第38話 レーナたちの物語
それは、真一やミノリがいる世界とは別の世界。遠い遠い、宇宙の彼方のそのまた向こう。物理的には永遠に辿り着けない未知の世界。そこにレーナとノビーは住んでいた。二人は強大すぎる力を持つが故に、多くの人々に敵視されていた。しかし、二人が何か人々に危害を加えた訳ではない。ただ、多くの人が彼女たちの強大な力を恐れただけなのだ。迫害されることもあった、多くの人を敵に回すこともあった、時には一国を相手に戦ったこともあった。それでも、二人に不安はなかった。
「私たち二人なら、どんな強い相手にも負けないよね!」
「あぁ、その通りだ」
二人は常に支え合って生きていた。互いに信頼し合って、弱点を補い合い、抜群のコンビネーションで戦いを駆け抜けた。
しかし、やはり敵は強大であった。レーナたちが負けるようなことはなかったが、勝利の要因になるような決定的な一手が欠けていた。増援を願おうにも、もうすでに彼女たちは世界中から敵視されており、味方になってくれる人などいない。そこで、二人は時空の壁を突き破り、別の世界に仲間を求めた。自分達の境遇を理解し、協力してくれる力強い仲間を。
そうして出会ったのが天川姉妹であった。お互いを思い合い、支え合う彼女たちの姿に、レーナとノビーは自分達の姿を重ねた。最初は敵だと勘違いされ、襲われることもあったが、すぐに和解し、打ち解けることができた。何より、お互いに似たもの同士であったため、理解し合うのに時間は掛からなかった。
結局ミノリたち姉妹はレーナの協力者にはならなかったが、それでも彼女たちを気に入ったレーナたちは、度々こちらの世界に遊びに来るようになった。
そうして今、レーナたちはミノリに協力して、悪鬼と戦っている。
「そーら!!どうしたぁ!!」
レーナは手にした剣で悪鬼を次々と薙ぎ倒した。首を刎ね、胴を切り裂き、胸を貫いた。しかし、今や悪鬼は【奏】の効果を受けておらず、能力を全開にして戦えているのだ。悪鬼たちは連携し、ミノリたちが警戒していた合唱攻撃を放とうとした。何体もの悪鬼が隊列を整え、一気に魔力を集中させた。今やレーナの周りの悪鬼は数十体。それらの悪鬼が全て同時に歌を放とうとしている。
「レーナさん逃げて!一体でも強力だった歌を合唱で強化したら、流石のレーナさんでも受けきれないよ!」
ノビーのよって張られた結界の中で、ミノリは必死に呼びかける。しかし、レーナはそんなことなど構はしない。
「はっ!何が合唱だ!心の無い悪鬼の合唱なんて怖くもねぇ!」
悪鬼が魔力を溜めている隙に、レーナは手にした剣を回転させながら投げつける。その剣は悪鬼を何体切り裂いても勢いを緩めることはなく飛び続け、その軌道上の悪鬼全てを薙ぎ倒す。剣はそのまま弧を描くように飛び続け、レーナの手元に戻って来た。その一回の攻撃で、レーナを囲っていた悪鬼の数は半減した。しかし、それを逃れた悪鬼は、合唱攻撃の準備を整えてしまった。
悪鬼が蓄えた膨大な魔力が調和し、さらに強大な一つの魔力を形成する。それを一気に解き放った。
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!
その歌は大地を抉り、木々を吹き飛ばし、砂塵と共にあらゆる物体を破壊する衝撃波となった。結界内にいるミノリでさえ、その波動に動くことができなくなるほど強力な攻撃だ。そのまま合唱攻撃は十数秒に渡り続いた。巻き上げられた砂埃で、ミノリのいる結界内からは何も見ることはできない。
ミノリは震えていた。しかしそれは、悪鬼による攻撃に恐怖したからではない。彼女は感じたのだ、目に見えずとも分かるほど強大なオーラを放つ、レーナの存在を。
「確かに強力な攻撃だ。だが、所詮は機械じみた声・・・」
その声が聞こえると共に砂埃は晴れ、レーナの姿が見えてきた。あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、レーナはかすり傷一つ付いていない。それどころか、悪鬼の攻撃を一歩も動かずに受け切っていた。レーナは左手から紫色のオーラを放ち、それを変質させて結界を張っていたのだ。オーラは彼女を包み込むように球形に広がり、悪鬼からの攻撃を完全に防いでいた。レーナはニヤリとした笑みを浮かべ、右手に構えた剣を振り上げる。
「メトロノームたちの合唱じゃ響かねぇんだよぉ!!」
レーナは剣にオーラを纏わせ、それを思い切り地面に叩きつけた。地震かと錯覚する程の振動と共に地面は爆発し、あたりは光に包まれた。目を開けていられない程の光が収まった頃には、地面には巨大なクレーターができ、悪鬼の大群は消滅していた。
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