第33話 万神皇国 ゼスタネンデ⑨
「確かに、何か様子が変だな?
今は暴れていないが、逆に何かを抑え込んでいるような、耐えているような、そんな印象を受ける……。」
物陰から、奥に佇むオロチを遠目に観察したアレンさんがそう呟かれます。まあ、実力差を考えると堂々と中に、とはいかないので仕方ないなのですが、傍から見られるとちょっと情けない光景かもしれません。
アレンさんの仰る通り、現状オロチは大人しくしておりますが、時より苦しむように身もだえもされております。躁鬱の激しい方なのでしょうか?或は怪しいお薬を処方されたとか。何にせよ、正常な状態には見えません。
「とはいえ、ここから見ているだけでは突破口を見出せそうもないな……。
行くしかない、ということか。」
クレイさんの言葉に同意し、皆さん慎重にオロチへと近づこうとしましたが、残念なことに直ぐ目に留まってしまいました。そして、オロチが私たちに向けて大きく咆哮します。
カ・ン・ナ!!
そう叫んでいるようにも聞こえましたが、実際のところどうなのかは正直よく分かりません。ただ、交戦が避けられなさそうだ、という事だけは理解できました。
「レン!カンナ!援護を!」
「分かっている」「分かりました!」
クレイさんの要請に応え、まずはお二人が防御を固めます。まあ、ようするに炎の影響を和らげる、守備力?を増加させる魔術を使用された、という事になります。強敵戦ではこうしたテクニックが重要になりますね。
そして、オロチの吐き出した炎の直撃を避けつつ、前衛が前進します。
「打ち倒す必要は無い!防戦しながら、どうにか異変の元凶を探るんだ!」
その言葉通り、皆さんオロチの攻撃をいなしつつ、情報収集に努めます。
まあ、正直本気で打ち倒そうとしても、攻撃が通用するような感じは致しませんので、他にやりようはなさそうです。
後衛の援護の下、前衛がオロチに近づいては、その爪、牙、尾に振り払われて後退。そしてまた機械を見て接近、その繰り返しです。
回避重視でどうにか直撃を避けていても、皆さんダメージが蓄積していっているのが見て取れます。
一方で突破口はいっこうに見いだせず、という状態。私も後ろからその様子を見守ります。はらはら。どきどき。
何となく、オロチが全力ではなく、逆に自ら力を抑えようとしながら戦っているようにも見えますが、何で、でしょうか?
そんなこんなで、暫く膠着状態が続きましたが――。
「わ、私の力でこれ以上は……!」
カンナさんが力を振り絞り治癒魔術を施し続けておりますが、焼け石に水、といった体で、後がなくなってきました。やはり、オロチの高い攻撃力に対して回復量が足りていない、ということでしょう。
これは大ピンチですね。押し切られて全滅するのも時間の問題でしょうか?冒険序盤、近場なので何となく行ってみたらデストラップだった、みたいな。裏技的な攻略法があれば逆に稼げるかもしれませんが、現実はそんなに甘くありません。
仕方が無いので、少し手助けをさせて頂いた方がよさそうです。記録係なのにでしゃばる、というのはよく無いのですが、非常時なので仕方がありません。
「治癒の力よ!我が意に沿って彼の者たちに祝福を!」
私がそう声を上げると、皆さまの傷口がみるみるうちに塞がっていきます。任意の複数者を対象とする治癒魔術を使わせて頂きました。逆に私はヘロヘロになっていますが、まあ仕方ありません。
「精霊たちよ!万害を退ける楯を我らに!」
オロチが私に狙いを定め吐き出してきた炎を、精霊たちが作り出した不可視の楯が拡散させ、その威を殺ぎ無害なものとしてくれました。一応、私だけではなく、皆さまを対象とさせて頂きましたので、近接攻撃もし易くなったものと思います。
「万物を断つ闇よ!我に害為すものを切り裂きなさい!」
私を厄介な相手と思ったのか、直接その牙で食らおうと接近して伸ばしてきたオロチの首に、周囲に出現した闇の大剣数本が突き刺さりました。
その痛みに耐えきれなかったのか、オロチは呻き声を上げながら若干後退します。今がチャンスですかね。
「オロチの首に掛かっているあの首飾り、宝石を狙って下さい!
あれが恐らく今回の異変の元凶です!」
オロチの首に不自然にかかっている首飾り。そしてその中心にある宝石のようなもの。そこから非常に性質の悪い魔力、精霊力を感じます。
恐らく魔導具か何かで、オロチの精神に対して悪影響を与えるためのものであると推測されます。
「分かった!アレン、ミレニア!どうにかあれを弾き飛ばすぞ!レンとカンナは援護を!」
クレイさんはそう答えると、オロチに向かって突進していきます。
「分かったわ!しくじんじゃないわよ!ほら!アレンも!早くしなさい!」
「ふん!言われなくとも!」
ミレニアさんとレンさんが了承の意を示し、クレイさんに続いて攻撃態勢に移ります。それに若干遅れながらも、アレンさん、カンナさんが後に続かれました。
「零下の縛り、万物を制止させその威を示せ!」
まずは、レンさんが周囲を凍結へと誘う古代魔術を放ち、オロチをけん制します。その冷気に当てられ、周囲の灼熱も若干和らぎます。ひんやりしてちょっと気持ちいいですね。
「神霊の祝福をもって邪悪なるものを退けよ!
申し訳ございません、オロチ様!」
その冷気にカンナさんが放った聖なる?光の爆裂が加わります。大きなダメージは見られないものの、オロチの脚が止まりました。そこへすかさずクレイさんとミレニアさんが間合いを詰めて、剣を押し付けながら脇を通り抜けます。鱗に阻まれて刃が通らず、ダメージにはなっておりませんが、少しはオロチの気を引くことが出来たようです。
「これで!!」
最後に、アレンさんが懐へ飛び込みます。
しかし、それを阻止せんと、オロチが炎を吐き出しました。
「そのまま進んで下さい!」
私の叫び声に従い、アレンさんは勢いを泊めず炎の中に飛び込みます。火と熱が挑戦者を飲み込まんと迫りますが、不可視の楯に阻まれてアレンさんまでは届きません。
一部の首・腕が迎撃を試みますが、アレンさんはそれをどうにかくぐり抜け、剣を振るって目的物を空へと弾き飛ばすことに成功します。
「やったぞ!」
オロチは尚も苦しむ様子を見せておりますが、攻撃の手は止んだ状態です。また、少しずつですが、纏っていた悪意が薄れていくようにも感じられます。
一方の弾き飛ばされた首飾りは宙を舞った後、私のそばへ転がり落ちてきました。そして、私がその宝石に手を触れると、乾いた音を立てて宙へと霧散します。
暫く、遠巻きに間様子を見守っていると、オロチは徐々に落ち着きを取り戻してゆきました。その瞳にも知性の輝きが戻って来たように見えます。が――。
「あの女め!傷が癒えたら直ぐにでも八つ裂きにしてくれる!」
急に再び怒りだしたオロチさんは、そう言い残して私たちの目の前から姿を消してしまわれました。
どうやら、魔術を使用して何処かへ転移されたようです。私たちはそれを呆然と見送ることしか出来ませんでした。
暫く続いた沈黙の後、アレンさんが自分に言い聞かすように言葉を発せられます。
「……、ま、まあ、何にせよ一件落着か?
どうやら、正気を取り戻していたようだし、もう大丈夫だろ。」
「……そ、そうですね。あの様子であれば、傷が癒えたら姿を見せて頂けそうです。
皆さま、ありがとうございました。ひとまず、都に戻りましょう。」
カンナさんも同意し、一旦都に戻り、事の結末を報告することとなりました。
それにあたり、宮廷騎士に早馬で都へ戻り、先んじて結果報告して頂くようお願いします。その上で、私たちは再び森を抜け都へ戻りました。
またモフモフの方々とご一緒出来ましたので、とても嬉しい限りです。私たちの戻りを待っておられたのでしょうかね?
そして、早速直接報告を、という事で皇城へと足を踏み入れました。
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