第39話 仲間 そして孤独 

「ちょっとレーナ!どうしてくれるのこの状況!」

「なんだよノビー!?勝ったんだからイイじゃねぇか!」

「いい訳ないでしょ!見てよこれ!」

レーナは大きなため息をついた後、面倒くさそうに頭をかきながら周りを見渡す。

彼女によって作られた巨大なクレーターは湖を決壊させ、木々を破壊し、あの美しかった森は見る影も無くなってしまった。

「あぁ・・・やりすぎた、かもな」

「そうだよレーナ!ちゃんとなおしなさい!」

「はぁ・・・分かったよ。だが、手を貸してくれ。知ってるだろ?私は壊すのは得意だが、なおすのは苦手なんだ」

ノビーはツンとした表情でそっぽを向き、レーナの問いかけには応えなかった。目を閉じ、背中を向け、もうレーナの話には聞く耳を持たないといった様子だった。

それを見て、さすがのレーナも焦りの表情が滲む。しかし、彼女が次の行動に出るまでに、迷う時間はなかった。

「・・・すまん、私がやりすぎた。だが、私一人では修復しきれない。だからお願いだ、力を貸してくれ。お前の力が必要なんだ、ノビー」

今度は丁寧に、可能な限り誠実に、力を貸してほしいと願い出た。

彼女の言葉を聞いたノビーは、依然背中を向けたまま頭を動かし、レーナの様子を視界の端で見た。レーナは、口では反省したようなことを言ってはいたが、やはりまだイタズラしすぎた程度にしか考えていないような思慮の浅さが見てとれる。しかしそれでも、反省してくれたならいいだろう。ノビーはそう判断した。

私、レーナには甘いのかも。そう思いもしたが、森をこのままにはしておけない。

「・・・ちょっとだけだよ?」

「おお!ありがとうな!」


レーナとノビーは二人で横に並び、正面に手をかざした。レーナの放つ紫のオーラ、ノビーの放つ緑のオーラ、それらが空間いっぱいに広がり、辺りを包み込んだ。すると、まるで時間を巻き戻したかのように壊された物たちが見る見るうちに修復されていく。砕かれた地面の破片は浮遊しながら集まり形を成し、岩も同様に修復され、ひび割れの跡すら残らない。決壊した湖の水は、土に吸収された分まで全て分離し、湖の中に戻っていく。

時間にして、わずか数十秒。壊された景色は完全に治ってしまった。

まるで魔法のように治っていく様を見ていたミノリたちは唖然としてしまった。

「ふぅ・・・こんなもんかぁ?」

「って!結局私が殆どやってるじゃん!レーナもやりなよ!」

「すまん、やっぱり苦手なんだ。可能な限りサポートはしたんだがな・・・」

人智を超えた技を平然にやってのけた二人は、それに気にも留めずにたわいもない会話を始める。その異様さにはミノリは言葉もなく、ただただ困惑していた。

「おっ、そうだミノリ。お前に届け物だ」

そう言うとレーナは指をパチンと鳴らした。

突然の呼びかけに、ミノリはビクリとする。それと同時に、ミノリたちを覆っていた結界は解け、さらに上空には魔法陣が現れた。

レーナは何と言っただろうか?届け物?それは一体何だろうか。何かを頼んだ記憶はないが・・・。ミノリはさらに混乱を深める。

頭上の魔法陣はどんどん広がり、その中央から異空間が現れた。その奥に、微かに人影が見えた。

「リィィィ・・・・」

異空間から声が聞こえてくる。

「ミノリィィィィィィ!!!!」

突如として降ってきたその人影は、落ちてくるや否や、がっしりとミノリに抱きついた。

「ミノリ、ミノリ!!」

聞き覚えのある声、見覚えのある姿、そして身につけた青い羽衣。その降ってきた人物をミノリは知っていた。

「お姉ちゃん?どうしたの?」

降ってきた人物は、ミノリの姉でSOLAの隊長でもある御月だった。

ミノリに呼びかけられた御月は顔を上げて、ミノリを見つめる。御月は、涙で腫らしたその顔でしゃっくり混じりで答えた。

「どうしたの?じゃないわよ!だって・・・ミノリ・・・私を置いてどっか行っちゃうんだもの・・・」

「あっ・・・」

ミノリは思い出した。

悪鬼に襲われている所を御月に助けられた後、ミノリは走って有栖川の元へ向かってしまっていたのだ。

姉である御月を置いて。


御月は、隊長として絶大な戦闘力を誇るが、それ以外の面ではただの18歳の少女にすぎない。いや、むしろかなり幼いのだ。ミノリには、森に置いて行かれた彼女の様子が容易に想像できた。きっと、一瞬で迷子になり、自分がどこにいるのかも分からず、同じ所を何度もぐるぐるしていたに違いない。その状態の御月は悪鬼に襲われる心配こそないが、そのまま遭難してしまってもおかしくなかった。

「ミノリを追ってもどこにいるのか分からないし、森はどこも同じような景色だし・・・そのまま歩き疲れていたところを、レーナさんたちに拾われたの」

「そう、だったんだ・・・ごめんね、お姉ちゃん」

「うぅ・・・ミノリ、ミノリぃ・・・」

ミノリは御月の頭を撫でながら、彼女をなだめた。

「レーナさんたちも、どうもありがとうございます。お姉ちゃんを助けてくれただけじゃなくて、悪鬼まで倒してくれて」

お礼を言うミノリに対して、レーナは得意げに答えた。

「なーに、やれることをやっただけさ。礼には及ばない」

「物を壊しすぎてたけどね」

「おいノビー!その話はさっき終わっただろ!」

「終わってません、大体レーナはいつも・・・」

妹に泣きつく姉と、それをなだめる妹。

失態を誤魔化そうとする女性と、それを認めない少女。

殺伐とした戦場の空気は晴れ、そこには和気藹々とした仲間たちの光景が広がっていた。


有栖川は一人、その光景を見守っていた。

あぁ、仲間っていいな。真一は、本当にいい仲間たちに恵まれたね。


「おい!なんださっきの爆発は!?」

「みなさん無事でしたか?」

「遠くからでも見えたけど・・・あっ!みっちゃんどうしたの?泣いてるの?」

真一、雅輝、大智の3人もその場へ加わった。


互いの無事を確かめ合う仲間たち。支え合い、助け合い、時に衝突しながらも同じ目標のために戦っている。

そんな中に、有栖川は入れずにいた。あぁ、私も、一緒に頑張れる仲間がほしいな。

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