第29話 万神皇国 ゼスタネンデ⑤

 出立の前に準備を整える、という事で暫し猶予を得た私たちは、まずはオロチが暴れだした原因を探るべく、カンナさんから詳しい話を伺うことにしました。


「そうですね、ちょうど1ヶ月程前でしょうか?オロチ様に目覚めの予兆がある、ということで、その場に立ち合いご挨拶をすべく寝所にお伺いしたのは。

 オロチ様の居所はここから西に暫く行ったところの霊山にあります。そこには一つ洞窟があり、その奥でオロチ様がお眠りになられておりました。

 入口までは騎士たちも同行しましたが、中まで入ったのは兄と私、そしてヒュペリカと男性宮廷騎士・神官の5人だけです。」


 5名は順調に奥まで進まれ、ちょうどよくオロチが目覚めるところに居合わせた、とのことです。ですが――。


「最初お話された際は、多少眠たそうにされてはおりましたが特に様子におかしいところは無く、友好的に迎えて頂けました。ですが……。」


 少しの間歓談し、暫くしたら皇都へ来てくださいと贈り物を渡して出口へ向かおうとした矢先、異変が起きたとのことです。


「急に様子がおかしくなられて……。

 別れる間際までは人型をとられていたのですが突然本来の龍の姿へ戻られ、苦しみ、暴れだされたのです!

 そして、私の名前を呼びながらその腕を伸ばされて来てあわや、というところで宮廷騎士たちの庇われながら、どうにか脱出してきました。」


 その後も、なんとか宥めようと接触を試みたものの話は通じず、暴れまわるだけで手が出せない状態だということです。

 そこで、スメラギ家でも最も霊力が強いカンナさんに白羽の矢が立ち、再度鎮めのために霊山・寝所へ赴くことになった、という経緯です。まあ、あの二人が厄介払いのためにそう仕向けた可能性がとても高いですが。


「正直、あまりに突然の変貌で、何か何だかさっぱり……。」


 そして、今に至るまで原因は不明のまま、ということです。後は実際に行ってみてどうにか解決の糸口を探るしかない、と。まさに行き当たりばったりですね。そんなことでこの国の行く末は大丈夫でしょうか?まあ、虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言いますが。


「ふん!大方、あのヒロト大皇とかいう奴が失言でもしたんじゃないのか?

 それでオロチが怒りだしたとか?」


「失言だらけのあんたが言えた事じゃないでしょ!

 オロチのところに行ってもあんたは絶対口を開くんじゃないわよ!

 それでもっと悪化したらただじゃ置かないから!」


 レンさんがまたも余計な口を挟み、怒られました。まあ、安定の流れですね。

ただ、確かにあのヒロト大皇の感じですと、そういったこともあり得なくは無いかもしれません。自分たちが招いた戦争被害について『気の毒だがやむを得ない』とか他人事のように言って、物議を醸しそうな感じの方ですので。

 ですが、当事者であるカンナさんにそれは否定されます。


「いえ。兄は殆ど口を開かなかったと記憶しております。最初に少し挨拶をした位で。

 圧倒的な強者相手に大口を叩ける程の度胸も無いでしょうし……。」


 大分、実の兄に対して辛口になってきましたね。長年の鬱憤が溜まってきているのかもしれません。

 とすると、貢物に何か気に入らないものでも含まれていたのでしょうか?どっきり的なネタが仕込まれていた、とか。

 そんな事で、本気で怒りだして暴れられても困りますが。キレる17歳世代、という奴でしょうか?


「そうですか。やはり原因は不明、という事ですね。実際に行ってみて探るしかないか……。」


 アレンさんの仰る通りですが、正気を失われている、というオロチ相手にそんなことをする余裕があるかは怪しいのが正直なところです。下手するとアッサリ全滅、ともなりかねません。

 勇者候補とはいえ、失礼ながら実力的にはまだまだだと思われますので。具体的には、自力で海を渡る術を得る手前位のレベル?


「そうだな。生き延びるために出来る限りの準備をした上で、なるべく交戦を避け探ってみるしかなさそうだ。

 ……という事で、まずはその準備に繰り出すとしようか!」


 クレイさんの提案に従い、ひとまず街で霊山行の準備をすることとなりました。多少なりとも前金を頂けましたので、軍資金もふんだんにあります。


「まあ、命あっての物種だからね!

 多少の出費は大目に見てあげるから、必要なものを揃えて行きましょう!

 成功すれば報酬は弾んで貰えるでしょ?」


 カンナさんが若干困った顔をされておりましたが、ひとまず金庫番のお許しも出ましたので、皆武具の新調や道具類の補充に勤しみました。

 霊山は火山でもあるため、内部はかなり熱く、そしてオロチは火系の攻撃が得意との事ですので、主に耐火性重視での見繕いです。火耐性+50とかそんな感じの。逆に冷耐性が-されたりするので、注意しないといけません。


「俺様もこの杖を……。」


「あんたは武器の新調なんて必要ないでしょ!

 どうせオロチ相手にあんたの魔術なんて殆ど効果無いんだろうし!

 適当に回復薬でも買ってリュックに詰めときなさいよ!」


 まあ、魔術士の手持ち武器なんて補助的なものでしかありませんので、余裕が無いときにあえて新調するようなものではないですね。殴ってもダメージがいかなそうですし。

 自分でもそう思われたのか、レンさんも諦めて大人しく薬類を漁り始めます。ちょっと悲哀が漂っていますが。

 そんなこんなで1・2日かけて十分に準備を整えた私たちは、霊山へ向かうべく一路西へと歩を進めました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る