第28話 万神皇国 ゼスタネンデ④
皇城内で暫し休憩をとった私たちは、早速大皇・首相との面談に臨みました。
一体どんなディスりを受けることになるのか、わくわくしてきますね。
席についたところで、まずクレイさんが先手でご挨拶をされました。
「お久しぶりです。ヒロト大皇陛下。お元気そうでなによりです。」
「……ふん。そなたもな!クレイ王子。」
メインでお話されるのは、クレイさんとアレンさん。あと、カンナさんもこちら側です。
私を含めた残り三人は後ろに下がったところで口を挟まず耳を傾ける形です。
まあ、下手な発言をする訳にもいかないので、こういう場に慣れた方々にお任せするのが一番です。
この中で特に、というより断トツで危険なのはレンさんですが、ミレニアさんや私もうっかり心の声を漏らすと危険ですかね。お口にチャック、です。
対するのはカンナさんの兄であるヒロト大皇、首相であるシバ・ホゼオさん、そしてヒュペリカさんです。
ヒロト大皇はカンナさんに似た感じで、彫の深い、濃い顔をされた方です。苦虫を噛み潰したような表情をされているため、それがなお一層に際立っております。近親婚を繰り返すとそうなり易いらしいですが、本当でしょうか?
もう一方のシバ首相は温和そうながらも何となく狸を思い起こさせる顔立ち。見ている分には面白いですが、腹の中は真っ黒そうですね。そして、その狸が話の口火を切ります。
「さて早速ですが、手を引いて頂けますかね?
他国の政治に干渉されるのは如何な者かと思いますよ。
先程、カンナ様を保護させて頂こうとした際も、あたかも兵士たちが悪漢であるかのように振る舞われたとか。
そういう真似は是非やめて頂きたい。極めて不愉快、遺憾です。」
と、自分たちがさも当然の事をしていて、何の非もないかのようにクレイさんを非難されます。
何でも、この方は少しでも自分が責められる立場になると、『印象操作だ』『デマだ』と、ムキになって反論される傾向にあるそうです。大分、打たれ弱い方なのでしょうかね?
どうやら、以前にも首相だった事があるらしく、その際は叩かれて過ぎて腹痛辞任をされたとか。その時のことがトラウマにでもなって、外聞に敏感になられているのかもしれません。
「いえ。我々は冒険者としてカンナ殿の依頼をお受けした身ですので。
依頼主の身を護ろうとするのは、当然の行動かと思います。」
まだ話を聞きに来ただけ、のはずですが、クレイさんもさも当然かのように返されます。
それに対して、ヒロト大皇が反論します。
「それはカンナが勝手にやっただけのことだ!国として正式に依頼をだした訳ではない!
それに、我が国の大切なカミを鎮めるのに他国や冒険者の力を借りるなど!
恥だとは思わないのか!」
「いえ。おに――、大皇陛下。
国の一大事だからこそ万全を期する必要があるのです。こちらのアレン様はかつて光の精霊王の加護を受け魔族の将を打ち取られた勇者様の御末裔です。
オロチ様を鎮めるにあたりお力添え頂くには最適な方かと思います。」
前にも触れた通り、勇者だからカミを鎮めるのに最適なのかはよく分かりませんが、万全を期する必要がある、というのは確かですかね。
“魔王領”が怪しげな動きを見せているという噂ですから、彼らに対抗可能であるカミたちを早く味方につけるのは重要なポイントだと思います。でないと、今度はあっさりと蹂躙されかねません。
「カミの末裔である我々が他者の力を借りなければ鎮められないなど!
力不足を公言しているようなものだと思わないのか!貴きスメラギ家の一員にありながらなんと浅慮な!」
「当主でありながら殆ど霊力をお持ちでないお兄様が言えることではないでしょう!!」
話合いはエスカレートし、他をそっちのけで兄妹喧嘩を始めてしまわれました。
どうやら、ヒロト大皇の方はあまり力をお持ちではないようです。険悪な仲の原因の一つには嫉妬もあるのでしょうか?“霊力”という概念は私にはよく理解できませんが、魔力の別称なのでしょうかね。
そんなお二人を宥めたのは、やはりヒュペリカさんでした。
「お二人とも!お客人の前です!どうか、落ち着いて下さい!
畏れながら大皇陛下。
力を尽くされていることをお示しなられる意味でも、ここはクレイ様方のお力を借りられた方が宜しいかと。
流石に、カンナ様お一人で赴かれるのでは危険ですし、国民、諸外国に本気で取り組んでいないのかと疑われないとも言い切れません。」
意外な事に、ヒロト大皇はヒュペリカさんの進言を冷静に受け止められ、暫し黙考されます。
どうやら信頼が厚い、というのは本当の事のようですね。他にも理由があるかもしれませんが。口外出来ぬ深い仲、だとか?
暫し沈黙が続いた後、シバ首相・ヒュペリカさんと軽くひそひそ話をされたヒロト大皇は、ようやくクレイさんたちに結論を述べます。
「……そうだな。我々の本気を示す意味でも、数はあった方がよいか。
あいや、分かった。確かに、可愛い妹を送り出すのに一人きりというのはしのびない。
クレイ王子たちの同行を特別に許可してやろうではないか!」
と、急に意見を変え、私たちの同行が許されることとなりました。
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