第36話 エピローグ②

「失礼します。」


 そこで丁度、リリシアさんが浴場に入ってこられました。

私は声のした方に視線を向けましたがそこで――、思わず言葉を失ってしまいました。

 そこには完璧なる美少女という形容に相応しい容姿の持ち主が立っていたのです。

サラサラで、銀に輝く美しい髪。それを載せるのは小ぶりながら整った顔立ちで、朱金に光る大きな瞳が少し眠たげに光っています。

 そして、その下には大きな双丘を備えつつも引き締まってメリハリの利いた体。肌は透けるように白く、湯気にあてられて若干朱をさしており、少女のあどけなさと色っぽさが同居して、何とも言い難い官能的なハーモニーを奏でていました。

 正に完璧な、美少女です。思わず天使と間違えてしまっても仕方が無い位の。

 普段はフード付きのローブで覆われているため伺い知ることが出来ませんでしたが、その下にはこんな天使が隠されていたなんて!


「……リ、リリシアさん?ですか?」


「?……そうですが、どうかしましたか?」


 思わず上ずってしまった私に、不可解そうなリリシアさんの声が答えます。

小首を傾げるその姿も可愛らしく、まるで一枚の名画を拝見しているようです。それに、その朱金の瞳は……。


「貴女、半魔族、でいらしたのですね。

 どおりで強力な魔術をお使いになられると思いました。」


「そうですね。正確に言いますと、クォーターになりますけれども。」


 リリシアさんが細かく訂正されました。逆に、クォーターでもあれだけの魔術を平然と使用出来る、という事になります。余程、強力な魔族の血統の方だという事ですかね。


「普段フードを被っていらっしゃるのはそれを隠されるため、ですか?

 確かにこの近郊ではあまり歓迎されないとは思いますが……。」


「祖父の言いつけです。なるべく、顔を見せないようにしなさい、と。

 ですので、ご存知なのは……、故郷の村の方たちと、あとはクレイ、ミレニア、レン位でしょうか?旅の途中でお見せする機会があったもので。」


 なるほど。得心が行きました。

 既にリリシアさんの正体に関してご存知だったから、オロチ様との戦いで急に強力な魔術を使用されたにもかかわらず、お三方はあまり驚いておられなかったのですね。そして、アレン様は未だご存知ないと。

 先ほどのミレニアさんのお話とも繋がりました。


「ああ、そうでした。

 祖父は純魔族でとても強い力を持っていますので、お見掛けになられても手を出されない方が良いと思います。万が一の時は、私の名前を出して頂けたら、と。

 それと、祖父はとても手が早いですので、そういう意味でも気を付けられた方が良いですね。

 いい加減、落ち着いて貰いたいのですが。」


 一体お幾つなのかは分かりませんが、リリシアさんのお爺様は色々な意味でまだまだお元気のようです。

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