第35話 十二弓演武
「何だよ!
雅輝に向かって、真一は問いただす。
ミノリの連絡を受けてから急いで来た真一は、少し汗をかき息が上がっていた。
「そんな技聞いたことないぞ!どんな技だ?僕もサポートするから、さっさと悪鬼を倒してミノリの元へ急ごう!」
雅輝たちよりミノリのことを優先していることを全く隠す気のない真一の言葉に、雅輝は呆れ混じりの微笑で答える。
「真一くん、ミノリさんが大事なのは分かりますが、そこまで私たちを蔑ろにすることないんじゃないですか?」
「いや・・・!別に僕は、そんな・・・」
「はははっ!分かってますよ。ですが、手助けはいりません。さっき決めちゃいましたから、私と大智の二人で悪鬼を倒すと」
雅輝はそう言うやいなや、すぐさま遊浮王のマジックアームに飛び乗った。
「へへっそうだぜ真にぃ!ここの悪鬼は俺たち二人でなんとかするから、真にぃはそこで休んでなよ」
大智はにかっと笑って真一に言う。同時にマジックアームでガッツポーズを取り、いかにも俺たちに任せろと言っているようだった。
真一は、それでもなお戦いに割り込もうと思うほど自分勝手な男ではなかった。ミノリは心配だし、雅輝と大智ももちろん心配だが、それでも仲間を信じていた。真一は渋々ながら二人にここを任せることにした。雅輝も言っているのだ、何か作戦があっての決断なのだろう。それに、雅輝の言っていた十二弓演武という技がとても気になって、それを見てみたいと思っていた。おそらく、雅輝と大智のコンビネーションによって可能になる技なのだろうが、真一は今までそんな技を見たことがなかった。
「にしても、あれを使うなんて久しぶりだね
「三で行きます」
「おーいいね!あれ、俺も好きなんだ!」
「そう思って選んだんです!では、行きますよ!」
「おう!」
大智はハンドルを強く握り、遊浮王全体に自身の魔力を注ぎ込んだ。大智の魔力を受けて、全てのマジックアームには力がみなぎり、機体全体がゴウゴウと振え始めた。それはまるでレース開始前にエンジンを吹かしているスポーツカーのように、これからの加速への準備をしているようだった。やがてその振動が最大限に高まった時、ついに遊浮王は発進した。
「
大智の言葉の通り、その機体は目にも止まらぬ勢いで急加速し、次の瞬間には悪鬼を数体吹き飛ばしていた。その速度によって生み出された風が、機体に遅れて木々をゆらし、葉が舞い散る。瞬間移動かと見紛うような高速で戦場を駆け巡る機体を、真一は目で追うことさえできなかった。しかし、大智が6本のアームを全て使って戦っていることだけは辛うじて理解できた。そうなると、先ほどまでそこにいたはずの雅輝はどこにいるのだろうか?
真一は雅輝を探して、辺りを見回したが姿が見えない。まさか、吹き飛ばされてしまったのか。
「大丈夫ですよ、ここにいます」
急に聞こえてきた雅輝の声に、真一は驚いた。急だったことにも確かに驚いたが、一番の理由はそれではなかった。彼のその声は、上空から聞こえてきたのだ。
「おー、やはり上からだと悪鬼の位置が多少は見やすいですね」
雅輝はいつも通りの微笑でこんなことを言っているが、彼の状況は全くいつも通りではなかった。上空にいる雅輝は、飛んでいるのでも浮いているのでもない。大智によって、ただただ上に放り投げられていただけなのだ。
「はぁぁ!!??雅輝!大丈夫なのか!?」
「さっきも言ったじゃないですか、大丈夫ですよ」
上空十数mにまで打ち上げられた雅輝は、落下しながら弓を構え、矢を放った。落下中というこの上なく不安定かつ風や重力の影響を受ける状態であっても、正確に矢を放った。雅輝はそのまま落下中に5、6本の矢を射ち、遠方の悪鬼を倒していった。しかし、やはり条件が悪過ぎたのか、一本だけ外してしまった。そのまま地面に衝突する寸前に、大智が衝撃を吸収するように緩やかに受け止めてくれたおかげで、雅輝は無傷で生還し、次の場所に向かった。その光景を、真一は唖然としながら眺めていた。しかし、納得はできた。
なるほど、大智は見えている敵を倒し、雅輝は遠くの敵を倒しつつ戦況を把握し次の移動先を決める。お互いの弱点を補い合った、いいコンビネーションだ。確かに、この中に真一の入り込む隙はない。このコンビネーションが十二弓演武なのだろうか。多少無茶はしているが、そこはお互いの技量で補完していて、欠陥と呼べるものではなかった。しかし、気にかかる点が一箇所だけあった。雅輝が矢を外していたのだ。ここに来るまで、雅輝は相当の無理をしていた。それがここに来て雅輝の狙撃に支障をきたしているのかもしれない。もしもそうなら、自分もできることをやらなくては、真一はそう考えていた。
その後も同じ事を数回繰り返し、次々と悪鬼を倒していった。その数は、真一が一人で倒し切れる数を遥に上回っていた。明らかに二人のコンビネーションの賜物である。しかし、二人が活躍すればするほど、悪鬼は一箇所に集まってきた。二人の心のエネルギーの高まりを感じて集まってきたのだ。もはや真一などには目もくれず、悪鬼は二人に襲いかかる。密集する悪鬼のせいで遊浮王はその素早さを封じられ、雅輝も満足に矢も放てなくなっていた。結局、雅輝は合計で3回も矢の無駄撃ちをしてしまっている。そんな状況を見て、真一はついに堪えきれなくなった。
「意地張ってる場合じゃないぞ!僕も加勢する!」
「必要ありません!」
それは、本気で制止するような怒鳴り声だった。普段は聞かない雅輝の大声に、真一はおののいた。
「ここは私たちに任せてくれと、最初に言ったはずです」
「雅輝・・・」
「ミノちゃんを守れるのは、真にぃだけだからね」
「大智・・・」
二人の表情はとても優しく、そして、何かを覚悟している目をしていた。
「お前たち、一体何を・・・」
『離れて!』
「ミノリ?!」
『今すぐ二人から離れて!このままじゃ、真一も巻き添えになっちゃう!』
「・・・・っ!!」
ミノリの声は、危機感に満ちたものだった。このままでは、本当に自分もただでは済まないのだろう。しかし、自分が助かったとして、雅輝と大智はどうなるのか。自爆でもするのか、それとももう助からないから自分だけは逃がそうと言うのか、分からない。しかし、二人がこれから何かをしようとしていることだけは理解できた。真一は瞳孔を見開き、二人を目つめた。
『早く!!真一!』
ミノリの声に促され、真一は全速力で戦線を離脱した。くそっ!絶対に、ミノリだけは守り切ってみせるから。真一は固く胸に誓い。雅輝たちに背を向けた。
「ふぅ・・・これで準備万端だね」
「ええ」
「真にぃには悪いことしたかな?すごく心配してたよ?」
「そうかもしれませんね。でも、あそこにいたら実際に危険だったじゃないですか」
「そうだけど・・・」
『二人とも!真一が安全圏まで離脱したよ』
「そうですか・・・じゃぁ、行きましょう!」
「うん!」
大智はマジックアームを旋回させ、まとわり付いた悪鬼を一気に払い退けた。それでもなお食らいつこうとする悪鬼よりも先に機体を急浮上させ、遥上空まで飛んで行った。
「
雅輝の発声と共に、悪鬼たちを覆う巨大な正三角形の結界が作り出された。その結界の各頂点は、先ほど雅輝が放った、射ち損じかと思われた3本の矢であった。
矢からは強力な魔力がみなぎり、それぞれが緑に輝く魔力の線で繋がれた。その線は回路となり、魔力を巡回させて強化する。
「
魔力の回路はその膨大な力を解き放ち、結界内を覆い尽くす激しい光を放った。その眩い光を受けた悪鬼は次々と消滅していき、後には塵一つ残らなかった。
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