強さを求めて
第15話 協力者
何とか悪鬼を退けることのできた真一たちはSOLAの基地に戻り、御月は特に何も語ることはなくそのまま病室に戻っていった。しかし、御月の力を借りてやっと撤退できた今回の戦闘は決して褒められるものでは無かった。
彼女を中心とした作戦を立てれば、どんな悪鬼でも瞬時に倒すことができるのに、それをしないのには理由があった。彼女は「天才」なのである。
「天才」とは、単に周りと比べて能力が圧倒的に優れていることや、知能指数が高いことを示しているのではない。それらは元々の素質に合った教育を受け、さらに本人の相当な努力の賜物である。つまり、とても優秀なだけの凡人なのだ。
本物の「天才」はそれの比ではない。
彼らは自分の命を犠牲に、特定の分野でのみ圧倒的な能力を得ることのできる特異体質の持ち主なのである。心機の開発で心のエネルギーについての研究も進む中で発見されたこの特異体質は、心が真に望む事柄について、それを成すために必要な膨大な心のエネルギーを生命力を削ってまかなうというものだった。本人が無意識下で望む真の願望にのみ適応されるその能力は、その願望を叶えるためにのみ自身を特化させる。
例えば御月の場合は戦闘力に特化しており、その代わりその他の能力、学力や戦闘以外での運動能力が極端に低く、更には戦闘中以外での精神年齢も幼くなる。そのため、「天才」はその才能の発揮できる事柄に命を捧げる他に生きる道はないのである。
現在、御月はこれ以上命を削らないために入院という形で安静に努めており、余程の緊急事態でない限りは彼女を出動させられない。彼女の命を守るためにも、それは必要なのだ。
このことを真一たち4人はもちろん、他の隊員たちも十分に理解していた。
その中でも、御月の実の妹であるミノリは誰よりも御月のことを心配していた。そんな彼女が、自分が原因で姉を出動させてしまったのである。
幸いにも能力を使ったのは一瞬、大したエネルギーは使わなかったようなので特に問題は無かったのだが、ミノリはこのことを重く受け止めていたようだ。基地に戻ってからのミノリは皆の傷のことを心配しつつ「今日分かったことを踏まえて次の作戦を考えよう」と、前向きに先のことを検討していが、真一には彼女がとても無理をしているように見えた。
何とかしたい。
ミノリを救いたい。
真一はそう思った。しかし、今のソラの戦力であの悪鬼に対抗できるだろうか。真一は一度基地の外に出て、近くの森で一人になって自分にできることを考えた。ここは真一のお気に入りの場所で、SOLAの訓練施設ではできないこをするための真一にとっての特訓場でもある。真一はここでゲームを攻略するように相手の弱点を探そうとしているのだ。場所を変え、空気を変えた方がいいと考えたからだ。相手の特徴、攻撃のパターン、防御の手段、そして一番の障害であるあの歌による攻撃の攻略法を見つけるために。
「唯一隙らしいものがあるとすれば・・・」
真一は今日戦った相手の行動を脳内で再生し、一つの可能性を見出した。
「あの歌う前の溜め・・・か」
そう、あの悪鬼は歌う前に魔力を溜めていた。その時に若干の隙があった。
「・・・でも、時間はそんなに長く無かったな」
溜めの時間はおそらく5、6秒。しかし、歌の攻撃を1度しか見られなかったため、これより短い時間で歌を放つことができる可能性も考えられる。それに5、6秒の間にあの高速で動き回る悪鬼に近づき攻撃することは真一にはできなかった。
「大智のスピードならあるいは・・・いや、それじゃパワーが足りないし危険もある・・・。雅輝の矢なら・・・いや、悪鬼をひるませる程の魔力を溜める時間はないか・・・」
味方の戦力も考えつつ攻略法を必死に考えたが、やはり答えは出なかった。
「クソッ!どうすれば!!」
悔しさと情けなさで憤り、真一は近くの木に拳を叩きつけた。素手で硬く凹凸のある樹皮を殴ったため、皮膚は破れ、そこから血が流れたが、そんなことなどどうでも良くなるほどに、愛する者を守れない自分が惨めに思えたのだ。そんな時。
「見つけた。こんな所にいたのか」
真一の背後から声が聞こえた。驚いた真一が振り返ると、そこには帽子を目深に被った二人の女性が立っていた。二人の格好はよく似ていたが、片方の髪は黒く、もう片方は白かった。
「誰だ?あんたたちは?」
真一の問いに対して、黒髪の方が答える。
「お前を助けに来た勝利の女神ってところかな?」
声からして、最初に話しかけてきたのはこちらの方だろう。それにしても自らを勝利の女神と名乗るなどどんな自意識過剰な女だ。疑いの目を向ける真一など気にもせず、黒髪の女性は更に話を進める。
「おい真一。お前、あの悪鬼を倒したいんだろ?」
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