決戦

第9話 作戦会議

 いよいよ悪鬼討伐の作戦会議が始まる。

 

 SOLAは軍隊ではない。基本的には少数先鋭の小隊で行動し、世間に知られないよう秘密裏にターゲットの悪鬼を撃破する。よって、この作戦に参加する人数も4人と、とても少なかった。メンバーは真一とミノリ、それに雅輝まさき大智だいちだ。4人とも現在のSOLAでは最強と言っていいほどの実力の持ち主で、真一を抜く3人は幼い時からSOLAで育てられており、他の隊員よりも戦闘経験が段違いに多かった。しかし、この4人が各々別の作戦で主力となることは多くあっても、全員が同じ作戦に参加することはほとんどなかった。つまり、今回の悪鬼はそれほどまで強いと判断されたということだ。作戦に参加するみんな、そのことは理解しており全員に緊張が走っていた。



「ヤッホー!ミノちゃん真にい!久しぶりに一緒の作戦だね!頑張ろうね!!」


・・・・はずだった。


「大智ぃ!元気だった?私がいないからって作戦中に他の人に迷惑かけてない?」

「大丈夫だってミノちゃん。オレもう12歳だよ!こんなに楽しくなるのはみんなといるときだけだよ。だったら問題ないよね!」

 元気いっぱいという様子のこの少年が風間かざま大智だいちである。年齢はおそらくSOLAの中でもかなり幼い部類であろう12歳。身長は140cmほどで、寝癖のようにぴょんぴょん跳ねた髪が特徴的だ。作戦会議の最中だというのにこの落ち着きのなさは普通なら大問題であるが、彼の言う通り、このメンバーであれば彼の態度は問題ない。なぜなら、どんなにその場が乱れても、それをまとめることのできるリーダー格が2人もいるからだ。

 一人はミノリ、混乱することの多い作戦でも、指揮官になることの多い彼女はつねに冷静に指示を下し、隊員も彼女の指示ならすんなり聞き入れる。しかし、そんな彼女も今は大智と一緒にはしゃいでいる。これは、もう一人のリーダー格である八雲雅輝やくもまさきがいるからである。


「大智さん、はしゃぐための体力は作戦のためにとっておきましょうね。ミノリさんも、久しぶりだからって大智と一緒にはしゃぎすぎですよ。一緒に作戦ができて嬉しいのは分かりますが」


 雅輝まさきはこの4人の中でも最年長の18歳。身長も185cmとかなり高く、短く整えられた銀の髪に切れ長のつり目をしたメガネの青年だ。大空学園高等部の制服をきっちり着こなし、年下の隊員をたしなめるところは、先輩らしいというよりもまるで先生のようだ。

「真一くんを見てください。しっかり席について作戦を聞く準備ができていますよ」

 本当に先生のような言い方で模範生のように扱われて、真一は少しだけ恥ずかしく思った。実を言うと、真一は他の3人の行動にまだ完全に着いていけてないところがある。会議の席に大人しく座っていたのは、ただ単に会話の中に入っていくタイミングが掴めなかっただけなのだ。本当ならば彼もこの機会にミノリと自然に会話したかったのである。


「はい、みなさん席に着いてください」

「はーい。雅にいって本当に先生みたい」

「そうだね。18歳って本当かな?実は30歳くらいなんじゃない?」

「聞こえてますよ」

 ハハハと、笑いながらも、ミノリと大智は席に着いた。

 先ほどまでは年齢相応の子供のようであったが、彼らもまた戦いの中に身を置く者。作戦会議の重要性は理解していた。雅輝はそのまま会議室のモニターの横に立ち、ようやく作戦会議が始まる。


「データを送りました。端末を確認してください」

 雅輝の指示通りに、真一たちは手元に置いてあったタブレット端末のデータを開く。そこには今回のターゲットとなる悪鬼についての情報、例えば見た目、大きさ、攻撃方法、行動の特徴などがぎっしり載っていた。これらは全て今までこの悪鬼と戦ってきたSOLAの隊員たちの戦闘データから取ったものだ。隊員たちは戦うたびに対策を立ててきたが、そのどれもターゲットを倒し切るには及ばず、お互いに損害を受けては撤退を繰り返していた。


 悪鬼という怪物の実態は謎に包まれた部分が多くある。例えば、悪鬼はどこから来てどこへ消えるのかは全く分かっていない。そして、日中には現れない。しかし、日中どこにいるのかは全く分からないのである。夜になると突如として現れ、標的となる心の強い者を襲いに行くのだ。また、ある一定以上の損害を負った場合と、日が昇った時にも忽然と姿を消す。損害を与えたら逃げられてしまうなら、絶対に倒せないじゃないか、と思ったかもしれない。しかし、そこは安心してもらいたい。悪鬼は近くに心の強い者がいて、なおかつ日が沈んでいる限り姿を消すことはない。つまり、夜間にSOLAの隊員が悪鬼と交戦を続けている限り、悪鬼は絶対に姿を消すことはないのだ。それ程までに悪鬼にとって心の強い者を襲うことが重要なのだと考えられているが、その明確な理由は謎のままである。


「今回のターゲットはこの人魚のような悪鬼です。初めてSOLAの隊員と交戦したのは2週間前。見た目こそ美しいですが、その攻撃は強力で体当たりと尾びれによる攻撃で30人もの隊員が重症を負いました」

「2週間で・・・30人・・・」

冷静に淡々とした雅輝の説明を聞いて、真一は青ざめた。

「しかし、そのほとんどは医療班の活躍もあり今では完治し、日常生活にも支障はありません。ですが、その内4人は後遺症が残り、2人は今も集中治療を受け続けています」

 負傷した隊員のリストには、真一と一緒の作戦に参加したことがある隊員もいた。みな戦闘経験も豊富で、決して弱い訳ではなかった。正直、これ程までの敵だとは想定していなかった。死者が一人も出ていないのは幸いだったが、重症患者が30人も出たというのは相当な数だ。果たして自分たち4人で勝てるだろうか・・・。

「でも、俺たち4人揃えばどんな悪鬼が相手でも楽勝じゃん!」

 大智は立ち上がり、ガッツポーズと共に空気も読まずに言い張った。

「大智さんはこんな時も元気ですね。しかし、私たちは無敵でも不死身でもありませんよ。なので作戦を立てる必要があります」

「うん。私たちは無敵じゃない」

雅輝の言葉を受け、ミノリは噛み締めるようにそう言った。

「今まで戦ってくれた隊員もみんな強かった。私たちはその強いみんなの思いを背負ってる」

真剣な表情でミノリは語る。今まで戦ってくれた仲間の思いを受けたその言葉は、真一たちを集中させ、静かに士気を高める。

「みんなが私たちに期待してる。私たちならあの悪鬼を倒してくれるって!」

ミノリは更に強く言い放つ。

「大智はそのスピードでどんな相手にも対応できるし、真一は絶対にみんなを守ってくれる、そして、雅輝の立てた作戦はみんなを勝利に導いてくれる」

そう、このメンバーは現在SOLAでは最強の布陣。負けるはずなどない。そう強く思わせるだけの力が、ミノリの言葉にはあった。そしてみなの表情を確認したミノリは、真剣な面持ちから少し顔をほころばせ、微笑みとともにゆっくりとこう言い足した。

「そうでしょ?みんな」

ミノリはみなの顔を見渡した。

「ええ、当然です。今回の作戦も完璧ですよ」

「うん!それじゃみんなで勝つよ!!」

ミノリの掛け声と共に、雅輝は具体的な作戦内容の説明を始めた。

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