第21話 作戦会議、再び

 真一がいない間に、SOLAの基地ではすでに悪鬼の対策が考えられていた。


 現在、御月を除いて最強のメンバーで挑んで完敗したため、SOLAの全ての部署が全力で事に当たっていた。

 心機開発部「夕空ゆうぞら」は、先日の戦闘でのデータを分析し弱点を突ける有効な武器を開発しようとし、医療部門の「星空ほしぞら」は、隊員の傷の治療と共に医学的観点から悪鬼の構造上の弱点を探り、有効な薬品を開発しようとしていた。


 今、夕空と星空の隊長たちが、真一たちの所属する実働部隊「大空おおぞら」の隊長代理でありるミノリと雅輝と共に会議をしていた。



「あの悪鬼の弱点はその強大すぎるパワーだ」

「あのパワーを発揮するためには強靭な筋力が必要です」

「近接攻撃が厄介でしかも範囲攻撃もある、となると近づいての攻撃は有効じゃない」

「あの細身であのパワーとなると、相当な密度の筋肉はあると考えられます。そこで、その筋繊維を破壊できる薬品を調合しました」

「遠距離での射撃は雅輝に任せるとして、有効な射程距離と悪鬼の出現ポイントを考えると狙撃ポイントは・・・」

「これは人体と魚の特徴を持つ悪鬼の体の一部を採取したもので、それらを総合的に分析し試行錯誤の結果・・・」



 夕空と星空の隊長は、それぞれやる気に満ち溢れていたが、自分たちがやったことを報告したいがためにひたすらにしゃべり続けていた。

 これでは会議とは呼べない。


「えぇっと・・・ごめんなさい。二人が頑張ってくれたのは分かるけど、順番にしゃべってくれないかな?私たちは聖徳太子じゃないから、同時には聞き取れないよ」

 ミノリが二人にこう言うと、片方の男、開発部「夕空」の隊長が言った。

「おお、悪いなミノリ。ついテンション上がっちまって。んで、どうする晶子あきこ?どっちが先に話す?」

それに応じ、医療部「星空」の隊長は答える。

「昔からこういう時はどうするかは決まっているでしょう、鉄也てつや

「そうだな」

「ええ」


会議の席についていた二人は同時に立ち上がり、お互いに距離を詰めていく。ある程度まで近づくとお互いに歩みを止め、拳を前に突き出した。



「「さいしょはグー! ジャンケンぽん!」」


「よっしゃー!!!」

「あああああ!!!」

 始まったのは、なんとジャンケンだった。

 こういった光景も見慣れているのか、ミノリたちは至って冷静にそれを眺めていた。


「じゃぁ最初は俺だ。」

 ジャンケンに勝利したのは開発部の隊長、日野原ひのはら鉄也てつやだった。年齢は24歳と、ミノリたちよりもかなり年上で、SOLAの結成当初からいた最古参のうちの一人だ。黒い髪をオールバックにし、それでもキッチリ整え過ぎず、フランクな印象を与える遊ばせ方をさせており、垂れ目ガチな瞳をし、まつ毛は男性とは思えない程に長く、耳には赤色のピアスをつけていた。黒いスーツを着崩し、そこに隊長の証である朱色の布をネクタイとして緩く結んでいた。

「奴の戦闘データを見させてもらった。なるほど、かなりの強敵だ。パワーがあり、スピードもあり、歌を使い、こちらの主力であるミノリの能力も無効化してくる。近接攻撃は知っての通りかなり強力で、更に歌の影響範囲は広く見積もって、奴を中心に半径100m、当然奴に近いほどその影響が強い。よって、こいつを攻略するためには遠距離から仕留めるしかない。そこで使うのが晶子たちが作ってくれた薬品だ」

言い終わると、鉄也は静かに席についた。


「私の番ですね」

 次に立ち上がったのは医療部門の隊長、雨宮あめみや晶子あきこだった。彼女も鉄也と同じく最古参の一人で、年齢は鉄也より1つ年下の23歳。明るい茶髪を後ろで一つに縛りそこに隊長の証である艶のある黒い布をリボンのようにして着けている。黒縁の細いメガネをしているが、その奥の大きく丸い可愛らしい瞳のおかげでお堅い雰囲気はない。深緑のニットにタイトスカートを着ており、上から白衣を羽織ってはいるが、その豊満なスタイルは隠し切れてはいなかった。

「悪鬼があれほどのパワーを出すには、相当量の筋肉が必要になります。あの細身であのようなパワーを出すためには、それほどまでに強力で高密度の筋繊維があると考えられます。よって、それらを破壊することができれば、あの悪鬼は無力化したも同然になります。私たちは手に入れた悪鬼の体の一部を調べることで奴の体組織を破壊できる薬品を調合することに成功しましたこれを奴の体内に打ち込めば、たちまち筋肉は萎縮し、一歩も動けなくなるでしょう」


「だが、問題はどうやって打ち込むかだ」

鉄也が口を挟む。

「その通りです」

しかし、今回はお互いを邪魔する事なく話が進む。


「歌のことを考えると、狙撃は奴から100m以上離れた場所から行うのが望ましい」

「しかし、前回の戦闘で雅輝さんが不意打ちで狙撃し、それを防がれていることを考えると100m先からの狙撃も防がれる可能性が高いでしょう」

「よって、誰かが奴を足止めしつつ、隙を作らなければならない。ならないんだが・・・」

「残念ですが、今のSOLAにそんなことができる人は・・・」

いない。そう晶子が言おうとしたその時。


バンっ、という大きな音をたてて、会議室の扉が開いた。



「いるぞ!!」



開かれた扉の向こうには、急いで走ってきたのか、息の上がった真一の姿があった。

「真一くん!今までどこに行っていたんですか?」

心配をする雅輝を気にもとめず、真一は話し出す。

「話は聞いた。悪鬼を足止めできればいいんだな?」

「ええ、そうですよ?でも、あなたは前回の戦闘で歌を防げなかった。それを考えると・・・」

「歌はもう防げる!堅牢剣の使い方が分かったんだ!」

「おいおい、お前の心機にそんな力があったのか?後で調べさせてくれよ」

「戦いに勝ったらいくらでも調べさせてやるよ!」



「真一・・・」


 興奮気味だった真一だが、彼を呼ぶこのか弱い声に反応し、一気に冷静に戻った。

 声の方を見ると、ミノリが心配そうに真一を見つめていた。瞳を潤ませ、両手を握りしめ、不安そうな顔で真一に問いかける。


「あの・・・本当に大丈夫?今回は、私は真一を守ってあげられない、それでも、大丈夫なんだね?」


 意中の女性から、心からの身を案じられて嬉しくない男はいない。真一は拳を強く握りしめ、力強く答えた。

「大丈夫だ、ミノリ。僕は強くなった、前までの僕じゃない。今回は絶対、ミノリを守り切って見せるよ!」


 そのセリフを聞いて、晶子は顔を真っ赤しに、鉄也はヒューと口笛を吹き、雅輝は呆れてため息をついた。

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