002_康/頭が痛い問題?

『002_康/頭が痛い問題?

/2040/12/13

/PCW/日本東京大田区/RMS大田区南支部

/支部職員 南野由美伍長』


「月巳さんの『心法』使用は、自己防衛の為の仕方ない手段として罰則対象にならなかったわ」

 あたしの報告に安堵の息を吐くセブンに釘を刺す。

「ただし、次同様な事があった場合、今回の事を含めた処罰対象になるとの事よ」

「小学生のガキに男の何を刺激させるなんて真似は、二度とさせねえよ」

 セブンの言葉にあたしが半眼で言う。

「一度でも十分問題よ! そっち方面の教育もちゃんとするように!」

 大きくため息を吐くセブンを横目にトクヒデさんが質問してくる。

「それで、そいつが漏らした情報は、RMS側では、どう判断しているのですか?」

 あたしは、眉を顰める。

「警告した所、相手ギルド、『クリーンバッド』は、自分の所の縄張りを欲した『鬼斬』の欺瞞行為だって返してきているわ」

「それをRMSは、受け入れたのか?」

 セブンが嫌そうに聞いてくるのであたしが言ってやる。

「貴方達が相手の訴えに対して抗議を挙げれば詳細の再調査が行われるわ」

「だったら直ぐにでも……」

 セブンの言葉をあたしが遮り。

「詳細の再調査となればどの様に月巳さんが『康』程の『心法』を習得したのかの調査も行われるけど、良いの?」

「……かなり不味い」

 セブンが苦虫を噛み潰したよう顔を見せる。

 あたしは、大きなため息を吐く。

「はっきりいってこっちも探られたら困る事が山の様にある状況で一方的に相手の不正を追及するのは、難しいわね」

「今回の件でRMSが例の娘達、そう『干支娘』とでも呼ぼう、それに対して警戒が発生していますか?」

 トクヒデさんの質問にあたしが答えを濁す。

「不自然に思っている人は、いる。ただし、母親が中佐なのよ。興味本位に手を出せる相手じゃないというのが一般職員の考えよ」

「上に睨まれたくないか。まあ、正直、あまり好きじゃない行動じゃないんだがな……」

 消化不良って顔をしながらもセブンが続ける。

「とにかく、問題は、人身売買に協力しているだろう『クリーンバッド』ってギルドをまだ正式に処罰できないって事だな」

 あたしが頷く。

「そうね。問題は、そこ。流石に直ぐに再開するとは、思えないけどほとぼりが冷めたら続行する可能性が高いわね」

 あたしは、いくつかの資料を見せる。

「この『クリーンバッド』って言うのは、表向きは、貧困若輩メンバーの採取の護衛を主に行っているギルドでね。貧民支援団体の寄付で成り立っている事になっているわ」

「それで実情は?」

 トクヒデさんの言葉にあたしが即答する。

「表向きの行動で失踪しても問題が少ないターゲットを選出して、支援団体の裏に居る人身売買組織に売り払ってるわね」

 黒と想定して調べれば、怪しい行動なんていくらでも出てくる。

 失踪したメンバーの多くが『クリーンバッド』の護衛経験があるメンバーだっていうのもその一つ。

 支援団体の資金の出所が表沙汰になってないけど過去何度も訴えられている会社のダミー会社だっていうのが決定的だ。

「限りなく黒に近いがグレーな以上RMSも国も手出しできないって所か」

 トクヒデさんの言葉が正鵠を射ている。

「ついでに言えばもううちの禿に圧力が掛かってる。黒と明確になってない以上、この件をこれ以上追及しないっていう方針が正式に通達されたわ」

 あたしの報告にセブンが歯ぎしりをする。

「実際に被害者がいるっているのに放置かよ」

 そんな中、今まで静かにしていた雪子が手を挙げた。

「『クリーンバッド』のPCW側の施設への調査は、普通に行われる可能性は、あったよね?」

 あたしが頷く。

「当然、というか、警察の失踪事件担当がこの情報を手に入れて直後、妨害前に立ち入り検査を強行したわ」

「その様子では、成果が無かった様ですね?」

 トクヒデさんの言う通りだ。

「鬼斬館の様なDFW側の施設に犯罪の証拠や確保している子供達を隔離しているでしょうね」

 あたしの予想にセブンが悔しそうに言う。

「ギルドが管理しているDFW側の施設への単独干渉は、RMSも行えないか」

 これは、ギルドが国からも大きく干渉されている事が関係している。

 ある意味、ギルドのDFW側の施設は、ギルド所属国の領地に準じている為、国とRMS両方の許可が必要になる。

 そして、それは、あまり現実的な話でない。

 RMSは、国と協力関係であるがそれ以上にどの国に対しても平等である事が求められる。

 その為、RMSと良好な関係を構成している国は、多くない。

 少なくとも自国民の安全を最優先する日本と塵獣排除が第一のRMSとは、常に懸案事項が発生してる状態である。

 具体的に言えば義務教育終了までメンバー登録を暗黙的に認めないって奴は、RMS側からは、懸念の声が常に上がって居たりする。

 そんな状況でその暗黙制限前後のメンバー失踪事件の調査をするとなれば、否応なくその暗黙了解の件が議案にされて進展しないだろう。

 詰り、ギルドのDFW側施設というのは、ある意味不可侵領域になる。

「これから話すのは、もしもの話なんだけどさ。『鬼斬』が実践を想定した訓練として事前に塵獣の行動を制限する壁を作って大量の塵獣と戦うとした場合、『クリーンバッド』の施設が面した箇所に壁を作らない場合って何かの規定に引っ掛かる?」

 雪子の言っている意味が解らなかった。

「どういう意味でそんな質問を?」

 あたしがそう聞き返すとFDW側の電子地図を広げ、『活力の草原』に隣接した『クリーンバッド』の施設の線を西方の壁にする様に逆側の地域を大きく囲う壁を描いて見せる雪子。

「こんな事をしたら、『クリーンバッド』の施設が塵獣の被害にあう可能性が出るわ」

 あたしの言葉に雪子が頷く。

「だけどRMS側も『クリーンバッド』の施設には、干渉出来ない以上、その状態で『活力の草原』への塵獣の逃走を許さない場合、『クリーンバッド』の施設を囲う形にならない?」

 さらに『クリーンバッド』の『活力の草原』側に別色の線を引いた。

 その意図が読めて来た。

「ギルドがFDW側に施設を保持する条件として自衛が前提だ。間違ってもこの様な事をされたからと文句を言う事は、ゆるされないな」

 トクヒデさんの言葉にあたしが続ける。

「そうね。RMSとしても新兵が多くいる『活力の草原』に強い塵獣が漏れないようにしないと。でも言う通り『クリーンバッド』の施設には、干渉できないからその境界線を警備するしかないわね」

 そんなあたし達の会話を聞いてセブンが冷めた表情を浮かべる。

「あのなー、明らかにこれは、『クリーンバッド』の奴等に塵獣を押し付けて上、逃げようとしたところをRMSに押さえさせようって作戦だろう」

 雪子は、あっさり頷く。

「そうだね。相手が政治上の摩擦を盾にするならこっちもルールの穴を使わない理由ないよ」

「この作戦だと、囚われた新兵たちに危険がある。認められない」

 それに対して雪子は、断言する。

「あちき達が『クリーンバッド』がビビる程の塵獣の大群をその目の前で殲滅してやれば良いんだよ」

「そんな事が可能だと思っているのか?」

 セブンが真剣の表情で言うと雪子が強く頷く。

「出来ないきゃ言わない。それに何より、お父さんは、自分達の秘密を守る為に囚われた子達を見捨てられるの?」

 セブンは、まず痛い所を突かれたって顔をし、次に悩み、最後には、大きなため息を吐く。

「最終防衛ラインは、俺が担当する。これは、ギルドマスター決定で反対派は、認めないぞ」

 本当に不器用な奴。

 だからこそあたしは、好きだった。

「RMSのMセクションの人達も今回の事は、不満を感じてたからきっと協力してくれるわ」

 こんなセブンの手助けをしてしまう自分もまた不器用なんだと思う。

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