第37話 エピローグ③

「なんじゃ、騒がしいの?

 がーるずとーくはいいが、あまりはしゃぎ過ぎるのはどうかと思うぞ。

 ここは公共の場所じゃからな!」


 と、そこで唐突に声をかけられました。どうやら、先客がいらしたようです。貸し切ったつもりだったのですが。

 そして、奥の方からこちらへ寄って来られる影がひとつ。

何となく聞き覚えがある声ですが……。


「お騒がせして申しわ――、オ、オロチ様!?」


 そこにいらしたのは、なんと人型をとられたオロチ様でした。

 幼い風貌で身長もかなり低いため、ほぼ肩が浸かった状態です。

 そして、ラビットスタイルのショートツインテールが水面ぎりぎりで跳ねており、失礼ながらも可愛い!抱きしめたい!と、思ってしまいました。わきわき。


「おお!誰かと思えばカンナか!お主たちも来たのじゃな!

 どうじゃ!ここは良い湯じゃろう!」


 どうやら、ここはオロチ様が湯治に使われている場所でもあったようです。先の戦いでできた傷を癒しに来られていたとのこと。


「オロチさん、ですか。初めまして。と言ってもちょっと前にお会いしておりますが。

 私はリリシアと申します。

 先の戦いでは、傷をつけてしまい申し訳ございませんでした。」


「ほう!あの時の!

 あの忌々しい魔導具から解放されたのは主のお陰じゃからの。

 気にせんでよいぞ。寧ろ儂から礼を言わねばならんところじゃ!よくやってくれた。」


「して、お主……、もしかしてマキの娘子か?」


 と、そこでリリシアさんの顔をしげしげと眺められたオロチ様の口から、突然聞き慣れない名前が告げられました。


「そうですが……。母をご存知で?」


「勿論じゃ。同じ『永遠の17歳』仲間だからの。」


 どうやら、オロチ様とリリシアさんのお母様はお知り合いだったようです。

 『永遠の17歳』という言葉の意味はよく分からないですが。その年齢に何か拘りがあるのでしょうか?


「?そうですか。偶然ですね。母とは仲が宜しかったのですか?」


「そうじゃの。

 儂とマキ、あとロッテの三人でよく旅などしておったよ。

 破天荒で困った奴じゃったが、同時に退屈せずに済んだ。懐かしい話じゃな。

 マキは元気にしておるか?」


 どの位昔の話なのかはよく分かりませんが、少なくとも100年以上前にはあるという事でしょうか?確かに、『永遠の』です。


「いえ。実はここ何年か会っていないもので。

 母は祖父に嵌められたとかで、今は遠い地で缶詰にされているみたいです。

 その母に代わって、私は祖父に育てて頂いています。と、いいながらもその祖父もふらっといなくなる事が多いのですが。」


 どうやら、リリシアさんは大分複雑な家庭事情をお持ちのようです。娘を嵌めて閉じ込めるとか、親娘関係は大丈夫なのでしょうか?


「……そ、そうか。

 それにしても、マキの娘だというのに随分と礼儀正しいの?」


「そうですか?

 まあ、祖父には毎日のように『母のようにはなるな』と口煩く言われて育てられましたので。」


 父親にそう言わせる娘というのは……。ちょっとリリシアさんのお母様に興味が出てきました。お会いするのがちょっと怖い感も致しますけれど。いつか、遠目にでも、お目にかかれたらいいですね。


「あ奴にか……。」


 そこで、オロチ様は若干渋い顔をされます。

 どうやら、お爺様の方ともお知り合いのようです。もしかして、何か深い―― 、いえ、これ以上はやめておきましょう。オロチ様の風貌からすると、とても犯罪臭がしてきます。


「ええ。祖父は手が早い、というところ以外は尊敬できる方ですので。」


「……そうじゃな。しかし、孫にまで言われるとは……。あ奴も懲りん男だの。」


 オロチ様も少々あきれ顔をされております。これは、本当に私も気を付けた方が良いのでしょうか?私にはアレン様という心に決めた方がいますので……。あら。私としたら何を……。


「ふむ。とりあえず皆元気なようで何よりじゃ。若干元気過ぎるきらいもあるが……。

 そちらの娘、ミレニアといったかの?お主もようやってくれた。感謝するぞ。」


「え、う、うん。どういたしまして。」


 突然話を振られたミレニアさんは、ちょっと戸惑いを隠せない様子です。

まあ、普通はそうですよね。リリシアさんはとても落ち着き過ぎているようにも思えます。

 魔族の方は皆そうなのでしょうか?確かにカミ様への畏れというのはお持ちでは無さそうですけど。


「カンナ。お主には苦労かけたの。ヒロトたちを抑えるのは大変じゃったろうて。

 これからは、何かあったら儂らがお灸を据えてやるから安心せい。

 でじゃ、これは儂からの提案なのじゃが……。」


 そこで一拍おかれると、よく通る声で先を続けられます。


「どうじゃ?こやつらの旅に同行して世界を回ってみては?

 各国を見聞すればお主の望む国を実現するためのヒントが得られるかもしれん。

 それに、アレンじゃったか?あ奴との仲を進展させるチャンスも得られるぞ?」


「オ、オロチ様!?そ、それは!」


 前半はともかく、後半をはっきり言われてしまうのは少し恥ずかしいです……。


「よいよい。

 それに、強敵揃いなのだから、少しでも近くに行っておかんと厳しいぞ?分かっておろう?」


 そこで、意味ありげにリリシアさんを見られるオロチ様。

 確かに、ミレニアさんも仰った通り、アレン様がリリシアさんの素顔を見られた場合、どうなるかが分かりません。


「……ん~、そうだね!

 オロチさんの言う通り、一緒に来なよカンナ!

 パーティーの枠も恋人の座も早いもの勝ちだよ!」


「わ、分かりました!同行させて頂くようお願いしてみますわ!

 もう!お二人とも、からかわないで下さい!」


 リリシアさんはよく意味が分かっていないのか、また首を傾げておられましたが、同行には賛成して下さりました。

 こうして、お二人に背中を押される形で、私は皆さんの仲間に加えて頂くこととなりました。

 微力ながら、私も力を尽くしますので、皆さまどうか宜しくお願い致しますね。

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