第10話 作戦開始

 午前0時、真一たちは悪鬼討伐作戦に向かっていた。

 場所は大空学園より北に数km離れた森の中。起伏は少ないが、丈の高い木に囲まれた見通しの悪い土地だ。今回のターゲットは、この森の奥にある湖の近くに現れる。真一たち4人は武装し、目的地へ向かった。流石に作戦中は真一も「ミノリが近くにいる!いいとこ見せるぞ!」などと浮かれてはいなかった。至って真剣に作戦内容と相手の情報を脳内で反芻はんすうしており、戦う心の準備は万全であった。


 見通しの悪い暗い森を抜け、真一たちは月明かりに照らされる開けた湖へと出た。見渡す限り一面の湖畔、肌ざわりの良い涼しい空気、静かな水面は鮮やかに周りの景色を映し出し、夜空に輝く星さえもその中にはっきりと見てとる。その水面の様子はまるで、そこに新しい空が広がっているようにも見えた。その景色はため息が出るような絶景であった。そして、そこにいる誰もがその美しさに心を奪われそうになった。しかし、その感動もすぐに緊張へと変わった。


aaaaaaaa・・・・


 歌が聞こえたのだ。

 それは大空学園の学芸会で聞いた有栖川の歌と似ていて、とても美しい歌声だ。しかし、そこには彼女の持っていた温かさはなかった。ただ機械的に歌った、心の感じられない歌声だった。

 

 真一たちはその歌声がする方向へと目を向ける。

 4人の視線の先にある湖の奥の岩場、4人はそこに、腰をかける一人の人魚の姿を見た。長くて艶のある美しい金の髪、月明かりに映える白い肌、細く長い腕、そして成熟した女性の美しいプロポーションを持った人魚。彼女は尾びれとなった下半身の鱗を水滴に煌めかせながら、虚空に向けて歌っていた。その姿はまるで物語に出てくる人魚姫そのものであった。


 だた一つ、違うところがあるとするならば、その表情に生気というものが一切感じられなかったことだ。人魚姫のように王子様に憧れるでもなく、海の怪物のように男を誘惑するでもなく、ただただそこに存在している。その姿と歌声で強烈な存在感を放っておきながら、置物のように存在するそれは、えも言われぬ不気味さをかもし出していた。

「準備はいいですか?みなさん」

雅輝がみんなに呼びかけた。

「まずは私が牽制けんせいします。そして相手がこちらに気づいたら、いよいよ作戦開始です」

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