壬/会うのが楽しみだ!

『001_壬/会うのが楽しみだ!

/2040/12/12

/PCW/日本東京大田区/鬼斬拠点

/スケット 徳川秀吉中尉』


「何でお前までついてくるんだ? フィリピン復興の方は、良いのか?」

 セブンが迷惑そうな顔で言ってくるので私は、笑顔で言う。

「そう邪険にするな。私もお前の娘の顔を拝見したいんだからな」

 大きなため息を吐くセブンと共にフィリピンでも事務手続きを終え、日本に帰国。

 成田空港から直行便で武蔵小杉へ、そこで乗り換え、高級住宅地として有名な田園調布の一つ前の駅で乗り換えが殆どの中、駅を出て少し行った所に昔の社員寮を思わせる建物の前に私達は、立っていた。

「古参ギルドの本拠地だったとしては、少しこぢんまりしているな」

 私の感想にセブンが淡々と言う。

「あくまでPCW上での拠点でしかないからな。書類上の所在地用の建物で実際は、殆ど使ってない。ガキの頃は、使われていない部屋の掃除をよくやらされてたよ」

 そんな会話をしていると一人の少女が顔を現れた。

「小田一二四大尉ですね? あちきが雪母の娘、武田雪子です」

 丁度今日十歳になると聞いているが日本人平均より成長が遅れている様にみえる。

「それにも訳があるんですよ」

 武田雪子がまるで私の心を読んだように言って来た。

「自己紹介は、必要かな?」

 私は、敢えてそう問いかけると武田雪子は、首を横に振る。

「小田一二四大尉と親しい医師という恵まれた立場からスケットに転身された徳川秀吉中尉で間違いないですよね?」

「そうだ。正直、名前は、好きでないのでトクヒデとでもよんでくれ」

 私がフレンドリーを装うと武田雪子が尋ねてくる。

「トクヒデおじさんとトクヒデお兄ちゃんとどちらが良いですか?」

「トクヒデさんで頼む」

 私の答えを聞いてから武田雪子は、セブンの方を向いた。

「小田一二四大尉は、なんとお呼びすれば?」

 セブンがかなり複雑な顔をしている。

「お前が呼びたいように呼べば良い」

「お父さんでも?」

 武田雪子の問い掛けは、ある種当然の物の筈だ。

 幾ら初めてあったと言っても血縁上は、間違いなく父親なのだ。

 この年頃の子供は父親を求めるのは、普通の反応なのだが、それに対するセブンの対応に違和感があった。

 所謂、知らなかった子供との初対面って感じでは、無かった。

 スケットなんて根無し草をやっていれば一夜の交わりで出来た子供と遭遇父親なんて奴は、何人も居た。

 そういった連中が見せる表情とセブンのそれとは、明らかに違った。

 嫌悪感がそこにあった。

 暫くの沈黙の後、武田雪子がこっちを見た。

「巻き込まれる覚悟は、あるか?」

 雰囲気が明らかに変わった。

「あると言えば?」

 私の言葉にセブンが怒鳴る。

「トクヒデ!」

 私は、セブンの顔を直視する。

「パーティーを組んで居たわけでもない。それでもお前とは、戦友のつもりだ。その戦友が抱えたトラブルぐらい一緒に背負ってやるさ」

「良い覚悟だ。ここで立ち話もなんだから、一応の応接室で話そう」

 そういって武田雪子は、建物の中に案内する。



「スノーからは、詳しく聞いてないだろう?」

 武田雪子の問い掛けにセブンがあからさまの嫌悪感を籠めて言う。

「ああ、まだガキだったスノー達を良い様に利用したあんたの現状は、聞いてないな」

 利用したというのは、どういう意味だ。

 まるで読めない状況に武田雪子が言ってくる。

「私の前世は、招猫万五郎。門下生のスノー達を正に使って若さを手に入れる実験で古い体の束縛を逃れた者だ」

 その一言でバラバラだったいくつかのピースがくっついた。

 そして理解したセブンが嫌悪する理由を。

「許される行為だと?」

 私の問い掛けに武田雪子は、苦笑する。

「古い体の私は、そういった束縛を嫌った。猫万を完成させる為ならばどんな手段も厭わないそんな男だったよ」

「過去形ですませるつもりか?」

 セブンの声には、明らかな怒気が含まれている。

「過去さ。スノーがどういったか知らないが招猫万五郎が若さを手に入れるのには、失敗したのだからな」

 武田雪子が冷めた口調で言った。

「それじゃあ、お前が招猫万五郎の記憶をもって居ないって事か? スノー達を騙しているのか?」

 セブンの追及に対して武田雪子は、首を横に振る。

「記憶は、あちきだけは、ある。まあ、大本の猫万の事から説明しよう。あれは、世界大戦の時に亡くした四人の兄から引き継いだ知識、技術の集大成だ。それ故に引き継いだ私は、それを極める責任があると考えていた。例え、外道と呼ばれようと、元の体を失おうと。だが選ばな過ぎた手段が目的の意味を失わせた」

 その瞳には、十歳の少女には、決して出せないだろう哀愁があった。

「あちき以外の私は、折角継承した招猫万五郎の記憶を放棄した」

「どういう意味だ? まるで話が見えないぞ!」

 困惑するセブンに武田雪子は、淡々と説明する。

「通常、前世の記憶の大半が自我の発達と共に消える。新たな知識体系を構築するのに古い記憶は、邪魔でしかない。あちき以外のお前の娘達は、猫万を極めるのに有利だという理由で猫万の以外の招猫万五郎の情報を残らず捨て去ったんだ」

 武田雪子は、自分の胸を押さえる。

「猫万を極めたいと言う根本には、兄たちへの敬意があった。それを無くして極めて目的を達成したと言えるのか?」

 私の中に一つの疑問が浮かぶ。

「どうして貴女だけが記憶を残したのですか?」

 武田雪子は、大きなため息を吐く。

「新しい体の影響だよ。あちきは、前世の招猫万五郎が出来なかった妥協が出来る。それ故に真の目的、兄たちへの敬意を失わない出来る範囲で極めるって妥協を受け入れられた。皮肉な話だよ、招猫万五郎の記憶を残したあちきが招猫万五郎らしさである妥協知らずを失っているのだからな」

「神の采配だろう。人として間違った手段では、決して真の目的を達成する事が出来ないと知らしめる為のな」

 私の言葉に武田雪子は、天を仰ぐ。

「神の采配か? 世間から世紀の天才と呼ばれた私も、人の身だったという事だな」

「セブン喜べ、今しゃべっているのは、ただの亡霊だ。お前の娘は、間違いなくお前の娘だ」

 私の出した答えに武田雪子は、否定しない。

「そうなのかもしれないな。そうだとしてもこの想いがある限り、目的に向かって進むつもりだ」

 それに対してセブンは、怒鳴った。

「偉そうにするな! 前世が何だったか何て関係ない。お前達は、スノー達が産んだ俺の娘だ! 親として真っ当な生き方をさせる! 今まで放置してたぶん厳しくするから覚悟しろよ!」

 武田雪子は、キョトンとした顔をしていた。

「不思議な感覚だ。私は、若造が生意気だと思っているのに、あちきは、安堵を覚えている」

「それが親子ってものだ」

 私の指摘に武田雪子は、微笑む。

「それじゃあ呼び方は、お父さんで決定ね」

「好きにしろ」

 恥ずかしそうに顔をそむけるセブンであった。

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