第42話 みんなで奏る歌

魂楽多重奏こんがくたじゅうそうやしろ】!』

ミノリは、SOLAの隊員全員の心を調和させ、【社】の魔力を形成する。その防御に特化した【社】の魔力によって、真一の盾を強化した。

『ありがとう、アリスちゃん。あなたのおかげで、私も力が使えるよ』


ヒュヒュヒュヒュン! ドドドドッ!


4本の矢が光の壁の周りに突き刺さる。

十二弓演武じゅうにきゅえんぶ 四結しけつ!」

雅輝まさきの声だ。

矢から発せられる魔力は結界を作り、光の壁を補強した。

「何も防御は真一くんの専売特許じゃないんです。私も、力になりますよ!」


「あーみんなずるいぞー!俺だって!」

大智だいち遊浮王ユーフォーから伸びるマジックアームを6本全て使って、光の壁の崩れそうな所を支えている。

「有栖川ちゃんの歌、とても綺麗だ!もっと聴いていたい。だから負けないで、歌い続けて!」



「おい、これ何かする流れか?」

「そうなんじゃない?」

レーナの問いに、ノビーは答えた。傍観する気満々だったレーナは、この場の雰囲気に圧されているが、ノビーの方はもう完全に受け入れていた。

「で、どうする?私は別に見てるだけでもいいと思うけど?」

ノビーの問いかけに、レーナは顔をしかめる。

「お前なぁ、分かってて言ってるだろ!」

「えへへ。で、どうするの?」

レーナは深いため息をついた後に、カッと目を見開いて言い放つ。

「ここまで来たからには、最後まで付き合うさ!」

「了解!」

二人は背中合わせになり、両手を前に向ける。

「森を修復するぞ!そうすれば光の壁の強度も上がる!」

「分かった!」

二人はその体から放つオーラを森全体に広げ、倒された木々を修復させた。


「うぅ・・・私だけ何もできないわ!」

御月はキョロキョロと周りを見回し、挙動不審に動き回り、慌てふためいていた。

その圧倒的な能力の全てを攻撃に特化させている彼女の能力では、今この状況でできることは何もないのである。

「みんな頑張ってるのに・・・私だけ見てることしかできないなんて・・・」

落ち込んで、涙を流しそうになる御月に、ミノリは言う。

『お姉ちゃん、お姉ちゃんの魔力を少しだけ分けて!みんなでアリスちゃんの作った壁を支えよう!』

それを聞いて、御月の顔はパッと明るくなった。

「分かったわミノリ!よーし!お姉ちゃん頑張っちゃうわよ!」

『少しだけでいいよ!頑張りすぎて、倒れないようにね。・・・絶対だよ!』

「大丈夫よ、ミノリ。・・・こんなところで、死ぬわけにはいかないもの」

御月はその魔力の一部を使い、【社】の魔力を強化した。その強化された魔力は全員の防御をさらに盤石なものとした。


「有栖川!」

真一は、誰よりも前でみんなを守りながら言った。

「君は、あの悪鬼と自分が似てるって言ってたよね。他を否定する歌、孤独な合唱、そして君にそっくりの姿。それが、君の嫌いな君自身だって。どこまで本気で言ってたのかは分からないけど、もしも本当にそう思っているのだとしたら・・・・それは勘違いだ!!」

真一は強く断言した。

「確かに、見た目は少し似ているかもしれない。でも、それは偶然だ!僕には、君の歌が他を否定しているようには見えなかったし、劇では孤独どころかみんなの中心にいたじゃないか!」

悪鬼の攻撃を真正面から受けている真一は、本当ならば、喋る余裕などないはずだ。

それにも関わらず、真一はさらに言葉を続ける。

「それでももし、君が孤独を感じているのだとしたら、何度も言うけど、それは勘違いだ!」

真一の盾は更に大きくなり、悪鬼の攻撃をわずかばかり押し返した。

「君が、自分が特別だから孤独だと思っているなら断言できる、それは違う。僕もSOLAのみんなに出会う前は、自分を特別だと勘違いして、孤立していた。でも、みんなに会って、自分が特別じゃないって分かった。ちょっと悔しかったけど、それでも嬉しかった。自分を「天才」だなんて思っていた内は、誰かと関わろうなんて思いもしなかったから。ねぇ有栖川。それでも君が孤独だと感じているなら、次のステージに進めばいい。そこには君の仲間になってくれる人が必ずいる。そして、君が本当に特別な「天才」だったとしても・・・大丈夫。それでも、必ず孤独になるわけじゃない!!」

真一は、ちらりと御月の方を見た。御月もそれに気づいたのか、恥ずかしそうな笑顔を返してくれた。

「長くなっちゃったけど・・・・要するに有栖川!君は一人じゃないんだ!」

長く喋りすぎてしまった!真一はその恥ずかしさを誤魔化すように、結論を強く断言した。言いたいことがまとまらず、長く喋りすぎるのは悪い癖だ。初めて会った時の有栖川との会話もそうだった。しっかり伝わっているだろうか。

悪鬼の攻撃は更に激しさを増し、もう振り向く余裕などない。足も手も、もう限界が近い。

その時。


『ありがとう、真一』

声が聞こえた。有栖川の声だ。ミノリの音を通じて、彼女の声が直接頭に響いてくる。

その声は震えていて、でも、どこか嬉しそうだった。

真一は有栖川の表情を見ることはできなかったが、きっと、笑っているのだと思った。


次の瞬間、崩れかかっていた光の壁は見事に復活した。


Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!


悪鬼の攻撃はまだ続く。だがもう、恐れることはなかった。有栖川は、悪鬼を恐れてなどいない。悲しい嘆きの歌は、あたたかい喜びの歌に変わっていた。それは既に有栖川一人の孤独な歌ではない。ミノリの魂楽多重奏によって真一たちの心の力を音に変え、様々な音が調和して重なった、みんなで奏た歌になった。


光の壁は悪鬼の攻撃を完璧に受け止めた。それに真一の盾が重なり、悪鬼の攻撃を押し返す。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああ!!!」

真一は雄叫びと共に、力一杯に堅牢剣けんろうけんを振り抜いた。

それと共に、魔力の盾は悪鬼の歌を跳ね返し、完全に消滅させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る