第41話 有栖川の戦い

悪鬼は六枚の羽を広げ、魔力を溜め始める。

『まずい、また歌の攻撃が来る!今までの比じゃないぞ!なんとかして防いでくれ!』

「では私が!」

鉄也てつやからの通信を受け、雅輝まさきが応える。

雅輝は狙いを定め、矢を放つ。相手は200m先。とても直射で届く距離ではない。強化された弓で射つとはいえ、曲射で狙うしかない。難易度の高い狙撃だが、雅輝に狙えない距離ではない。

雅輝の放った矢は綺麗な放物線を描き、悪鬼の元へと降っていく。

しかし、

「んなっ!!」

悪鬼は無数の分裂体を出現させ、本体を守った。雅輝の矢は、その分裂体の一体が受けたに過ぎなかった。

「あれでは・・・私の攻撃は届かない・・・」

「じゃぁ今度は俺が!」

大智だいちは急いで遊浮王ユーフォーを起動させる。

「ダメです!あなた一人では悪鬼を止めきれません!」

「じゃぁどうすれば!」

混乱するSOLAの隊員たち。そして、それを見守る御月みつき、そしてレーナたち。彼女たちは、その気になればこの場で悪鬼を倒し切ることができる。しかし、御月は力を無闇に使うわけにはいかず、レーナたちは元はといえば部外者だ、いざとなっては助けには入るつもりでいたが、積極的に動こうとはしない。


そんな混乱の中、真っ先に動いた人物がいた。

「あれは・・・・私の敵・・・」

有栖川だ。彼女は立ち上がり、ゆっくりと歩みを進める。

「他を否定する歌、孤独な合唱、そして・・・私そっくりの姿・・・。私の嫌いな、私自身」

有栖川はそのまま歩みを進め、SOLAの隊員全員の前に立ち、真っ直ぐに悪鬼を見上げる。

「だから・・・私の力で、止めるの!!」


Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!


悪鬼の歌が放たれた。そして、それと同時に、有栖川は歌い始める。

先ほどまでと同じように森が輝き、皆を光の壁で包み込み、衝撃から守る。

唯一違ったのは、有栖川の歌声だった。同じ曲を歌っていても、今の歌声は、どこか悲しげに聞こえた。

轟音と共に、ぶつあり合う歌と光。その余波は、光の壁の中にまで響いてきて、ビリビリと肌を震わす。


Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!


悪鬼の歌はまだ続く。声量をあげ、音程を上げ、分裂体たちとの和音を奏でる。

その衝撃波によって、森の木々は次々と薙ぎ倒されれる。その度に、彼女たちを包む光の壁は徐々に崩れていく。有栖川も負けじと歌に力を込めるが、その歌は虚しく響くのみ。


あぁ、やっり無理だった。

ミノリお姉ちゃんの真似をして、真一の真似をして、みんなの力になろうとすれば、自分も仲間になれると思ったのに。

でも、思えば仕方がない。私に元々戦う力なんてなくて、たまたまあった不思議な力で少しは協力できたけど、こんなふうに使ったのは今日が初めて。今まで戦い続けたみんなを、本当の意味で支えることなんてできない。


有栖川の歌声はどんどん弱くなり、壁の崩落は進む。


ごめんねみんな、やっぱり守れなかったみたい。

せめて、みんなが傷つかないように、精一杯守るから・・・それで、私は・・・。

そう思った。


「諦めるな!!!」

真一の声だった。

彼は、有栖川のさらに前に立ち、堅牢剣けんろうけんで悪鬼の歌を正面から受け止めていた。

彼の体を支える足はありったけの力を込めて踏ん張っており、剣を支える腕は今にも血管がはち切れそうだ。魔力によって作られた円形の盾は、以前悪鬼の歌を防いだ時よりも更に大きく、ここにいる全員を守れるほど巨大になっていた。


一体なぜ?どうして?

真一にこれほどまでの力はなかったはず、進化した悪鬼の歌を防げるのは自分の歌くらいのはず、それなのに、なぜ・・・

有栖川が疑問に思ったとき、真一は言葉を続ける。

「有栖川、ありがとう。君がいなければ、僕たちはこの攻撃で全滅だった。でも、君が歌を防いでくれたおかげで、僕たちも攻撃に耐える準備ができた!みんな・・・、絶対に耐え抜くぞ!」

有栖川は、ハッとして後を振り向いた。

そこには、笛を構えるミノリ。矢をつがえる雅輝。遊浮王ユーフォーを起動させる大智。みんなの姿があった。

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