMSには、採取メンバーは、ボー、ニョロ、パカ、モコの四人でその監督役としてお父さんとトクヒデさんがいる。

 本来ならあちきが参加する事は、出来ない筈なのだが、トクヒデさんが言ったように、あちきが採取を行わないという前提なら別行動として同行出来る。

 まさに抜け道。

「それで普通に採取をするのか?」

 お父さんの疑問にあちきが指を横に振る。

「多分、それだと昨日の今日だから引っかからない」

「だろうな、失敗した地点で仕事をするとは、思えないな」

 トクヒデさんが同意してくるのであちきが続ける。

「そこは、そこ。ピョンが昨日内に細工してあります」

 そういって、あちきは、指先程の兎模型を見せる。

「『丁卯組空監視像』、気配反応と同一機連携の複合機能があり、小型だけど広範囲のチェックが可能なんだよ。昨日の襲撃があった直後からそこそこの数展開させてる」

「面白いもの作っているな。これで相手の動きを監視するのか?」

 お父さんの言葉にあちきが頷く。

「そう、後は、待つだけだね」

「我、読書する」

 地面に座り込んで読書を始めるボー。

「パパ、親子の愛情を深めましょう!」

 無意味に体をお父さんにくっつけていくニョロ。

「えーい、邪魔だ。ボーも本を読むな! 建前でも採取に来ているんだから『萌草』を採取しろ!」

 何かというとくっつきにいくニョロとサボって本を読むボーに採取を強制させているお父さんにトクヒデさんが声を掛ける。

「動きがあったらしい。だが、少し離れた所だ」

「出来れば被害が出る前に片付けたいんだがな……」

 お父さんの呟きにあちきが提案する。

「パカなら高速移動手段あるよ」

「本当か。しかしこっちでの高速移動手段は、かなり限られている筈だったと思うが?」

 お父さんが不思議そうにするのも当然。

 技術開発には、常に必然性が伴う。

 だが、DFWの移動は、一度PCWに戻れば幾らでもショートカット出来る。

 その上、DFWは、あくまで亜世界であり、真世界であるPCWと常識や理が異なる。

 そうなれば当然の様に精密機器に支障がきたらす。

 つまる所、電子機器てんこ盛りの最新自動車の場合、平気で動かなくなる。

 逆に自転車や簡素なおもちゃの様なカートの方が使える。

 そんな事情により、荷物運びのリアカーの発展系以外は、あまり開発されていない。

 心法の会話で指示を出すとパカが目を輝かせて箱を取り出す。

 通称箱と呼ばれる正式名称『コールボックス』は、フォールポイントの応用技術で、箱の中にPCWの指定空間を呼び寄せる事が出来る。

 ゲームにあるアイテムボックスに近い使い方出来るこれの存在もまた移動手段発展を遅らせている一因だったりするが、今は、そんな事は、関係ない。

 パカは、金属的な質感をもつ絨毯を広げてその先端に立つ。

 慣れているボーとニョロ、モコは、普通に絨毯に座る。

「これは、なんだ?」

 嫌そうな顔をするお父さんにあちきが説明する。

「カーシートと呼んでる。一応花母の開発した事にしてある製品。RMSの一部で実稼働している筈だよ」

「見た覚えがないな」

 トクヒデさんも二の足を踏むがあちきも乗って促す。

「時間が無いから早く乗って」

 お父さん達は、嫌そうな顔をするが渋々乗ってくる。

「今こそ風になる時だ!」

 パカがそう雄叫びを上げてカーシートが急発進する。

「おい! なんだこれ!」

 お父さんが顔を真っ青にしていう。

「一種の空間隔離。絨毯の上の空間と外部の空間が隔離されているから移動によるGや風圧の一切を感じさせない優れものの上、使用する力が絨毯の移動するのみって低燃費な所も評価されている」

「確かに、それは、優れた移動手段だ」

 顔を引きつらせながらも評価してくれるトクヒデさんと違い、お父さんが外を指さして言う。

「今、崖にぶつかる寸前だったぞ!」

 あちきは、目を輝かせて更なる攻めの走行をするのを見ながら告げる。

「ハンドル持つと性格変わる人っているよね?」

「スピード狂って奴なのか!」

 お父さんの言葉にあちきは、首を傾げて見せる。

「スピードを出すのも好きだけどそれ以上にどれだけ効率の良い道どりと走行が出来るかを求めているの。ほら所謂、峠をドリフトで攻める人達いるでしょ? そういうタイプかな?」

「一番、実車に乗せたらまずいタイプじゃないか」

 トクヒデさんの言葉にあちきが言う。

「安心して、パカは、滅多な事が無い限り事故らない筈だか……」

 そう言い終わる前に本来なら衝撃が無い筈のカーシートに振動が走って、冷や汗が流れた。

「今のは、想定以上の段差にカーシートに衝撃が発生したね」

 この状況でも本を読んでいるボーがそう説明してしまう。

「キャー! パパ、内怖い!」

 チャンスとばかりに抱き着くニョロを引きはがしてお父さんがパカに近づく。

「もう少し安全な運転をしろ!」

 しかし、パカの耳には、入ってないだろう。

 反応が無いパカに業を煮やして触れようとするのをあちきは、止める。

「流石に極限運転中に強引な事をしたら大事故になるよ」

 お父さんの手が止まり、トクヒデさんが言う。

「ここは、パカを信じよう」

 神に祈る姿を見る限り信頼があるって訳じゃないだろう。

 その後、大事故だけは、起こらなかった。

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