第4話① 大空ファンタジー

 劇の内容は魔王に捕らえられた姫を救うために勇者が冒険の旅に出る、というものだった。陳腐で使い古された設定であったが、最高学年の演技にふさわしい素晴らしいものであった。他の学年の劇も良かったが、その中でも群を抜いて完成度が高かった。今までのように小道具や演出を凝っていたのはもちろん、殺陣などのアクションも迫力満点であった。


 役を演じる子は誰もが、魅力的な演技をしており、劇を見るという経験をあまりしてこなかった真一にとっては誰も彼もが皆素晴らしい役者に見えた。ミノリが見せたかった子はあの子だろうか?それともこの子だろうか?真一はそんなことばかり考えながら劇を見ていた。しかし、結局終盤まで誰のことだか分からないままでいた。そんな彼をよそに、物語はいよいよ勇者が魔王の城へと入っていくシーンとなっており、もう2度と劇中には出てこないであろう人物も大勢いた。もしもその中にミノリが見せたかった「その子」がいたらどうしようかと、真一は少々焦っていた。もしも劇が終わった後にミノリから「その子」のことを聞かれたら本当は分からないのに話を合わせるしかない、と真一は考えていた。

 

 何度も言うが、真一はとても優秀な少年であった。見たばかりの劇の内容は詳細に覚えている。もしもミノリが「その子」の登場した場面のヒントとなること口走ってくれたなら、瞬時に誰か特定できる自信があった。しかし、それは当然ながらミノリの行動に全てがかかっており、あまりにも危険な賭けであった。そして、もしも誰のことか分からなかったことがミノリにバレたなら、きっとミノリは悲しむだろう。それはすなわち、あの天使のような笑顔を、太陽のような笑顔を、大好きなあの笑顔を、自らの手で曇らせることになるのだ。真一としては、なんとしてもそんな事態は避けたかった。

 真一があれこれ考えているうちに、劇中では勇者が魔王のいる玉座に通じる扉の前に立っていた。いよいよ最終決戦が始まるのだ。勇者が扉を開き、中に入ると共に照明は暗くなり、やがて暗転した。

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