第13話 破滅の歌声

 金色の翼をはばたかせ、地を這う人魚は浮上する。

 月明かりに照らされたその姿は、思わず見惚れてしまうほど美しかった。

 

 悪鬼はそのまま大きく息を吸い、同時に膨大な量の魔力を溜め始めた。

 美しい見た目とは逆に、その魔力は凍えるような恐ろしさを感じさせるものだった。真一たちは各々に咄嗟に防御の姿勢を取った。大技が来ることを予感したのだ。


 全員を攻撃から守るため、ミノリは魔力を防御に特化させるための曲、魂楽多重奏こんがくたじゅうそうやしろ】を発動した。全員の防御力の強化に加え、守りに特化した真一の魔力を上乗せした【社】の魔力は、短い間とは言え鉄壁の守りとなる。やがて悪鬼は息を止め、次の瞬間に全ての魔力を解き放った。



Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa



 それは悪鬼の歌だった。いや、歌と呼ぶにはあまりに乱雑な音だ。例えるなら、それは叫び。聞く者に恐怖を与えるための獣の雄叫び。

 耳をつんざくようなその叫びと共に放たれた衝撃波によって、真一たち4人は吹き飛ばされてしまった。最大限の防御をしていたにもかかわらず、悪鬼のそばにいた真一と大智はかなりのダメージを負ってしまった。



「どう言う・・・ことだ・・!?」

 ボロボロになりながら、真一は言った。


 真一たちは【社】の魔力によって守られていたはずである。にもかかわらすこれほどのダメージを負うのは、通常ではあり得なかった。よほど強力な攻撃ならそれも考えられるが、周りの被害を見る限り、それほどまでの破壊力があるようには見えなかった。一体何が起こったのだろうか。一同が混乱する中、いち早く真相にたどり着いたのはミノリだった。


 彼女は恐怖に怯えた目を見開き、笛を握る手はガタガタ震えていた。その震える唇から、溢れるように呟く。


「私の音が・・・かき消された・・・!」


 どんな美しい音も、わずかなノイズが混じればその価値は地に落ちる。

 美しい音楽は、その音の持つエネルギーにおいては、騒音に対して絶対に勝てはしないのだ。悪鬼のあの叫びを前にした時、ミノリの曲は全く意味をなさない。


 悪鬼は、真一たちの戦術の根幹を破壊したのだ。

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