第24話 これでミノリも僕に振り向いてくれる!

「やった・・・」


 爆散した悪鬼を見て、真一はそう呟いた。

 悪鬼は無数の肉片となり、もうピクリとも動かない。真一たちの完全勝利であった。


「やった!ミノリィィィ!僕は勝ったぞぉぉぉ!」


 しかし、真一のミノリへの勝利のアピールは本人に届かなかった。

ミノリたちも、其れはもう大喜びで、真一の声など耳に入ってこなかったのだ。


 雅輝は安心して座り込み、大智は大はしゃぎ、ミノリと御月はお互いに抱き合って喜んでいた。

「ふぅ・・・やりましたね、真一くん」

「やったー勝ったーマサにい!完璧な狙撃だったね!みのちゃんもみっちゃんもありがとう!」

「うん!やったねお姉ちゃん!みんなでの任務、楽しかったよ」

「ふふっ。私も、久しぶりのミノリとの任務、楽しかったわ」


 喜んでいるのは本部で映像を見ていた鉄也や晶子も同じだった。

『よくやったなお前ら!最高だぜ!さあ、サンプルを回収してたら祝勝会だ!パーっといこう!』

『その前に休息と治療が先です!真一くんだって無傷じゃないでしょうに・・・ともあれ、みなさお疲れ様でした。本当に、みなさんの力があっての勝利だと思います。ありがとうございます』

『よし!じゃぁミノリ!今回一番頑張った勇者様、真一を迎えに行ってくれ!』

「えっ?どうして私だけ?みんなで行かないの?」

 鉄也の言葉を聞いて、ミノリはなぜ自分一人で行くの可疑問に思ったようだった。それを聞いた鉄也は、若干真一を不憫に思いならも、強引に事を進めた。

『あぁ・・・そうだよな・・・でも行ってくれ!それくらいしてやらないと真一が可哀想だからな!』

「うーん・・・よく分からないけど、分かった!じゃぁ、迎えに行ってくるね!」

ミノリは地上に降り、真一の元へと向かった。




 真一は、疲れて座り込んでいた。堅牢剣を使いこなし、歌による攻撃を防いだとはいえ、それにより魔力の消費が大きく、体力も気力も尽きかけていたからだ。

 戦闘の直後はまだ元気にミノリへの想いを叫ぶことができたが、その後急に力が抜けてしまった。もう誰かが迎えに来てくれない限り、その場を動くことはできない。


 真一はそんな中でも希望を捨ててはいなかった。

 もしも迎えに来てくれたのがミノリだった場合、どんな事を言ってくれるか、その言葉に対してどう返せばカッコいいか、そんなことばかり考えていた。きっとミノリは自分を心配して、必死に走って来るに違いない。自分を見て、感極まって泣いてしまうかもしれない。それに、自分が無事であることを知って安心して、抱きついて来るかもしれない。そうしたらこう言うだろう。


『よかった・・・真一・・・無事でいてれたんだね。・・・真一がいなくなったらって思ったら、私・・・悲しくて・・・』

『大丈夫だよ、ミノリ。僕が死ぬわけないじゃないか。知ってるだろ?僕が強いって事』

『真一・・・』

『あはは。でも、ちょっと今回は疲れちゃったかな。・・・手を、貸してくれないか?』

『・・・バカ!やっぱり無理してるじゃん!・・・』

『・・・どうした?』

『絶対に、何があっても、私を守ってね・・・』

『あぁ、もちろんだ。ミノリは僕が守る』

『ありがとう、大好きだよ、真一』

『何だよ急に・・・でも・・・僕もだよ、ミノリ』


 完璧だ!

 真一はそう考えた。その他にも何パターンもミノリの行動を考え、その度にカッコいい切り返しを考えていた。何度も言うように真一はとても優秀な頭脳の持ち主であるため、相手の行動を予測し、それに応じた対応を考える事だって可能だ。しかし、今の真一は戦闘後の疲れと恋のせいで冷静さを失っており、今の予想が都合のいい妄想であることには全く気づいてもいなかった。


 真一はそのまま妄想に耽り、ワクワクしながら迎えを待っていた。すると、


「おーい!真一ぃ!」


 遠くからミノリの声が聞こえた。それを聞いて真一の胸は高鳴った。

 本当にミノリが来てくれた!僕を迎えに来てくれた!どこだ、どこから来る!真一は周りを見渡した。すると、奥の方に走ってくる人か見つけた。しかし、真一の予想とは異なり、ミノリは晴れやかな笑顔であった。


「やったね真一!あの歌を防げるなんて、本当に強くなったんだね!」

「当然だよ。知ってるだろ、僕が強いって事」

「あはは!そうだったね。じゃぁ戻ろう!みんあが待ってるよ!」


 そう言うとミノリは、後ろを向いてスタスタと歩き出してしまった。真一も流石にそれには驚いて、今までの演技を止めて素で叫んでしまった。

「えっ!?待ってよミノリ!ゴメン!えぇっと・・・ちょっと今回は疲れちゃって、手を、貸してくれないか?」

 途中で思い出したかのように演技を始めたが、それはもう既に遅かった。

「あっ!ゴメン真一!そうだよね!」

再び真一の元へやってきたミノリ。もう、真一の妄想のようにカッコ良くは決まらない状況になってしまったが、それでも希望を捨てることはなかった。

「はい、真一」

 ミノリは少しかがんで、笑顔で真一に手を差し伸べた。その様子は、真一が初めてSOLAに入った時を思い起こさせるものであった。思えばあの瞬間から恋は始まっていたのだ。真一は今一度ミノリへの恋心を深く確かめ、差し伸べられたその美しい手を取り、ミノリの感触と温もりを感じる事を想像した。


しかし。

「・・・っ!?」

ミノリの表情は急に険しくなり、何かを探すように周囲を見渡す。当然、真一に差し伸べていた手は引っ込められてしまった。

「ミッ・・・ミノリ?」

「しっ!・・・静かにして」


何が起こっているのか分からない真一は、ミノリの手を掴むために上げた腕をどうしていいのか分からずオロオロしていた。

「真一・・・何か聞こえない?」

「えっ?・・・」

そう言われて真一は耳を澄ませた。しかし、木々のざわめきの他には何も聞こえなかった。

「何も聞こえないけど・・・」

「ううん、確かに聞こえた。これは・・・歌?」

「えっ?」

「こっち!」

「ええっ!?」


 ミノリは真一の腕を掴み、強引に引き起こし、そのまま走り出した。木々の間を分け、どんどんと進んで行く。その道中も、常にミノリの表情は険しいままであったが、真一はそんな事に気づく余裕は一切なく、ただミノリに手を引かれているというこの状況にドキドキしていた。そしてミノリは、しばらく走った後に急に足を止めた。驚いてミノリにぶつかりそうになる真一だが、直前でなんとか踏みとどまった。

「どうしたんだよ、急に走って」

 そう言って見たミノリは驚きと恐怖の表情をしており、目の前の一点を見つめていた。真一はその視線の先を見ると、戦慄した。


 そこにいたのは一人の女性。長くて艶のある美しい金の髪、月明かりに映える白い肌、細く長い腕、そして成熟した女性の美しいプロポーションを持った女性である。白いワンピースを着て、両足で立ってはいたが、間違いない、先ほどまで戦っていた人魚の悪鬼だ。


Aaaaaaa・・・・


悪鬼はその口を開き、微かに歌った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る