第43話 最強の支え

『すごい・・・本当に耐えてくれました・・・』

戦いの様子を見て、通信の先で驚愕する晶子あきこ。その、呆然とする彼女のマイクを奪って、鉄也てつやは叫ぶ。

『いやまだ終わりじゃない!!ほうっておくと第二波が来るぞ!』

真一は、当然そんなことなど分かっていた。先程の悪鬼の攻撃の様子を見ると、次の攻撃までの猶予はあまりない。

「僕が決める!」

真一は魔力の盾で吸収したエネルギーを全て堅牢剣けんろうけんの刃にまとわせる。刃は白銀に輝き、巨大なエネルギーの剣となった。真一は悪鬼を真っ直ぐに見つめ、足を踏み込んだ。しかし。

「!?・・・」

真一はガクリと腰を落とし、地面に膝を付いた。立ち上がろうにも足は岩のように重く感じられ、どんなに動かそうとしても力が入らない。悪鬼の歌を防いだことが、真一の体に相当な負荷をかけていたのだ。身体中の筋繊維がちぎれ、血管が破れているのを感じる。悪鬼を討とうにも、もう、攻撃を届ける手段がない。ここまでか・・・。


『諦めないで!』


真一の頭の中に、直接声が届く。有栖川の声だ。彼女は未だに懸命に歌っている。勝利を願う、祈りの歌を。彼女のその心が、ミノリの音を通じて真一の心に届いたのだ。

『立って真一!私はさっき諦めなかった。それはあなたのおかげ。だからあなたも諦めないで!絶対勝って!』

彼女の心が届くと共に、さっきまでみんなを守っていた光が、真一の周囲に集まり出した。

「美味しいところだけ取ろうなんて真似はしませんから、ガツンと決めてきてくださいね!」

「本当は俺がひとっ飛びして・・・ってしたいけど、今回は真にぃに任せたよ!」

雅輝と大智も、真一が立ち上がることを信じている。しかし、治療する時間も道具もない今の状況では、もう指の一本も動かすことができない。


『大丈夫、無責任に信じてる訳じゃないよ』


ミノリの声だ。それを聞いて、真一はハッと顔を上げる。

ミノリはありったけの魔力を込めて曲を奏でる。力強く、しなやかで、勇気の湧き上がるような曲を。

『これは、真一のための曲。みんなを守ってくれる真一を守るための曲。さぁみんな!真一を守るよ!』

ミノリは皆に呼びかける。それと同時に、彼女の音を通して皆の魔力が真一に集まってくる。

『みんなの力を真一に預ける!魔力を束ねて、繋いで、強化する。行くよ・・・ひびけ、魂結たまむすびのふえ魂楽多重奏こんがくたじゅうそう 【まこと】!』

真一の周囲の金色の光は彼の体を覆い、傷を癒やし、体力を回復させる。

『みんなの魔力、それにアリスちゃんの不思議な力とレーナさんたちの力を束ねた曲だよ。・・・一時的にしか保たないけど、真一の体を守る!今の内に、やっつけて!』


ミノリからの、愛する人からの、一番大切な人からの声援を受けて、それでも立ち上がれないような、真一は、そんな情けない男ではなかった。彼女からの声援は真一の心を熱く燃やし、彼女の曲は真一の体を癒す。


もう、怖いものなど何もない。ミノリの支えがあれば、自分はなんだってできる。そう信じることができた。

真一を覆っていた金色の光は刃を伝わり、白銀の刃を金色に変える。真一はもう、地面に膝を付いてはいない。どっしりと大地を踏み締め、力強く剣を構える。


悪鬼は魔力を充填し、次の攻撃の準備をすでに開始している。しかし真一は、全く動じていない。真っ直ぐに悪鬼を見据え、言い放つ。

「行くぞ、有栖川の偽物野郎!斬り伏せてやる!・・・・はなて、堅牢剣けんろうけん!!」

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