第3話 大空学園初等部学芸会

 真一は、まさかデートの内容が小学校の学芸会だとは夢にも思っていなかった。集合場所が学校前であったから、学校行事の何かであることは予想ができたが、せめて中等部か高等部の学園祭であって欲しかった。真一は自分の小学生時代の学芸会を思い出したが、やはりいいと思った劇はなかった。今回もきっとそうだろう。それでも、ミノリが隣にいてくれるのだ、退屈な劇でも幸せじゃないか。真一はそう考えて気持ちを落ち着かせることにした。


しかし、そんな考えはすぐに打ち砕かれた。


 どの学年も劇の内容は素晴らしく、途中で入る合唱の完成度も相当なものであった。衣装から照明、舞台装置、小道具、全てのクオリティが高く、例え多少演技が下手であろうともその迫力だけで圧倒されるものがあった。そのためか、たかが小学校の学芸会であるにも関わらず、大きなホールは既に満員であった。観客も数は明らかに出演者の家族や関係者よりも多く、年齢層も様々であった。

「ね、凄いでしょ?ここの学芸会!」

ミノリは自信満々に真一に問いかけた。

「あぁ、甘く見ていた…本当に凄い…」

真一は劇のクオリティに呑まれており、半分上の空になりながら答えた。ミノリはそれを見て満足そうに笑った。

「ふふっ、よかった。…でもね、本当に真一に見せたかった劇は、この後の6年生の劇なんだ。本当に凄い子がいるから!1年生のときから凄かったけど、今じゃ芸能界からも目を付けられる程の期待の星なの!」

真一は、流石に話を盛りすぎではないかと疑った。身近にそんな凄い人がいるわけないと思ったのだ。しかし、今までの劇を見ると、あながち嘘でなさそうな気もしてきた。どうやら、本当に凄い人がいるらしい。そして恐らく、その子を自分に見せるために、ミノリは今日この学芸会に自分を誘ってくれたのだ。

「凄い子がいるんだな。それで、その子はどんな子で、何役をやるんだ?」

真一のその何気ない質問に、ミノリは自信満々な笑顔で、この前のように唇に人差し指をあてながら答えた。

「ヒ・ミ・ツ」

そしてミノリは、ゆっくりと幕のかかった舞台の方に目を向け、こう続けた。

「…でもね、きっとすぐに分かると思うよ。それくらい、圧倒的だから」

ミノリがそう言い終わると同時に、劇の開始を案内するブザーが鳴り、ホールの照明が落ちた。先ほどまで観客の話し声でざわついていた会場が次第に静まっていき、進行役のナレーションが終わる頃には、もう完全にホールは沈黙に包まれていた。静かな緊張感が漂う中、ゆっくりと舞台の幕が上がった。


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