第45話 東方小国群 ライクライ⑧
ロッティーシャさんの宣言通り、森の奥には瀟洒な城が鎮座しておりました。そして、その門は固く閉ざされていたのですが、私たちが近づくと音もなく口を開き始めました。世界一のもーたーでも付いているのでしょうかね。『休みたいならば辞めればよい』とか言っていたのに、急に手の平を返して『残業ゼロを実現する』とか言ってみたりとか。残業『代』を0にする、という意味かも知れませんが。働き方改革、って奴ですね。
「入って来い、ということか……。」
先ほどのロッティーシャさんもかなり自信家のきらいがありましたので、『お姉さま』の方もそれに違わぬ性格なのかもしれません。実際、相当な実力でしたので、それ以上となるとかなり厳しい感は否めません。というより、今から引き返してもいいでしょうか?城主の趣味嗜好の観点からも、嫌な予感が天井知らずです。
そんな私の思いはつゆ知らず、皆さま中へと進まれてしまいましたので、私もそれに従います。時には諦めも肝心です。最悪でも命は取られずに済むでしょうか?玩具にはされそうですが。着せ替え人形とか。
そして、全員が入り切ったところで、開くとき同様に音もなく退路が断たれることとなりました。これは、全滅しても外からやり直しが出来ないパターンっぽいですので、覚悟して進んだ方がよさそうです。
中へと進んだ私たちの前に、半透明の童女が唐突に姿を現しました。こんなところに居るはずのないものなのにも拘らず、何故かいるのが当然といった感じで、全く違和感を憶えません。そして、害意も全く感じられませんでした。それは、他の方々も同様だったらしく、童女に対して臨戦態勢をとられた方は誰もいらっしゃいません。
その子は無言のまま私たちを先導し、城の奥へと導いていきます。罠の可能性が高いとはいえ、漠然と広大な城を探索するのは得策ではないので、黙って着いていく事にしました。
音のもなく歩き続ける事しばらく。途中、脇に目をやると招き入れられる事なく通り過ぎた脇の部屋の中には、生かさず殺さず話を聞くためのものらしきものも視界に入りましたが、今は見ないふりです。中に誰もいませんよ?
そして、ダイニング?らしき部屋の手前で童女が立ち止まると、こちらを向いて一礼しました。やっぱり中に入れ、という事でしょうかね?
皆さんが意を決したように次々と中に入られたため、いつも通りしんがりは私と相成りました。
「道案内、お疲れさまです。お邪魔して申し訳ございませんでした。」
私が声を掛けると、童女はびくっと驚いたような表情になりましたが、直ぐに頬を上げ笑いかけてくれました。万が一、次来る事があれば、何かお土産でももってきましょうかね?
扉の奥へと進んだ私たちの目の前に現れたのは、漆黒のドレスを纏った美少女でした。少なくとも見た目は、ですが。肩にかかった銀色の長いツインテールがゴシック調のドレスとマッチして、怪しげながらも格調高そうな雰囲気を醸し出しております。
少女は手にもっていた白亜のティーカップの中身を艶っぽい唇にて飲み干すと、私たちに落ち着いた口調で話しかけてきました。
「あらあら。無粋な訪問者だこと。こんなところに一体何の用でしょう。」
容姿に合った、よく通る高い声がそう問いかけます。丁寧な口調ですが、その中には嘲りが含まれています。そして、手に持っていたカップもいつの間にか姿を消していました。
「……と一応は言ってみたものの、そんな事はどうでもいいわね。まずは、私の居城に土足で踏み入る無礼者たちにお仕置きをして差し上げないと。長年、訪問者がいなくて退屈していたところだから、丁度いいわ。少し遊んであげましょう?」
そこで、少女から圧倒的な殺気と魔力が放たれました。オロチさんに匹敵するレベルの力を感じます。これは危険な感じがしてきました。束になってかかっても傷一つ付けられない可能性が高そうです。○以下のダメージは無効、みたいな。魂とか、熱血とかが必須ですね!
「皆さん気を付けて下さい!オロチさんクラスの力を持っているようです!」
私が口に出して警告すると、皆さん覚悟を決めたような顔つきで相手に正対されました。
「爆裂せよ!」
「神威の槍よ!彼の者を穿ち貫きなさい!」
まず、レンさんとカンナさんの魔術が直撃した――ように見えましたが、魔力の壁に阻まれ、相手に届くことなく霧散します。そこへすかさずクレイさん、ミレニアさんが斬りかかりますが……。
「!」
同じように魔力で形成された漆黒の羽根がそれらを受け止め、更にお二人を弾き飛ばします。そこへアレンさんが飛び込み、渾身の力で剣を少女の首めがけて振り下ろします。
「くっ!これほどに!?」
剣が首をはね落としたかに見えましたが、実際には皮一枚に阻まれ、そこへ食い込むことすらも許されませんでした。そして、少女が平然とその切っ先を摘んで腕を振るうと、アレンさんは物凄い勢いで壁へと叩きつけられてしまいました。
「この程度かしら?よくこれで私のところまで来ようなんて思ったものね。
長引かせても愉しめそうにないし、さっさと終わらせてしまいましょうか。」
可愛らしく唇に指を当てながら嘲笑した少女は、もう片方の手の指を軽く鳴らしました。すると、漆黒の渦が物凄い勢いで私たちに襲い掛かり、薙ぎ倒していきます。私もどうにか防ごうと踏ん張りましたが、結局耐え切れずに壁へと叩きつけられ、気を失ってしまいました。おお勇者よ、死んでしまうとは情けない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます