第45話 ミノリの告白

「・・・だめだ、動けない」

悪鬼を討ち倒し、真一は地べたに仰向けになって倒れていた。先ほどまで体を守ってくれていた【まこと】の効果はとうに切れ、体は無理をした反動で動けなくなっていたのだ。

「でも・・・・勝ったぞ・・・!」

真一は満足げに空を見つめる。そこにはもう、悪鬼の姿はなく、ただ美しい空が広がっていた。あぁ、ここから見る空はこんなにも綺麗だったのか。そう思うと同時に、それを一緒に見たいと思う一番大切な人を思い浮かべる。

「ミノリ・・・」

ミノリは、自分の勇姿を見てくれただろうか。いや、見たに決まっている。あんなに頑張って悪鬼を倒したのだから。それに自分のための新しい曲まで作ってサポートしてくれたのだ。もう、これはミノリとの関係の進展を期待してもいいのではないだろうか。真一は妄想に耽る。

「おーい!!」

遠くから仲間の声がする。

おそらく、大智の遊浮王ユーフォーに乗って、急いで来てくれたのだろう。疲弊した真一にはもう、誰の声なのかも分からない。

「真一ぃぃぃ」

近づいて来る声はとても必死で、今にも泣き出しそうな声色だった。真一は必死の思い出起き上がり、声がする方向を向く。

「聞こえてるよ・・・僕は大丈ぶわっ!!」

起き上がった真一は、その声の主によって押し倒されてしまった。

「いったぁ・・・何すんんっ!!」

押し倒されたことに文句を言おうとした真一は、驚いて言葉を失った。彼の心臓は、爆発しそうなほどにバクバクと激しく鼓動していた。変な汗をかき、腕も足も痙攣し、顔は真っ赤になっていた。それには、彼を押し倒した人物に原因があった。

「ミ・・・・ミノリ!!??」

「よかった・・・真一・・・無事でいてくれたんだね・・・」

真一を押し倒したのはミノリだった。ミノリは真一をしっかりと抱きしめ、涙を流しながら喜んでいた。

「あ・・・あぁぁぁ・・・」

ミノリだ。ミノリが僕を抱きしめている。真一はもう頭がパンクしそうになっていた。ミノリの髪の香り、ミノリの体重、ミノリの腕の柔らかさ、その奥に感じる確かな骨格、そしてミノリの温かさ。その全てを間近で感じ、真一はえも言われぬ幸福感に包まれた。それはまるで、天にも昇るような気持ちであった。

「ゴメンね真一、魂楽多重奏こんがくたじゅうそうまこと】は、一時的に傷を癒す技・・・本当に傷を治す技じゃない・・・効果が切れれば、また傷は戻っちゃうの。ゴメンね、真一に全部任せて。でも、そうさせるしかなくて・・・。それでも、無事でよかった。真一がいなくなったらって思うと、私・・・」

この状況は、真一が夢にまで見た状況と同じであった。自分の妄想では、次な何て言う予定だったろうか・・・。真一は必死に言葉を探す。

「だ・・・大丈夫だよミノリ。僕が・・・・死ぬわけないだろ?・・僕は、つ、強いんだから」

真一は必死に言葉を探しながら、たどたどしく答える。

「真一・・・」

そう言うと、ミノリは腕を解き、真一に覆いかぶさるような形になり、彼を見つめる。

「本当だね。真一は、本当に強くなった。初めて会ったとき、一人で戦うことにこだわっていた時の真一とは、もう別人だね」

「そ・・・そんな時も、あったな」

「うん。でも、今の真一は、仲間を、私を信じてくれる。自分から先頭に立って、みんなを守ってくれる真一の姿を見て、私、感動しちゃった」

「ミノリ・・・」

「私、そんな真一を見て・・・思ったの」

ミノリは頬を赤らめた。一瞬、ためらいと不安の表情を見せ、視線を真一から逸らした後、決意を込めたようにまっすぐに真一の目を見て、言葉を続ける。

「私ね!真一のこと・・・!」

これは!!!

まさかとは思ったが!自分の勇姿を見て、ミノリが自分のことを好きになってくれたのだろうか!?

真一の頭の中を、物凄いスピードで妄想が駆け巡る。

告白されたら何て答えようか、どう答えたらかっこいいだろうか、初デートはどこに行こうか、どんな格好をしようか、ミノリと一緒に見る景色、ミノリと一緒にやること、ミノリと一緒に過ごす時間。その全てをあらゆるパターンで妄想し尽くした。


「真一のことがs・・・・!!」

その瞬間、夜が明け、昇り始めた太陽が森を明るく照らし出した。

朝日の眩い光に真一とミノリは一瞬目を伏せた。その後、徐々に目を開き、太陽の方を見た。太陽を中心に赤みを帯びた空一帯にが広がり、夜の青を飲み込んでいく。草木は朝露に煌めき、葉は光を浴びてその緑をより鮮やかなものとした。


その暖かな光に全身を包まれ、真一たちは言葉を失っていた。

必死に戦った後に迎えた朝日が、こんなにも美しかったことを、今まで知らなかったからだ。


♪〜


呆然とする真一たちの後ろから、歌が聞こえた。

それは、戦いの勝利を祝うような、美しい歓喜の歌だった。

誰の歌かはもう分かりきっていた。こんな素晴らしい歌声が出せる人物は1人しかいない。有栖川だ。


真一たちは起き上がり、有栖川の方に向き直る。そう、まだ終わりではなかった。有栖川の今後のことを、真一たちは決める必要があったのだ。


有栖川はSOLAの人間ではない。SOLA以外の人間に、悪鬼のことを知られてはならない。

悪鬼を知ってしまった人間の選択肢は二つに一つ。

SOLAに入隊するか、悪鬼やSOLAに関する記憶の一切を失うか、だ。


有栖川は迷いのない笑顔で真一たちに近づき、やがて歩みを止めた。

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