番外編 究明者

「ねぇ、これでよかったのかな?」

森の上空、有栖川ありすがわとミノリの、一連の会話を見たノビーは、レーナに問いかける。

「ん?いいんじゃないか?」

真剣に悩んだ表情のノビーに対して、レーナはそっけなく答える。

「ちょっと!真面目に答えてよ!」

「有栖川が自分で決めたことだ。私たちが口を出すことじゃない」

「そうだけど・・・もしかして、SOLAソラのみんなも同じだったのかなって思って・・・」

「ん?同じってどういうことだ?」

「ほら、ミノリちゃんが有栖川ちゃんに聞いてたでしょ?仲間になるか、記憶を失うかって」

「そうだな」

「きっと、ミノリちゃんや真一も、そうやって選択を迫られて、SOLAに入ったのかなって思って・・・」

「なるほどな・・・」

ノビーは思いつめたような表情で少しうつむき、レーナは腕を組んで眉をひそめる。そのまま、しばらくの沈黙が流れた。

「悪鬼に襲われなければ!」

先に沈黙を破ったのはノビーだ。彼女は叫ぶように、吐き出すように、言葉を続ける。

「ミノリちゃんは、音楽で成功できたかもしれない!雅輝さんは弓道や勉強で、大智くんは機械作りで、真一は・・・あの子なんか、何でもできちゃうね。そうやって、みんなそれぞれ幸せになれたかもしれないのに・・・」

「それなのに、その幸せを捨てて戦いに身を投じるのはどうかって話か?」

ノビーは静かにうなずく。

「みんなあんなにすごい子たちなのに、何か、悲しい」

「戦いなんて、誰だって本当はしたくないはずだ。だが、みんなそれが分かって選んだことだろう。後悔はないはずだ」

「・・・」

「だが・・・御月、あいつだけは違うかもな」

「御月さんが?」

「あいつは、自ら望んで戦っているだろう。あいつは戦闘の「天才」だからな。後悔はないどころか、戦ってない自分をもう認められないだろう」

ノビーは、そのレーナの言葉を聞いて、何も言えなくなってしまった。

「御月は、あいつらの中でも一番年上で、みんな御月を慕っている。きっとミノリたちは、御月を一人にしたくなかったのかもしれないな」

「御月さんを一人にしないために、みんな戦ってるの?」

「そういう所もあるかもって話だ。私はあいつらじゃないし、心が読める訳でもないからな。・・・・にしても」

「ん?どうしたの?」

「あの悪鬼ってやつは、どうして心の強い人を襲うんだろうな?」

「どういうこと?」

「おかしいと思わないか?悪鬼には人格があるようには感じない。それなのに、わざわざ強いやつを狙うなんて、生物としておかしくないか?」

「どういうこと?」

「普通は弱いやつを襲うはずだろ?」

「心の強い人を食べて、自分も強くなりたいとか?」

「だったら、弱いやつをチビチビ食べて少しずつ強くなろうとするやつもいるはずだ。それすらも、あいつらにはないんだ・・・」

「・・・」

「より強いやつの元にゾロゾロと集まっていく悪鬼は、もしかしたら、誰かを探してるんじゃないのか?そして、あわよくばそいつを殺したいと思っている」

「その誰かって?」

「さぁな。それまでは分からん」

「でも、そうなってくると、SOLAってもしかして、その誰かの存在を悪鬼から隠したいのかな?」

「それもありえるな」

「心の強い人を一箇所に集めて、悪鬼を騙して、そして狩っていく」

「そういう思惑もありそうだ」

SOLAに入った理由、あったかもしれない未来、悪鬼が人を襲う理由、SOLAの存在意義。様々な謎や考えが二人の頭の中を駆け巡る。

「まぁ、考えても仕方ないな!そろそろ帰るか」

レーナはくるりときびすを返した。

「これはあいつらの問題、本当なら、私たちが首を突っ込んでいい問題じゃないんだ」

そう言うと、レーナはスッと姿を消し、自分の世界へ帰っていった。

「ちょっと、待ってよ!」

後を追うように、ノビーも帰ろうとする。


ノビーは帰る直前、チラリと後を振り返る。そこには、記憶を消されて倒れた有栖川を運ぶ、SOLAのみんなの姿が見えた。悪鬼がいなければ戦うこともなかった少年少女たち。しかし、悪鬼がいなければ出会うこともなかった少年少女たち。彼らは幸せなのか、不幸なのか。ノビーは、それを決めるのは自分ではないと分かっていた。しかし、それでも消えないもやもやした気持ちを抱えて、彼女は自分の世界へ帰って行った。

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