第18話※

あれから何も言われる事も無く、何事も無かったように何時もと変わらない日々が過ぎて行き、春休みに入った。そして、塾に入る為の新しい試験問題を作って欲しい、と美弥子に頼まれ、鮎川宅に連日泊まり込みで製作していた。なんせ、幼稚園児から大学生の各学年をひとりで作る為、流石に時間が掛かる。この日は新中学2・3年生用の問題を作り上げた。


「終わった〜〜〜!」


思いっきり背伸びをすると、畳に倒れ込む。雲一つない良い天気だったので、暖房を弱にしていて丁度だ。夕日が部屋に差し込み躰を包み込む。うとうとし始めていると、耳に息とヌルついたモノが這い、眠くて瞼は開かないのに、躰が反応した。


「お疲れ。半分は終わったみたいだね」


返事を返したいが唇は塞がれて舌が口内を犯し、舌を絡め取る。ほんの少し開けれた瞼に入って来たのはスーツ姿の匠馬。髪が乱れている様な感じと匂った事の無い香りが鼻についた。『今日は早かったね』微笑むと躰がふわりと浮き、…気づけば匠馬のベッドの上。時計を見れば畳みに倒れ込んだ時より2時間程進み、熟睡出来たようで、頭はスッキリしていた。メガネを掛けて躰を起こせばコタツの上にA5サイズのスケッチブックが。何気にそのスケッチブックを開けば、手描きの指輪のイラスト。ピンクダイヤが3つ並んだ可愛いデザインで、指輪の幅やダイヤの大きさなどの詳細が書かれている。次のページはひまわりと紳一さんにプレゼントしたラリエッタが描かれており、前の指輪同様、明細が事細かに書かれていた。デザインまでも熟すのか、と感嘆のため息を吐いた処で部屋のドアが開き、匠馬が顔を覗かせた。


「あれ、起きて、っ!!!」


匠馬は入って来るなり智風がスケッチブックを見ている事に気付き、素早い動きでそれを取り上げると


「見た!?」


「見た、けど。見ちゃダメだったの?」


「いや、駄目って言うか、その、恥ずかしいから!」


余程恥ずかしかったのか、匠馬は顔を赤らめながらスケッチブックを後ろに隠した。こんな慌てふためいた匠馬を見る機会など滅多に無い。少し意地悪してみたくなり


「他のページ描いてないの?」


とスケッチブックに手を伸ばしたのだが、上手くかわされ抱き締められると同時、メガネを取られる。簡単に捕まえられるのも悔しくて、攻撃に出る事にしたのだが


「匠馬が真っ赤」


「うるさい。ボクだって見られたくない物だってある」


目を一層細めた匠馬が、短いスカートの中に手を忍び込ませてきた。その素早い動きにも驚くが、智風は自分が下着を着けていない事に気づき驚く。


「ちーがイジワルするから、ボクも仕返ししなくっちゃ」


「え?あっ、」


足を閉じられない様に旨い事秘部に手を持って行き、胎内ナカに滑り込ませる。


「さっき1回シたの覚えてる?ほら、まだココ潤ってるからすんなりと指はいっちゃう、ね。下着履かせないで正解だった」


「いやっ、やぁ、ん、あっ、あん」


グチグチと音を立てるように胎内を掻き混ぜ、智風の思考を一瞬にして鈍らせていく。


「もっと、ボクを感じて…」


耳朶を甘噛みし、輪郭をなぞり、穴に舌を挿し込む。智風は躰を捩り逃げようとするが、上から圧し掛かられ身動きが取れない。その上、熱を持ち硬くなった塊を智風の手にぐりぐりと押し当てる。一瞬、驚いて目を見開いたが顔を真っ赤にしてギュッと目を閉じ、必死で顔を背けた。


「今度はちーの方が顔が真っ赤だよ?」


首に舌を這わせ軽く歯を立てると、ヒクンッと躰が弓なりに撓った。


「あっ…、はっふぅ……」


「喉に噛みつかれて軽くイっちゃった?ちーはMッ気があるの?」


くくっと喉を鳴らし笑いながら、智風のカシミアのセーターを胸までたくし上げると、ブラ越しに乳首に噛みついた。


「ひゃぁ、ん、んーーー!」


痛いだけの行為でしかないのに、何故か快感になって体中を駆け巡り、喰え込んでいた指をもっと奥へと誘い込む。


「何?もっと奥、指でイジって欲しいの?」


匠馬は指で胎内をグチュグチュと音を立てて掻き混ぜながら、赤い痕を付けてはその場所に歯を立てた。


「やぁーーー!も、んぅっ…、ダメぇっ、イっちゃった、からぁっ、やあ、あ…!」


「ん?イっちゃったから、何?」


「も、もう無理っ、むり、…な、の、…ん、くぅっ…」


「無理って言ってる割にはボクの指放さないのは、ちーのエッチな下のお口でしょ?…ほら、」


「あ、ふっ…ぅ、やぁ、あっ、ま、また、イっちゃ、うっ!」


指でいとも簡単にイかされ、堪らず目尻から涙が溢れ出た。その涙を舌で舐めとると、その美味しさに匠馬は顔を綻ばせ、ぬちっと音を立てて指を抜く。指に付いたてらてらと光るその蜜をぺろり、と美味しそうに舐めた。その顔といい、舐め方といい、いやらしくて直視できない。匠馬は脱力しきり、くったりとしている智風を見下ろし膝立ちになると、腕を引き向かい合うように座らせた。履いているスウェット生地のルームパンツから熱を持ち立ち上がった塊を取り出すと、智風に握らせた。


「え!?」


急な事に思わず智風は腕を引っ込めるが、匠馬はそれを許さず。


「ま、まって、よ…」


「待ったら何かイイ事してくれるの?あ、パイズリってして貰った事無いから、そっちでもいいな。それか」


「わかったからぁ!」


涙目で見詰めて来る智風の顔が可愛くて匠馬の頬は緩みっぱなしだが、それどころでは無い智風はそ〜っと塊に指を近づけていった。触ってみると、熱を持っている塊に緊張してしまう。やたらと最近、色々と“勉強”をさせられ(特にゴムを着ける練習)直視する回数が増えた。幸い、メガネを掛けていないので、ぼんやりと見える程度ですむところは有り難い。しかし、何度見てもグロテスクだと思うし、触っていて折れたらどうするんだろう、と思ってしまっていた。


「ここ、握ったら上下に手を動かしてみて」


「こ、こう…?」


「ん、もっと強くしていいよ。っ…」


急に匠馬の顔が苦しそうな表情に変わり、慌てて握る力を緩めた。


「い、痛いの?」


「え?全く痛くなんてないよ?っていうか、反対に気持ち良いんだけど」


「ほんとに!?折れたりしない!?」


「ぶっ!もしかして、ずっとそれ考えてたの?」


こくり、と頷く智風が可笑しく、匠馬は笑いを噛み殺す。


「骨も無いし、余程の事されなきゃ大丈夫だよ。だから、多少強く握られても、扱かれても大丈夫。ほら、手が止まってる」


説明に納得し、智風は恐る恐る手を動かし始めた。柔くなっていた塊が、また硬さを取り戻すと、先っちょから透明な液が出始め、匠馬の息が荒くなった。何時も涙目ではっきりと見た事が無く、匠馬がどんな顔をしてイくのか知らないし、与えられる快感で余裕が無く、彼がどんな声を出すのかも余り聞き取れていない。くっと妙に色っぽい声を出され、ドキドキしてしまう。暫く上下に動かすとガチガチに硬くなり、一瞬、匠馬が呼吸を止めた。すると、どくん、と波打ち精液が智風の腹とスカートに飛び散る。塊から手を放し思わず吐き出された精液を指で触ってみると、ヌルヌルとして何とも不思議な感触だった。これが精子か…と感心してしまう。また、イった瞬間の匠馬の顔。男の人でもこんなに色っぽい顔をするんだ、と思ったが口に出すと変な事をされそうなので、黙っておく。


「ちょ!君はそんなモノ触らなくていいの」


と匠馬は掛けてしまった精子をティッシュで拭き智風を軽々と抱き上げると、風呂場に連れて行った。


「ね、手でするのも気持ちいいなら、毎回手でしてあげようか?」


「…手でしてくれるのは生理中だけとします」


躰がもたない!と意義を申し立てようとすれば唇を塞がれ、そのまま1ラウンド、2ラウンドと。


智風の意識はぷつり、と途切れた。


「…ん、」


抱き枕にされて寝苦しさに智風は目を覚ました。


美弥子の買ってくれた匠馬とお揃いのパジャマを着せて貰っている。シルク素材のパジャマで、着心地が良いだけでなくとても軽いが何も出来ない自分には勿体無い代物だ。こんな自分が着たって似合う訳無い。そこら辺に売っている1000円程度のパジャマがお似合いの安い女なのに。ブラだってそう。美弥子が業者を呼び、採寸をしてからオーダーメイド品を着ける様に。確かに胸も楽だし、形も良くなった様に感じる。お返しも何も出来ないのに。ふぅっとため息を吐くと腕から逃れ、階段を下りて台所へ向かう。冷蔵庫を開けると冷えた水のペットボトルを取り出す。2リットル1000円もするのだそうだ。たかが水にこんなに掛けるのか、智風には不思議でたまらないのだが。


椅子に座り、水を一口飲みそのコップをぼんやりと眺めた。苛められていたあの頃投げかけられた『ブス』という言葉。陵にあの本を進められて『お前にぴったり』と言われ、匠馬に玉砕した彼女の言葉。終いには『あんたにぴったりな話』と言われて、どんよりとした雲が智風を包み込んでいた。まぁ、自覚はしていたが、面と向かって言われると正直堪える。やはり、匠馬が言ってくれる言葉は同情なのか、と笑えてきた。


「ちーちゃん?どうしたの?こんな時間に。それにそんな薄着で…」


顔を上げれば、美弥子が心配そうに覗き込んでいる。


「え?喉が渇いてしまって…。それに、床暖房入ってるんで寒くないですよ?」


「そう?でも、私の可愛い娘が風邪なんてひいたら大変だからコレ羽織って」


カーディガンの上に羽織っていた大判のストールを智風の肩に掛けた。


「す、すみません…、あ、お水飲みますか?」


「ん、そうね。じゃぁ、1杯頂戴」


水屋からコースターとコップを出して水を注ぐと、美弥子は一気に飲み干し


「何かあったのね?」


智風を見詰めた。何かあるとすぐに“話してごらん”と寄り添ってくれる美弥子は本当の親のようで、姉のようで。心地好すぎて、少しだけこしょばゆく感じてしまう。しかし、こんな事を話すべきなのだろうか。だが、話さなければ心配するだろうし、何もない、と言えば匠馬に聞くだろう。そうすれば、心配する人が増えていく。迷惑をかけたく無いけど、と伏し目がちに話始めた。


「この前、英語の答案が返って来たんですけど、クラスの平均点が下がってたんですね。で、先生が本を英文にする課題を出されて。図書館で本を選んでる時に、大河原くんが“醜いあひるの子”は、あたしにぴったりな話だって…。それに、クラスメイトにもその通りと言われてしまって、」


眉間を抑え、美弥子は大きくため息を吐いた。


「で、ちーちゃんはどう捉えたの?」


「…あたしは醜いんだって言われたと…」


ぎゅっと上着の裾を掴み、俯いた智風に美弥子は小さい声で、そう捉えちゃったか、と呟いた。


「題名が醜いと付いて、苛められて過ごすあひるの子の話だものね。…でもね、あひるの子は最終的には綺麗な白鳥になって、自分に自信を持って終わるわよね?ならさ、こんな考え方も出来ない?陵君はさ、ちーちゃんはもう白鳥になってるって言いたかったって」


違います、と言いかけ、智風は口を閉じた。そう言えば、モノは考えようでしょ?と言われ、堂々巡りになってしまうのは目に見えている。


「私ね、小学生の頃からニキビが酷くって、同級生の子に気持ち悪いから寄るなって言われた事があったの。本当に酷くってね、爛れてたし。皮膚科にも通ってたのよ。だから、ちーちゃんとか匠馬の綺麗な肌見ると“羨ましい!”って思っちゃう」


「え?お母さん、そんなに酷かったの?」


「うん。それって今だから笑って話せるけど、あの頃は本当に辛くって。その時に一志に会ったの。ニキビ酷いし、見られたくなくって下向いてたら『美弥は可愛いよ』って会う度に言ってくれてね。…やだ!何か惚気になっちゃった!」


ほんの少し頬を赤く染めた美弥子は手で頬を覆い尽くす。


「もう、何言いたかったか忘れちゃった!だから、ちーちゃんも気にしないで、前向きに!」


余程恥ずかしかったか、美弥子はそう言うと椅子から立ち上がり


「ちーちゃんも早く寝るのよ!」


と出て行ってしまった。あんな可愛らしい一面を持ち合わせているとは。智風から思わず笑みが零れる。


そう、前向きに。分かっていても…。


ふぅ…と長いため息を吐いて智風も2階に上がって行った。ベッドに入ると直ぐに匠馬に抱き締められ、瞼が重くなる。匠馬の匂いは精神安定剤なのかな、そんな事を考えているうちに智風は眠りに落ちた。

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