第36話 真一の妄想
「決まりましたね!」
「やったー!大成功!」
雅輝と大智は、二人とも幼い子供のような無邪気な笑顔で向き合い、そのままバシッとハイタッチをした。
「やっぱ雅にぃの技かっこいいなぁ、俺もああいう派手なのやりたいなぁ」
「何言ってるんですか。普段は地味に矢を射ってるだけな私ですよ?高速で飛び回るあなたの方がよっぽど派手じゃないですか?」
「えー。でも俺にはあんな必殺技みたいなのないし・・・」
作戦が成功し、喜びのままにたわいもない会話をしている2人。しかし、そこに猛スピードで近づいてくる人影があった。とてつもない速さと、殺気にも似た凄まじい気迫を放つその人影。しかしそれは、悪鬼のものではなかった。
「こらぁぁぁぁぁ!!!!雅輝ぃぃぃぃぃ大智ぃぃぃぃぃ!!!」
その人影は、真一のものでであった。
「お前たちふざけるのもいい加減にしろ!何だよお前ら!自爆するみたいなこと言いやがって!心配したじゃないか!!」
真一は今まで見たこともないような激しい見幕で雅輝たちに迫る。しかし、それを茶化すように雅輝は答える。
「えー、実際にあそこにいたら真一くんは
「そーだよ真にぃ!ああでも言わないと離れてくれなかったでしょ!」
大智も釣られて茶化す。しかし、真一の目は真剣であった。どうやら真一は、本気で2人の心配をしていたらしい。ふつふつと湧き上がる怒りを抑えるように肩を振るわせ、少し涙でにじんだ目を見開き、2人を見つめていた。これを見て雅輝たちは、流石に少しの罪悪感を覚えた。仲間に心配をかけすぎただろうか、と。
「ふざけるなよ、僕は・・・お前らがいなくなっちゃったらって、考えて・・・僕は、僕は・・・」
流石にやりすぎたか。そう思った雅輝は、謝罪の言葉を探す。
「真一くん、あの・・・」
しかし、雅輝が言葉を絞り出すより先に、真一は叫んだ。
「どうやってミノリを慰めればいいかって考えちゃったじゃないか!!!!」
予想外の言葉に、雅輝と大智は唖然とした。
何というブレのなさ。真一はこんな時でも、ミノリへの溢れる恋心を抑えられず、妄想の世界を繰り広げていたのだ。しかし、雅輝や大智の言葉から彼らの身を案じなかった訳では決してない。彼らのことを考えたあと、この思考は反射的に起こってしまったのだ。雅輝と大智にもしものことがあって、一番に悲しむのは真一ではなく、ミノリなのだ。そしてミノリが悲しんで一番に悲しむのは、そう、真一なのである。これは真一にとって重大な問題であったため、彼の頭の中はいかにしてミノリを慰めるのかということにのみ支配され、あらぬ妄想を繰り広げてしまったのだ。
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SOLAの基地の裏手にある、遮るものがなく空が見渡せる平地。その中央にある巨大な石碑。それが戦死した隊員たちの共同墓石である。SOLAの隊員には身寄りのない隊員も多くおり、その多くはここに埋葬される。時刻はそう、空が赤く染まった夕暮れ時、多くの隊員が寮に戻ったり、作戦に向かったりする時間帯。誰にも悟られないようにミノリは墓地に行くだろう。彼女はきっと、墓石の前で泣き崩れてしまう。普段は気丈に振る舞い、隊員を鼓舞する立場にある彼女は、人前で弱いところを見せるわけにはいかないのだ。だからこうして、誰にも見られないところで泣くのだ。
『雅輝・・・・大智・・・』
こぼれ落ちる涙が、墓石に滲む。かすかに名前を呟いた他には、言葉にならない嗚咽しか出ない。
そんな姿を、真一は目撃してしまうのだ。
『ミノリ・・・泣いてるのか?』
『ッ!!!』
その声で真一に気づいたミノリは、急いで涙を拭う。
『あっ、あはは!見られちゃった?やだ、恥ずかしい・・・えへへ』
ミノリは無理に笑おうとする。しかしその声はやはり震えている。
『大丈夫だよ・・・。戦ってるんだもんね、そういうことも、あるよね。うん、知ってた、大丈夫だよ!』
声は依然明るい。しかし、涙を拭う手が顔から離れることはない。
『雅輝も大智も分かってたはず。悔いはないと思うの。だから・・』
『ミノリ、もういい・・・』
『だから、あの2人のためにも私が頑張らないと・・・だって』
『ミノリ!!!』
真一は、ミノリを強く抱きしめた。
『もういいんだ。君は強いフリをしなくていい。泣きたいなら泣けばいい。無理に明るく振る舞わなくていい。ミノリに、自分を偽って欲しくない』
『出来ないよ・・・私は、みんなを支えないと・・・本当の、弱い私なんて、見せられない・・・』
『なら!僕の前だけ見せればいい!君の弱さは、僕が支える!君は、僕が絶対に守る!』
『真一・・・ありがとう』
『大丈夫、大丈夫だ。』
『そうだね、私には、真一がいるんだもんね』
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以上が、真一の妄想である。
無論、真一はその全てを口に出した訳ではないが、雅輝と大智は彼の性格や言動から大体の内容を察した。
「真一くん、ひどくないですか?」
「そうだよ!勝手に殺さないでよ!」
「うるさい!あんなこと言われたら普通死ぬかと思うだろ!」
「ですがあれはちょっと・・・」
「もしかして・・・死んだ方が嬉しかった?」
「そんなことない!」
そう言い放つ真一の目は、真剣そのものだった。
「2人は、僕の仲間だ。仲間を大切に思うのは当然だ。生きててよかった。だから、心配させるようなことは、もう言わないでくれ」
言葉を通して、真一の思いが、心が、溢れ出る魔力となって雅輝と大智の心に伝わった。その強く揺るぎない魔力は、真一の仲間への想いの証。そんな真一の言葉を、もう茶化すことなど出来なかった。
「分かりました。ふざけてしまってすみません」
「ごめんね」
「分かればいい・・・。さぁ!!さっさとミノリの所にいくぞ!!!大智、遊浮王に乗せてくれ!」
しかし、やはり真一は真一だった。ミノリのこととなると、そればかりなのだ。
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