第42話 東方小国群 ライクライ⑤

「確かに昔からそんな噂が有り、血を吸われたという話もありましたがね……。最近みたいな乾涸びて死ぬ、何て事は無かったのですよ。」


 首都を出て北上すること一週間程。村にたどり着いた私たちは、早速聞き込みを開始しました。


「それに……、犠牲者がですね……。」


「何かお気づきになられた点でも?直接事件に関係なさそうな事でもよいので、お話頂けませんか?」


 若干言いよどんで言葉止めた村人に対して、クレイさんが先を質します。


「ええ、いやね……。昔は、何だその、若い娘ばかりが被害に遭っていた気がするのですがね。最近のは……、それこそ老若男女問わず、手当たり次第みたいな感じでして……。」


 その話が本当だとすれば、事件の犯人と思しき吸血鬼の方が、趣旨替えでもされたのでしょうか?若い生娘?を標的にするというのは、如何にもという感じがします。最近目覚められでもして、食糧が足りておらず仕方なくとか、そんな事情なのかもしれません。


「カリヤン王国の兵士たちは、どちらの方へ向かったか覚えていらっしゃいますか?」


 カンナさんが、行方不明となったという兵たちに関しても問いかけをされました。前情報通り、村に兵士たちの姿は全く見当たりません。彼らの消息に関して情報が得られれば、事件の犯人に繋がる可能性は多々ありますので、順当な質問です。


「兵士様たち、ですか……。昔から吸血鬼の住処があるという噂の、東の森の方へ向かわれたような気がしますが、正確にはちょっと……。」


「他にも気になる点が?」


 そこで、再び何かを飲み込んだ風だった村人に対して、クレイさんが切り込まれました。


「いえ……。気のせいだとは思うのですが、兵士様たちが行方不明になられてからの方が、事件が頻発するようになったような……。」


 兵士さんたちが住処に踏み込んだ事で刺激をしてしまった可能性もありそうですね。


「他に何かお気づきになられた事はございませんか?どんな些細な事でも構いませんので、お話頂けたら幸いです。」


 最後に、アレンさんが更なる情報提供を要請します。現時点、事件の全貌が全く見えていない状況ですので、とりあえずどんな情報でも欲しいところです。お隣のご主人が街の色街で……、的な奴は遠慮したいですが。


「他ですか……。何かありましたかな……。

 そうだ!今回の件と関係あるかは分かりませんが、最近旅の若い女性がお一人で訪ねて来られました。」


「若い女性、ですか?」


 こんなへん……、主要都市から外れたような村に若い女性が一人で訪ねてくる、というのはちょっと違和感がありますね。傷心旅行とか、そんなお話でしょうか?急に海が見たくなった、とか。周りには水ではなく樹の海しかありませんが。


「ええ。恐らく冒険者の方だと思うのですが……。最近妙な事件が起きているので危険だと警告したのですが、自分は大丈夫だと言ってそのまま東の方へ行かれてしまいまして。お若いけれども礼儀正しい、身なりのしっかりとした方だったのですが。その方もそれっきりでして。昨日の話です。」


「なるほど。ありがとうございます。もし、その方を見かけたら、俺たちの方からも早くこの場を離れるよう忠告しておきます。」


 こんな時に冒険者らしき人間が訪ねてくる、というのは果たして偶然でしょうか?或は……。


「ええ。ええ。お願いします。」


 そんなこんなで、村で情報収集を済ました私たちは、次の日には東の森へと捜索に入ることとして、宿(正確に言うと村長さん宅の空いた部屋)に一泊しました。そして、その晩……。

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