第34話 万神皇国 ゼスタネンデ⑩
「ちょっと宜しいでしょうか?
皆さんがヒロト大皇陛下に結果報告をされている間、少しヒュペリカさんと2人でお話をさせて頂きたいのですが……。」
突然そんなお願いを切り出した私に、皆さん怪訝な顔をされます。
まあ、当然の反応ですかね。ですが、ここはどうにか通して頂きたいところです。期待を込めた眼差しを皆さんに向けます。きらきら。
「ま、まあいいんじゃないか?報告の際に何かして貰う必要がある訳でもないし。」
私の眼力が通じたのか、クレイさんのとりなしもあり、私のお願いは聞き届けて頂ける事となりました。ありがとうございます。
「何のご用でしょうか?
オロチ様の案件の事後処理で立て込んでおりますので、大変申し訳ございませんが、手短にお願いできますか?」
「そうですね。
早くお逃げにならないと、オロチさんに殺されてしまいそうですからね。では、手短に。」
無理言って面会をお願いした私を、表面上は柔らかな笑みを浮かべて出迎えられたヒュペリカさんに、私はそう返しました。
「……な、何の事かしら?仰っている意味がよく分からないのですが?」
「そうですか。まあ、それならいいです。
上手く隠しておられるようですが、魔力やあの魔導具を鑑みるに、恐らく南方自治領の方かと思います。
それでしたら、一応ご忠告だけ、と思いましたもので。」
その私の一言に、ヒュペリカさんはさっと顔色を変えられました。
「過度に他国へ干渉為さるのは如何なものかと思います。
度が過ぎると、見逃しては貰えなくなると思いますので、注意された方が宜しいのではないでしょうか。」
「……!あ、貴女一体何ものなの?
それに、どうして南方自治領だなんて言葉を――。
そ、そういうこと!あのオロチがいとも簡単に正気に戻されたのも、貴女が手を貸したから!」
と、何かを察しられたのか、途中で納得されたようです。話が通じてよかったですね。以心伝心という奴でしょうか。そんなに長い付き合いがある訳ではありませんけれど。
「ここで、貴女を始末すれ――、いや、それはまずそうね。
簡単にはやられてくれそうもないし、他の連中やオロチにでも駆けつけられたら厄介。それに、あの方に知られでもしたら……。
どのみち、ここは貴女の忠告に従って大人しく引いておくしかない、という訳ね。」
今までの優しそうな表情から一変し、魔族らしい黒い笑みを浮かべてそう答えられます。こっちが本性、という事でしょう。
「随分と手の込んだ事をされましたね?
やはり、この国のカミたちが邪魔だった、という事でしょうか?100年前も散々苦労されたようですので。
ついでに人間同士の争いを誘発して力を殺ぎ、動き易くするのが狙いでしょうか?」
「……。そうね。
頭でっかちの官僚たちや国粋主義の首相だとかに気に入られるよう結構労力をかけたのだけど。あのヒロト大皇の歓心も買うようにして。
それがこんなところでお仕舞、というのはちょっと残念ね。」
どうやら、大分昔から準備をして事に及ばれたようです。
シバ首相の支持団体である懐古主義集団にも所属し、顔を売りながら彼らの喜ぶような言動を心掛け、今の地位まで登りつめた、と。大分苦労されたようですね。お疲れ様です。
古き良き時代というのは今とさほど変わらない、良くも悪くもない時代、らしいですが、実際のところどうなのでしょうか。
ところで、ヒロト大皇とは個人的にも仲良くされていたようですが、何処までいかれたのでしょうかね?結構上手く誘導されていたところ見ると、かなり……、と話がそれました。
「カンナさんの味方をして助言をされたのは、アレンもついでに始末出来ればよいと思われたからでしょうか?オロチさんをどうにかする程の力量は無いと踏んで。」
「そう。勇者の子孫も邪魔になる前に、と思ったのだけど……。
どうやら、それが裏目に出たようね。あの二人も先走って余計な事をするし、上手く事を運ぶのは大変だったというのに。
やはり、欲張るものではない、という事かしら。今後の教訓ね。」
そう残念そうに言い、首を横に振るヒュペリカさん。欲張るどうのこうのよりも、人間たちに干渉せず大人しくして頂きたいものなのですが。
「あの首飾りはやはり貢ぎ物の中に?」
「ええ。大皇から、ということで最後に直接首にかけてやったわ。」
怪しみはしていたのでしょうが、やはり寝起きで頭が働かなかったのでしょうかね。
「まあいいわ。今回は私の負け。大人しく引き下がらして貰うわ。
貴女も別にこの場で私を押さえようなんて気は無いのでしょう?」
「ええ、まあ。
ここで暴れられてしまいますと、この国が大変な事になりそうですので。近くにいる移民合衆国の方々も流石に黙っていないでしょうし。
ここは穏便にお引き取り頂けると助かります。」
恐らく、オロチに簡単に殺される事のない位の力はお持ちでしょうから、こんな都の真ん中で本気を出されたら首都機能がマヒするというレベルでは済まなさそうです。
アレンさんたちに同席して頂かなかった理由もそこにあります。
「ここは貴女の厚意に甘えておきましょうか。次はもっと上手くやらせて貰うわ。
……それとリリシアさん、いつかこのお礼をするから、楽しみに待っていてね?」
「いえ、お気遣いなく。これに懲りて大人しくして頂けると大変助かります。」
お礼参りは是非ともご遠慮したいところです。
「ふふ、まさか、ね?」
再び黒い笑みを浮かべながらヒュペリカさんは去っていき、そのまま二度と皇宮に戻られることなく行方をくらませました。
さようなら。お元気で。もうお会いしたくないですが、そうもいかなそうな予感がするのが非常に残念です。
「リリシア、何かあったの?大分時間をかけていたみたいだけど?」
ヒロト大皇たちとの会談に遅参してきた私に、ミレニアさんからそう声を掛けられました。
ひとまず、宮廷騎士たちの非難めいた視線を流しつつ、後ろの席につきます。
「いえ。大したことでは。今後のことで少し話し込んでしまいました。」
「そう?ならいいけど。」
納得はされていなさそうですが、とりあえず見逃して頂けるようです。
一方の、会談・報告も恙無く進んでいたようです。宮廷騎士さんたち含め、皆さんほっとしたような顔をされておりますが、ヒロト大皇やシバ首相だけは渋い顔です。まあ、あてが外れた形でしょうから、仕方ないですかね。
嘘の報告とはねのけるという選択肢もあったかもしれませんが、正気に戻ったオロチが都に来てしまえばそれまでの話ですので、受け入れる他なかったようです。
そして、オロチ他眠りについていたカミたちが順次目覚められたことで重石が復活したため、彼らの計画は見直しを求められることでしょう。これでカンナさんの負担も減りますかね。多少は自由に動ける余地が出てきたらいいですね。
オロチ鎮静に成功した、という事で残りの報酬も頂けた私たちは、温まった懐とともに暫くの間ゼスタネンデに滞在し、その後再度南下して東方小国群へと足を進めることとなりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます