第11話 SOLAの戦い方

 雅輝は彼の心機しんき魔弓まきゅう」に矢をつがえる。

 悪鬼はまだこちらに気づいていない。いや、気づいた上で警戒していないのかもしれない。こちらの戦力など相手ではないと考え、眼中にないのかもしれない。


 しかし、悪鬼がどう考えているにしろ、この状況はチャンスだ。雅輝はキリキリと矢を引き絞り、悪鬼の脳天を射抜こうと、慎重に狙いを定める。そのとき、悪鬼がこちらを振り向いた!



雅輝は全神経を集中させ、正確に矢を放った。

ヒュンと風を切る音と共に、振り向いた悪鬼の額を目掛けて矢は一直線に突き進む。雅輝の魔力を込めた矢は、悪鬼にとっては脅威となる。

命中すれば一気に勝敗を決する可能性のある必殺の一矢いっしだ。完全に振り向いた悪鬼の額を、今まさに矢が貫こうとしている。

あの距離ではもう避けようがない。

決まった!・・・・・誰もがそう思った。


しかし、





バシャァァァン!



悪鬼の尾びれによって、雅輝の矢は一瞬で弾かれてしまった。

真一たちに戦慄が走る。


その直前まで、悪鬼の尾びれは完全に水の中から動いておらず、当然、ガードする素振りなど微塵も見せなかったのだ。そこからあの矢を弾くなど、とんでもないスピードとパワーが必要となる。しかし、落胆している暇などなかった。

完全に見開かれた悪鬼の赤い瞳が、まっすぐこちらを見据えているのだ。そのまま悪鬼は一切表情を変えず、水の中へもぐって行った。



「来ます!真一くん、防御を!!」

雅輝の掛け声と共に、真一は仲間の前に立ち、防御の姿勢をとる。

と、次の瞬間、ザバァと大量の水が巻き上げられると共に4人を目掛けて悪鬼が突進してきた。相手の攻撃を見極め、真一の剣は悪鬼の突進を見事に受け流し、逸らすことができた。しかし、一瞬でも構えが遅れていたら致命傷だった。防御に特化した彼の「堅牢剣けんろうけん」ですら、今の一撃は正面から受け止めることはできなかった。陸に上がった悪鬼は体をくねらせ、まるで蛇のようにこちらへ迫ってくる。


 次に来る攻撃は先程と同じではない。水から出ると同時に仕掛けてきたさっきの攻撃は、悪鬼にとっては直前までこちらの様子が見られない状況で仕掛けられたものだった。しかし今は、こちらをしっかりと見定めたままに繰り出される。それに、足場は水という不安定なものではなく、安定して体重を乗せた攻撃を放つことができる陸の上だ。つまり、狙いもスピードもパワーも、先程の攻撃から数段強化されたものが来るのである。そんな攻撃を真一一人では防げるはずもなかった。



そう、一人では。


 ミノリは彼女の心機「魂結たまむすびのふえ」を取り出した。そして音楽を奏でると共に味方全員の能力を強化する。

 そのとき悪鬼の爪による攻撃は、まさに真一を引き裂こうとしていた。先程は攻撃を受け流すのが精一杯だった真一であったが、今回はどっしりと構え、集中して敵の動きを見極めた。真一は悪鬼の攻撃を一番力が入る角度で受け、その攻撃をピッタリ止めた。

 しかし、やはり悪鬼の力は強かった。ジリジリと押し返され、もう受け流しに転じることもできない。このままでは弾かれると思ったそのとき。ミノリは、自分と雅輝と大智の分のエネルギーを真一に集中させた。湧き上がるエネルギーと共に強化された真一は、悪鬼との押し合いで次第に優勢となり、ついに悪鬼を弾き飛ばすことに成功した。


「接近戦は僕に任せて!ミノリたちはできるだけ遠くへ!」

「分かった!移動をお願い、大智!」

「了解ミノちゃん!」

 大智は瞬時に彼の心機を起動させた。大智の心機「遊浮王ユーフォー」は、その名の通り、人一人が乗れる程度の空飛ぶ円盤だった。その下部から大きなマジックハンドを伸ばし、ミノリと雅輝をがっしりと掴んだ。

しんにい!本当に任せたよ!」

「ああ!」

そう言うと大智たち3人は遊浮王と共に高速で戦線を離脱した。


ここまでは順調、作戦通りだった。

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