番外編② 傍観者

 真一とミノリが去っていくのを、茂みから覗き見していた二人が顔を出した。

「あの有栖川とか言う女、大物だったな」

「うん、まだ子供かもしれないけど、大人になったらきっと凄い歌手になるだろうね」

 この二人とは、もちろんレーナとノビーのことである。二人はミノリと真一のデート(?)の様子を見るためにここまでわざわざ追いかけてきたのだ。そして、ミノリと真一、そして有栖川の会話を全て盗み聞きしていた。彼女たちの能力が常識では考えられないものであることはもう説明したが、今回もまた盗み聞きのためだけにその能力を惜しげもなく発揮させた。まず気配遮断と視覚情報の操作によって、あたかもそこにいないことを装い、超人的な聴覚によって遠くにいる真一たちの声を正確に聞き取っていた。

「しっかしあれだな、真一はとんだヘタレだな」

「あはは、そうだね。もうちょっとしっかりしてほしいよね」

「本当だよ。せっかくキレイな面してんだから、もうちょっと自信を持って行動できないもんかね?」

「うーん、いわゆるコミュ障ってやつなのかも」

「コミュ障?なんだそれ?」

「うーん、人との接し方が苦手な人のことだよ。ちょっと前にできた言葉みたい」

「人との接し方が苦手?あの顔でか?・・・ただニコニコしてれば周りがいいように解釈してくれそうなもんだと思うんだがな」

「きっと色々あったんだよ。色々と・・・」

「色々・・・かぁ」

 そう言って二人は真一たちが去っていった方を見つめた。今、仮初であるとはいえ、この日本と言う国は平和な状態であった。そんな中で、彼らは悪鬼という怪物と日夜戦っているのだ。そこにいるような人物が普通であるはずがなく、普通の人生を送って来たはずなどないのだ。細かい事情はレーナとノビーには分からなかったが、真一にも壮絶な過去があるのだろうと思った。

「・・・それにしても、だ」

レーナが少し呆れた表情で呟いた。

「真一のやつ、あれは完全に脈なしだな」

「そうだねぇ・・・かわいそうだけど、うん、脈なしだね」

「眼中にない・・・とまで行かなくても、恋愛対象としては見られないだろうな」

「でもさ、ちょっとだけ応援したくならない?」

「はぁ?あのヘタレをか?」

「ヘタレだからだよ。なんと言うか、放っておけない、みたいな?」

「・・・まぁ、悪いやつではないだろうし、ミノリにも幸せになってほしいからなぁ・・・」

「ねぇねぇ、じゃあさ、私たちで真一の恋の手助けをしてみない?」

「正気か?さっき完全に脈なしって言ったじゃないか?」

「でも、真一って顔はいいでしょ?それに、多分結構強いよね?悪い人じゃなさそうだし、可能性はあると思うの」

ノビーの突拍子もない提案に、レーナはかなり呆れた、ノビーの表情はとても楽しそうだった。ここでダメだと言ってもきっと聞かないだろう。

「はぁ・・・。で、作戦は?」

「あはっ!ありがとうレーナ!女の子を攻略する方法と言ったら、悪鬼との戦闘でミノリちゃんをカッコよく助ける!これしかないよ!」

「・・・・なぁノビー。さっきから薄々感じてはいたんだが、お前ひょっとして日本の文化に影響されすぎなんじゃないか?それだって何の漫画の影響だ?」

「とにかく、これが最高効率なの!」

「あーあー分かったよ!・・・どうせ恋愛において私たちにできることなんてそこまで多くない。だが、それなら私たちでもできそうだ」

「うんうん!そうと決まれば、真一たちの戦場に直行だね!」

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