第12話 ミノリの力 魂楽多重奏

 真一たち4人はそれぞれ得意な間合いを取って悪鬼と戦っていた。

 真一は接近戦を

 雅輝は遠距離からの狙撃を

 そして大智は高速で近づき、攻撃しては離れてを繰り返していた。

 真一の隙を大智が高速でカバーし、攻撃が大智に集中しないように真一が引きつけ、そしてその間に雅輝が遠距離から少しずつダメージを与えていく。


 戦況はとても安定していた。味方の被害は最小限で、それぞれの動作のカバーの遅れもほとんどない。これらを真一たちは当たり前のようにできていたことには理由がある。それはミノリの存在だ。

 彼女の心機「魂結たまむすびのふえ」の能力は、味方の能力を強化するものであった。しかし、それはその能力の一側面に過ぎない。

 

 彼女の真の能力は、音を通して味方の心を繋ぐこと。


 彼女たちの武器である心機とは、心の力を元に編み出された魔力をエネルギーとして使っている。彼女は、その大元となる心の力を仲間同士で繋ぐことができるのだ。そして、それにより仲間同士で思考を共有すると共に、繋ぎ合わせた心の力を元に更に強大な魔力を編むことができる。

 ミノリは戦闘の全体図を常に把握し、その強大な魔力を戦況に合わせて適切に仲間に分配し、同時に指示も出している。そのおかげで、真一たちは安定して敵に攻撃できているのだ。



 最初こそ、そのスピードとパワーに押されていたが、真一たちの攻撃は徐々に悪鬼を追い詰め、ついに悪鬼に倒れて、うずくまった。チャンスだ!

 皆がそう思った。その瞬間、ミノリはありったけの魔力を込めて曲を奏る。

『決めるよみんな!』


 彼女が奏たのはテンポの速い四重奏。

 切り込むような鋭い音色のミノリの主旋律。それに真一、大智、雅輝の魔力から生まれる中低音が組み込まれ、激しく攻撃的な1つの曲として完成し、強大な魔力を形成する。


魂楽多重奏こんがくたじゅうそうはらい】!』

ミノリの力で完成された【祓い】の魔力は、皆の心機を攻撃に特化させた。真一は今までの防御で堅牢剣にため込んだエネルギーを一気に解放し、大智はトップスピードで突進し、雅輝はその一矢に全ての魔力を込めた。これが決まれば勝負はつく。



しかし・・・。



バサァァァッ!



 うずくまっていた悪鬼に、突如として金色こんじきの翼が生え、悪鬼が空へ舞い上がった。

 その衝撃に真一と大智は吹き飛ばされ、雅輝は矢を放つ姿勢を崩された。


 今まで地を這っていた人魚が、翼を得て大空を泳ぐようになった。


 それは、悪鬼が進化した瞬間であった。

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