第7話 二人きりになってしまった・・・!

 ミノリがどこかへ行ってしまってからしばらくの間、真一は一言も話せずにいた。元々誰かとすぐに打ち解けることのできるような性格でもなく、また、そういった努力もしてこなかった。さらに今回は相手が年下の少女である。真一がまともに話せないのは当然であった。


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 気まずい空気が流れる中、最初に沈黙を破ったのは有栖川であった。

「ねぇ、真一には夢はある?」

急な質問に真一は戸惑った。

「えっ?夢、かぁ。特にないかな」

それは正直な意見だった。真一は勉強もスポーツも優秀ではあるが、それが真剣に好きで、もっと上達したいと思ったことはなかったのだ。有栖川のように純粋で輝くような夢は持っていなかった。


「えっ?そうなの?・・・じゃぁ、好きなことってある?」

「あー・・・そうだな、ゲームは、好きかな?」

真一は、多分こういうことを聞きたいんじゃないんだろうな、と思いつつも、これしか好きなものが思い浮かばなかったので、正直に答えた。

「ゲームが好きなんだ!どんなゲームなの?」

「RPGかな。あぁ、ロールプレイングゲームの略ね。味方のレベルを上げたり、武器や魔法を使って仲間と一緒に敵を倒すんだ」


 僕は何をやっているんだ。真一は思った。

 普通なら年上の自分が会話をリードして雰囲気を作るべきなのに、あろうことか年下の少女に気を遣わせている。挙句おそらく彼女には理解しづらいであろうゲームの話なんかしてしまった。本当に何なんだ。

早くミノリ戻って来てくれ!

「真一はそのゲームのどんな所が好きなの?」

有栖川はまた質問をしてきた。真一は何となく気まずくなりながらも、質問されたからには答えない訳にはいかなかった。

「えっと、音楽とか戦闘とか技のカッコよさとか、良い所はいっぱいあるんだ。・・・でも、一番好きな所は、物語かな」

真一は、ゲームのことを知らない有栖川にも分かってもらえるように、できるだけ分かりやすく、丁寧に、噛み砕いて説明しようと心がけながら答えた。


「ゲームが始まったばかりのときは、主人公は弱くて、仲間も少ない。でも、物語が進むにつれて強くなって、最初は関わることもなかった他者と出会って、仲間が増えていく。仲間はそれぞれ目的が違って、仲間になる理由もそれぞれ。だから、途中で仲間割れがあったりもする。それでも最後はみんなで協力して強大な敵に挑んでいくんだ」


 ヤバイ、語り過ぎたか。真一はそう思った。引かれたかもしれない、伝わらなかったかもしれない。そう考えると急に恥ずかしくなってきて、急いで話のまとめに入った。

「まあ、ゲームによって物語は色々違うけど、僕はそういう仲間と一緒に敵を倒すって所が好きなんだよ」

真一は何とか作り笑いを浮かべ、有栖川の方を見た。ゲームが好きだなんてガキっぽく、先ほど彼女が語った夢と比べるととても幼稚な趣味であるという自覚があったからだ。とても夢と呼べるようなものではない。できることならさっさと話題を変えて欲しかった。「ふーんそうなんだ。それでね!・・・」と、何事も無かったように流して欲しかった。しかし、真一の答えを聞いて、有栖川はそっと微笑んだ。


「強くなって、仲間と出会って、その仲間と協力して敵を倒す・・・真一は、そういうことが好きなんだね」

一迅の風がそっと吹き抜けた。それは暖かく、優しく、真一の不安だった心を溶かすようだった。

「よかったね!その夢はもう叶ってるよ!」


 有栖川は満面の笑みを浮かべてそう言った。

 同時に雲の隙間から日が差し、真一たちの周りを明るく照らした。照らし出された有栖川の金の髪はサラサラと美しく煌めき、輝く目は真っ直ぐに真一を見つめ、白い肌は輝くようだった。


「あ、ありがとう・・・」

あまりの出来事に、真一は呆気に取られてこんな気の抜けた返事をしてしまった。しかし、本当はとても嬉しかったのだ。自分の好きなことを誰かに認めてもらうというのは、それだけで自分を受け入れてもらえたように感じるからだ。

 しかし、真一はすぐに疑問に思った。

「あの、夢が叶ってるってどういうこと?」

「えっ?そのまんまだよ?」

「そのまんま?」

「うん。だって、もう真一には仲間がいて、その人たちと協力して敵と戦っているんでしょ?」

有栖川の言っていることはある意味では正しかった。

しかし、彼女がそう言い切れるのはおかしかった。



「君はもしかして、僕たちが何をしているのか知っているのか?」

有栖川はゆっくりと頷いた。

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