第39話 東方小国群 ライクライ②

 はい、皆さんこんにちは。勇者候補一行の記録係、リリシアです。以前口にした事を実際にやってみようと思い、今回は冒頭をミレニアさんにお願いしてみました。これが世にいう有言実行、という奴でしょうか。私はやるときはやる女です。何か違う感もしますが。

 ミレニアさんが言われた事の繰り返しですが、今、私たちはライクライでも有数の大都市へやって来たところです。まあ、もとが小国の寄せ集めでしかないため、大きいと言ってもたかが知れておりますが、今後の冒険の拠点にするには十分なレベルです。ゼスタネンデで懐が温まったとはいえ、長い間遊んで暮らしていける程ではありませんので、この街のギルドで暫く仕事にありつこう、という腹になります。働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり?と言ったところでしょうか。

 そんな甘い魂胆で街を訪れた私たちでしたが、意外や意外、簡単に仕事にありつく事が出来ました。いい事が続く事もあるのですね。最初から最後まで一貫してそうであればよいですが。


「私宛ての手紙ですか……?」


 ギルドに入り、早速依頼を物色しようとした私たちでしたが、唐突に呼び止められると、カンナさん宛の手紙を手渡されました。しかも、かなり凝った意匠の施されている、どことなく高級感を醸し出している封筒に包まれておりました。ゼスタネンデの際はカンナさんからの手紙が起点となった形でしたが、今回も何やら偉い人からの依頼か何かでしょうか?前回が前回なだけに、あまりいい予感はしませんが。コネがあるのはいいですが、それが最終的にいい方に向くとは限らないですからね。


「王家の紋?差出人は……プリメラ、ですか?

 やはり、『はいそさいえてぃ』な方々からのお手紙だったようです。因みにプリメラさんというのは、この街が所属する小国の王女様で、カンナさんとは1つ、2つ違いの妹のような存在とのことです。だからでしょうか、唐突のお手紙でカンナさんの顔は困惑気味ですが、同時に口元の緩みも見てとれます。

 カンナさんは暫くの間手紙を黙読した後、意を決したように言葉を発しました。


「……あの皆さん、ご相談させて頂きたい事があるのですが、少し宜しいでしょうか?」


 ギルドに用意された個室にて密談?を行い(あまり声高に話をしていい内容ではないですので)、今回の依頼の概要を伺いました。

 手紙でほいほい重大事項を漏えいさせる訳にもいかず、『詳しくは会ってから』というのが内容の総括になりますが、概要としては次の様な事のようです。


一、今、この国で奇怪な事件が起きており、強力な魔物によるものである可能性が高い


二、兵を動員してどうにかしたいが、国内外への影響を鑑み、大たい的には行えない

そして少数精鋭を送り込んだが消息不明となった


三、信頼でき、かつ優秀?な冒険者である私たち(カンナさん)に相談、解決を依頼したい


 私たちにはまだベテランと言える程の経験も実力もないので、『優秀』というところは若干疑問符が無い訳ではないですが、まあ、藁をもすがる思い?という事なのでしょうかね。『強力な魔物』が何なのかにもよりますが。仮に、人型で高位な方々だったりするととても危険です。

 それはそれとして、箇条書きというのはとても便利ですね。何でも、人間が一度に理解できるのは3点位までなので、それ以下にポイントを絞るといいのだとか。他にも、紙一枚にまとめるだとか、そう言った観点のテクニックは色々あります。便利なツールは発明されますが、人間の頭そのものは便利にはならないのでしょうかね?『使う奴らが進化していない』、みたいな。逆に、自ら『人がそんなに便利になれるわけ、ない』とか言っていた方もいたでしょうか。


「出来れば、助けてあげたいのですが……。話を聞くだけでも、ご了承頂けないでしょうか?」


「カンナの妹ね……。まあ、いいんじゃない?お友達価格で報酬も期待出来そうだし。」


 普通のお友達価格は逆の意味だと思いますが。それに……。


「はっ!何を言っているのだか!前回それで大変な目にあったというのに、もう忘れたのか!」


 はい。私の言いたかった事をレンさんが代弁して下さいました。ぐっじょぶ?ですが、残念ながらそれは不用意な一言です……。


「はあ?何、あんた?ゼスタネンデでの事は私のせいだって?浅慮だったとでも言いたいのかしら?私に喧嘩売っているの?年中閉店セール位の高さで!

 それに、カンナの前でそんな事を言うなんて!あんたこそ頭の中かぼちゃなんじゃないの?そんなんだから友達が少ない、ぼっち引きこもりなのよ!」


「なっ!お前こそ……!」


 依頼の話をそっちのけで言い争いを始めるお二人。これは、いつもの流れでしょうかね。


「あの、お二人とも……。あの件は、私のせいで皆さまを危険な目にあわせて申し訳なく……。ですから、喧嘩は……。」


 おろおろとしながら仲裁しようとするカンナさん。そんな混沌とした場を収めたのは、やはり我らがリーダーでした。


「落ち着け!3人とも!

 ……とりあえず、ゼスタネンデの事は置いておこう。今回の事とは関係ない。そして、俺としてはまず依頼を聞いてみたいと思う。王族絡みだと、断れない事態になるかもしれない、という懸念があるのは分かる。それはリスクだが、俺としては仲間の知り合いをそれでだけで切り捨てるというのはいい判断とは思えない。それに、勇者候補としては、強力な魔物を放置してはおけないしな?」


 最後は若干ちゃかしが入っておりましたが、概ねアレンさんの本心なのでしょう。残念な事に、カンナさんの想いは通じておらず、一般論的なところで留まっていそうではありますが。残念なイケメンですね!カンナさんの期待に満ちた瞳が哀れに思えてきてしまいます。


「そうだな。俺もアレンに賛成だ。何者だか分からないが、強力な魔物が、敵対している訳でもない近くの国々で跋扈している状況というのは歓迎出来ない。少なくとも情報収集はしておく必要がある。」


 クレイさんも同意をします。これで大勢は決した形ですかね。まあ、レンさんも本気で反対しようとしていた訳ではないと思いますが。


「ふっ、ふん!まあ、この俺様の実力をもってすれば、『強力な魔物』とやらも物の数ではないからな!力を貸してやらんこともないぞ!」


「あんたは前回、冷房の代わりにしかならなかったでしょうが!」


 はい、皆さまの合意が得られたところで、私たちはプリメラさんのいらっしゃる城へと向かうこととなりました。そろそろ、無謀と慢心の精霊さんが仲間になってくれたりしませんかね?

 そうしたら、実力と言動が一致?するかもしれません。

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