第29話 戦場に響く姫の歌声

「お姉ちゃんやめて!こんなに力を使ったら絶対死んじゃうよ!無茶しないで!勝手に戦わないで!自分を大切にして!」

ミノリは大粒の涙を流しながら御月の背中にすがりつく。こんなことをしても意味はない。そんなことは分かっている。姉はここで死ぬつもりなのだ、妹である自分を守って。それが姉の望みであることは知っていた。もうこうなったら、姉は戦いに身を投じるしかないのだ。


「違う・・・」



「えっ・・・?」



「これは私じゃない・・・」



御月のミノリの想像しえなかった言葉を放った。

この光は御月の作り出したものではない。御月も困惑している。見ると、確かに御月の月煌輪は発動されていない。しかし、これ程までに強力な力を持った人が御月以外にいるのか。そう思ったその時、


〜〜〜♪


歌が聞こえた。

ミノリは思わず武器を構えた。しかし、周りに悪鬼の姿は見えない。隠れているのかとも思ったが、すぐにそうではない事に気がついた。

この歌は悪鬼の歌ではない。悪鬼の歌のような、心の通わない歌声ではないのだ。ミノリはその歌声に聞き覚えがあった。


「この歌声は・・・まさか!!!」

「ちょっとミノリ!?どこに行くの!?」


ミノリは、御月の制止も無視して走り出した。真っ直ぐに、歌声が聞こえる方向へ。

ミノリの予想が正しければ、今一番危険なのは歌声の主だ。SOLAの隊員は皆戦える。自分の身は自分で守れる。しかし、歌声の主はそうじゃない。


ミノリは走り続けた。歌声はますますはっきりと聞こえてくる。それにしたがって、森のざわめき、風の音、その全てがまるでこの歌の一部かのように調和されていく。やがて、終わらない争いを嘆くその歌声に、森全体が共鳴していった。


「はぁ・・・はぁ・・・」


ミノリは歌声の主の元にたどり着いた。必死に走ったため、息は上がっているが、その瞳は確かに歌声の主に向けられていた。

黄金に輝く森の中心。星空が映る湖のほとり。そこで夜空に向けて歌う一人の少女。悲しそうに、しかし愛を込めて、持てる力の全てを込めて彼女は歌っていた。


「何で・・・ここにいるの?」


その声を聞いて、少女は振り返る。美しい金髪に、透き通るのような青い目を持ったその少女は、満面の笑みを浮かべ、ミノリを見つめた。


「アリスちゃん・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る