第25話 満身創痍 しかし負けられない。

「クソっ!生きていたのか!?」


 真一は剣を構えた。こちらはもう立っているのもやっとといった状態だが、今はミノリが近くにいる。ここで情けない姿を晒すなど、真一には絶対にできないことだったのだ。


 真一は相手の状況を冷静に分析した。悪鬼は尾びれもなく、細い2本の足で立っており、翼もなく、全長はかなり小さくなっている。歌も先程までの強烈な魔力は感じられないただの音だった。今ならミノリの音も妨害されずに済む。これならなんとか倒せる。


「ミノリ!ここは僕に任せて、君はみんなに連絡するんだ!悪鬼はまだ生きていた!」

「うん!分かった!」

 ミノリはすぐに笛を奏で、魔力に乗せて今起こっていることを待機している仲間たちに伝えた。真一は、万一に備えて堅牢剣を発動させ、ミノリの音が妨害されないように防御していた。しかし、


「えっ?どう言うこと!?」


数秒笛を奏でた後、驚きと困惑の表情を浮かべてミノリは演奏を止めた。

「ミノリ?どうしたんだ!?」

「音が・・・まだ届かないの!」

「なんだって?」


 目の前の悪鬼の歌は真一が完璧に防いでいる。ミノリの体調も魔力も万全、仲間はミノリの音が届く範囲にいる。通常では、これで音が届かないなんてあり得なかった。

「妨害を受けている感じがするの。今までの歌よりもっと強力な音で・・・真一!危ない!」

ミノリの険しい表情、そして今まで聞いたこともないような叫びで真一は我に返り、悪鬼の方に向き直った。しかし、悪鬼はすでに真一に向けて走り出しており、その鋭い爪で真一を引き裂かんとばかりに力強く振りかざしていた。小さくなり、弱体化しているように見えたとしても、悪鬼は悪鬼なのだ。一瞬にして距離を詰められ、その目は真一を真っ直ぐに見据えていた。完全に油断していた。これでまもう防御も間に合わない。


ドカァ!!


鈍い轟音を立てて、悪鬼は吹き飛ばされた。

「みのちゃん!真にぃ!助けにきたよ!!」

悪鬼を吹き飛ばすほどの強烈な一撃を入れたのは、高速で飛来した大智の遊浮王による突進だった。

「大智!ありがとう!でも、どうしてここが・・・私何も連絡してないのに」

状況を理解し切れないミノリの話を遮り、雅輝が口を開く。


「話は後です!一旦距離を取って、状況を立て直します!」

雅輝に促され、真一とミノリは遊浮王に乗り込み、上空へ浮上した。

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