第18話 修行開始

 自称勝利の女神から、真一は色々なことを聞かされた。


 彼女たちは異なる世界から来たということ、自称勝利の女神の名前はレーナということ、そのそばにいた女性の名前はノビーということ。他にも多くの話をされた気がするが、そのほとんどは真一には理解のできない内容だった。

 ただ一つだけ確かなことは、彼女たちは真一の常識の範囲を超えた存在であるということだった。そうなると謎なのは彼女たちの目的であるが、今の真一にとってはどうでもいい問題だった。どんな意図や目的があろうと、あの悪鬼を倒せる手がかりが得られるなら進んで利用されてやろうと思っていたからだ。


「早速だがお前に修行をつけてやる。構えろ」


 レーナに言われるままに、真一は剣を構える。

 実力差ははっきりしている。今の真一に敵う相手ではない。しかし、相手の実力を知らなかった初対面の時と同じく、真一は全く怯むことはなかった。

 前回はいきなり突進して攻撃するという、自分の戦闘スタイルに合わない戦い方をしてしまったという反省を踏まえ、今度は真一本来戦い方、すなわち防御主体、カウンター狙いの戦術を取ることにした。


「来ないなら、こっちから行くぞ!」


 レーナからの最初の攻撃が放たれる。

 一瞬で距離を詰められ、間合いに入られる。

 その勢いのままに繰り出される斬撃は、前回真一が吹き飛ばされた攻撃に勝とも劣らない強烈なものだった。しかし、冷静に相手の動きを見極めていた真一にはかろうじてそれを防御することができた。安心したのも束の間、すぐに次の攻撃が来る。至近距離から放たれる分、今回の攻撃の方がスピードは速かった。しかし、どう来るか分からなかった初撃に比べ、一度攻撃を放った後の体勢からの攻撃は読みやすく、こちらも防ぐことができた。

 その後もレーナの攻撃を防御し続ける真一だったが、一向に攻撃に転じられずにいた。

 防御ばかりでは勝てないとは分かりつつも攻撃できなかったのは、攻撃のために一瞬でも防御をおろそかにしたら、その瞬間に攻撃を喰らうことが分かっていたからだ。歯痒くはあったが、勝負を急いではならない。冷静さを欠いて勝てる相手ではないのだ。しかし、相手が少しでも隙を見せたらその瞬間に今まで蓄えたエネルギーを一気に叩き込んでやるという気迫だけは常に放っていた。


 真一は次々と繰り出されるレーナの斬撃を全て完璧に防御した。しかし、防御し続け疲労も溜まってきた真一に対して、レーナは一撃も入れられていないのにも関わらず余裕そうな表情をしていた。

 おそらく、彼女はまだ全力ではないのだろう。ふと、レーナは攻撃をめ、距離を取った。真一は攻撃のチャンスかと思ったが、すぐにそうでないことに気がついた。


「防御はだいぶ様になって来たな。なら、次の段階へ進もう」


 そう言ったレーナは、右手を前に突き出しそこに膨大なエネルギーを集中させた。あの人魚の悪鬼の歌に匹敵するエネルギーに、真一は一瞬怯んでしまった。


 「あれは防げない」

 そう感じた。


 真一は、エネルギーが放たれると、間一髪でそれを避けた。レーナの攻撃は神殿の床を抉り、壁を破壊し、直撃せずともその衝撃で吹き飛びそうなほどの破壊力を持っていた。バランスを崩してしまった真一はすぐに体勢を立て直したが、視線を向けた先にレーナの姿が見えなかった。しかし、どこに行ったのか視線を動かすよりも先に、自身の首元に添えられた冷たい刃に気がついた。


 レーナは先ほどの攻撃を放った後、隙を見せた真一の後ろに瞬時に移動していたのだ。

「どうした真一。あれを防げなくては、悪鬼には勝てんぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る