番外編③ 観戦者

 時は少し遡る。


 真一たち4人が悪鬼との戦闘を開始してから暫く後、悪鬼が進化する前。あの湖から上空に数十メートルの位置に、例の二人はやはりやって来ていた。例の二人とはもちろんレーナとノビーのことである。

 二人は自身にかかる重力を制御し、空中を浮遊しながら真一たちの戦いを眺めていた。



「うわぁ!あの4人すごいね!」

ノビーが嬉しそうに声を上げる。

「最初は大丈夫かなって思ったけど、もうこっちのペースになってる。これなら安心だね!レーナ!」

しかし、レーナは険しい顔をして真一たちの戦闘を眺めており、ノビーの言葉に対して中々返事をしなかった。



「レーナ?大丈夫?」

心配したノビーがレーナの顔を覗き込むと、レーナはようやく我に帰ったらしく慌てて返事をした。

「おおすまん!・・・悪いな。ちょっと考え事をしていて・・・」

「考え事?何考えてたの?」

「・・なぁノビー。あの悪鬼、妙だと思わないか?」

そう言われてノビーは真一たちと戦っている悪鬼の方に目を向けた。

 尾びれや爪で強力な攻撃を繰り出す悪鬼は、いまだに真一たちの術中にはまったまま、徐々に追い詰められていた。

「何か変な所あるかな?」

「そうか・・・私の気のせいなら良いんだが・・・」

そう言ってレーナはやはり険しい顔で戦闘を見続けている。


 そんな様子でいつまで経っても考えていることを言わないレーナにしびれを切らしたノビーは、彼女をしつこく問い詰めた。

「ちょっと!何考えてるの!?気になるじゃん!?良いから言ってよ!」

「あぁ!?だから気のせいだって!」

「気のせいでも良いから言って!!」

問い詰められたレーナは大きなため息をついたあと、観念したように語り出した。

「あの悪鬼、最初は何をしていた?」

「何って、最初からずっと爪と尾びれで攻撃して来てるけど?」

「戦う前だ。最初の攻撃をする前。あのメガネ男が攻撃する前。あの悪鬼は何をしていた?」

「それは・・・」

ノビーは記憶を遡り、あの悪鬼の戦闘前の様子を思い出す。

「歌を・・・歌っていた?」

ノビーの言葉を聞いて、レーナはうなずく。

「そうだ。あいつは歌ってたんだ」

「でもそれって、あれは有栖川を狙うような悪鬼だし、歌うのもその関係なんじゃ・・・」

「ああ、それだけなら良いんだ・・・それだけなら。でも、爪や尾びれでだけで攻撃するような脳筋人魚が、歌うなんて妙だと思ったのさ」

レーナの顔が一層険しくなる。



「あいつはまだ奥の手を隠してる。そんな気がするんだ・・・私の気のせいなら良いんだがな」

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