第32話 自然の力
「ミノリっ!?」
悪鬼との激しい連戦の中、真一は確かにミノリの音を受け取った。
「よかった・・・無事だったのか」
森に散らばったSOLAのメンバーは全員が個別に戦闘していたため、他のメンバーがどこで何をしているのか全く分からなかった。そんな中で、真一は常にミノリの事ばかり考えていた。
ミノリは今戦っているメンバーの中では最も一人での戦いを苦手としていることを真一は知っていたからだ。可能ならばすぐにでもミノリを助けに行きたい。しかし、それでは作戦が成り立たなくなる。そんな葛藤を抱えたまま、彼は悪鬼と戦闘していたのだ。
だが、それで彼の集中が乱されることはなかった。真一は常に考えていたのだ。確かに故意にミノリの元へ向かうのは作戦に反するかもしれない。しかし、偶然に会ってしまったらそれはセーフなのでは?と。つまりは、必死に悪鬼と戦闘していく中で森の中を移動していき、その先でミノリに出会い、そして彼女を確実に救おうと、そう考えていたのである。もちろん、そんなことが起こる可能性が低いことは本人も自覚していた。だが、そんな現実性の低い希望でも真一にとっては十分に真剣になれる理由になった。
常にミノリのことを考え、ミノリを心配していた真一なので、彼女の音を聞いてとても安心した。音が届いてくるということは、彼女はまだ無事だということになるからだ。
『事情は説明した通り、アリスちゃんの歌のおかげで悪鬼の歌のネットワークを分断できた。だからもう合唱攻撃を危険視する必要はない。ここからが反撃だよ!』
音に乗せて、ミノリからの指示が届く。
「了解!」
威勢のいい返事と共に、真一は目の前に並ぶ数体の悪鬼に目を向けた。ミノリが無事と分かった今、一刻も早くミノリの元へ駆けつけたい。そのためには、まずはこいつらを払い除ける必要がある。
「さぁ、ミノリが待ってんだ。道を開けてもらうぞ」
一体でさえ強力な悪鬼との連戦を経て、それでもなお立ち塞がる悪鬼たち。さっきまでは無尽蔵に湧いてくるようにも見えるその様子に絶望しかけたこともあった。しかし今は大丈夫だ。ミノリがいる。ミノリが力になってくれる。愛する人に、敗北というカッコ悪い姿を見られるわけにはいかないのだ。
真一は剣を構え、魔力を込める。ほとばしるエネルギーを巨大な白銀の刃に変え、悪鬼に向かって力強く振りかざす。
「邪魔だァァァァァァァァ!!!!」
轟音と共に振り抜かれた刃は地面を抉り、木々を薙ぎ倒し、悪鬼を完全に消し飛ばした。
「よしっ!」
悪鬼の消滅を確認した真一はそのままミノリの元へ向かおうとした。
その時、一枚の木の葉が真一の眼前に舞い落ちた。
木の葉はそのまま宙を漂い、音もなく地面へと落ちて行った。
そして、さっきまで黄金に輝いていたその葉は、ただの緑の葉に戻る。ふと前を見ると、さっき薙ぎ倒した木々も、その輝きを失っていた。
それに気づき、小さな、本当に小さな罪悪感が真一の心に芽生えた。
僕は、木を殺したのか?
『大丈夫だよ』
その時、ミノリの音を介して有栖川の思考が届いた。
『確かにその木は死んじゃったけど、それで終わりじゃないの。倒れた木は、いずれ大地に吸収されて、また他の植物の養分になる。それは森のみんなも分かってることだよ』
有栖川の思いを知り、真一ははっとした。
死んで終わりではなく、死は次につながる。それは今を生きることに精一杯になりがちな人間が忘れがちな命の真実だった。真一は、それを当然のように思考できる自然の偉大さを感じると共に、その木々の思考をすんなり受け入れられる有栖川の精神に感嘆した。
『それに、森はやっぱり、あなたたちに悪鬼を倒して欲しいって思ってるよ』
更に森は、真一たちへの力の提供を惜しむどころか強い意志で力を貸してくれる。そのおかげで、真一の心は落ち着き、体は癒え、今やるべきことが明確になる。今すべきなのは、悪鬼の討伐、それだけなのだ。
森の思いを受け取り、真一は今一度倒してしまった木々を見た。力を貸してくれた木に対して申し訳ないことをしたとも思ったが、別に根こそぎ伐採した訳ではない。これならSOLAの技術でなんとかなる。
「ごめんな。あとで晶子さんから、再生力を高める薬をもらってくるから」
そう言い残し、ミノリの元へ向かった。
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