第32話 万神皇国 ゼスタネンデ⑧
「……、やっぱり暑いな。これは奥まで行くのにも苦労しそうだ。」
中へ入って半刻、といったところでクレイさんの口から正直な感想が漏れました。洞窟はところどころ溶岩の流れている所と繋がっているため、中の気温はかなり高くなっています。
一応、人が行来出来るように、魔石等を使用した冷房装置も設置されておりますが、その効果は気休め程度に留まっております。
「申し訳ありません……。
オロチ様がお目覚めになられたのを機に、再整備を始めたばかりなもので。
もっと冷房装置を設置出来ればいいのですが。」
年度切替の時期とかだと、急ピッチで進んだりするのでしょうか?予算を使い切らないと、次年度に差し障りがありますからね。
「まっ、仕方が無いわよね。100年放置されていたって言うんなら。
でも、こんな環境でよくあの大皇が文句をつけなかったわね?」
そうですね。ヒロト大皇なら『この余が赴くというのに暑苦しいとはどういう事だ!』とか言いそうな感じです。『あの山をどけろ』的な勢いで。
「……実際、兄は道中不満ばかり漏らしておりましたわ。
私やヒュペリカがどうにか宥めて奥までお連れしましたの。」
「へ~。そうなんだ。カンナさんも苦労しているんだね~。
……それにしても、レン、あんたなんか涼しそうな顔しているわね?」
そこで、レンさんが汗一つかいていない事に目敏く気付かれたミレニアさんは、その事について問い詰め始めました。
「ふん!この俺様には精霊たちがついているからな!
風・水の精霊に協力して貰って冷気を送ってもらっているのさ!」
「は~~!!あんた、自分だけ楽しているとか、どういうつもりな訳!
主戦力の体力が削られているってのに一番役に立たないあんたが温存しているとか、意味ないでしょうが!
何で皆にかけない訳?馬鹿なの?死ぬの?」
暑さで溜まった鬱憤を晴らすかのように、ミレニアさんがレンさんを責め始めます。所謂、八つ当たりという奴でしょうか。ご愁傷さまです。
「なっ!冷やすだけでも結構魔力を使うんだぞ!全員になんてかけていたら――。」
「消費が激しいのはあんたの魔術が未熟なだけでしょ?
それに、あんた程度の魔術じゃ殆ど攻撃の役には立たないだから、前衛の体力を維持する方が重要に決まってんでしょ!
そんぐらい頭を使いなさいよ!」
更にダメ出しをうけ、押し切られる形でしぶしぶと全員に魔術をかけるレンさん。私は遠慮しておきましたが。
え?何故かって?それは、私も火の精霊さんにお願いして、熱を遮断して頂いていたからです。
レンさんがちらっとその事に触れましたが、『リリシアは非戦闘要員の記録係、しかも女の子よ!あんたとは違うの!だいたい、記録がふやけて破れたら困るでしょ!』とミレニアさんに一蹴されてしまいました。
これもある意味男女差別というものでしょうか。単なるレンさんいびり、という説も否定できませんが。
その後は皆さま快適に進むことが出来(一人を除く)、1刻も経たないうちに奥まで到達することができました。
レンさんは大分お疲れのようで、早速リュックの中から回復薬を取り出して使用し、またミレニアさんに怒られておりました。お疲れさまでした。今後も似たような事があったら、同じ様にこき使われてしまうのでしょうね。
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