第27話 万神皇国 ゼスタネンデ③

 結果から言うと、私の心配は杞憂に終わりました。

 というのは、街に戻りとりあえず冒険者ギルドに寄って、と思った矢先に助けを求めるカンナさんと遭遇することになったためです。


「無礼者!は、離しなさい!

 誰か!誰か助けて頂けませんか!?」


 そんな助けを求める高く透る声が聞こえるや否や、アレンさんが先陣を切って駆けだしました。少し遅れて、残りのメンバー(含私)も後を追います。

 行く先を見ると、何やら遠巻きに様子を窺っている(だけ)の人たちと、その中心で兵士たちに囲まれ、身動きが取れなくなっている女性の姿がありました。街で襲われる女性の定番ですかね。

 『見ているだけ』に関しては、巻き込まれるのが嫌で見て見ぬふり、というのもありそうですが、今回は兵士が相手なのでどうしていいのか分からない、というのが正直なところでしょうか。

 一方のアレンさんは躊躇うことなく、その中に割って入られます。


「何をやっている!か弱い女性に手を上げるとは!恥を知れ!」


 アレンさんは兵士たちを強引に引き剥がすと、中心にいた女性との間に立って対峙されます。

 女性の方に目をやると、黒長髪に切れ目ながらも黒い瞳、『ザ・お姫様』といった風貌をされておりました。スリムながらも、ミレニアさん程ではありませんが出ているところは出ており、体を覆う衣装もどことなく高級そうです。十中八九、カンナさんでしょう。

 素晴らしいご都合主義ですね。こういう幸運を引き寄せる事こそが勇者補正というものなのかもしれませんが。

 ところで、見た目は『か弱い』ですが、実態はどうなのでしょうかね?


「なっ何奴!冒険者と言えど、勝手は許さんぞ!そこをどけ!」


 アレンさんの勢いに押され気味でしたが、兵士たちのリーダーがそう言い返しました。

 まあ、兵士の皆さんは一応この国の衛兵の方でしょうから、どちらかというとアレンさんに非があるのが現実ですかね。女性がカンナさんという確証もなく、また、何かの現行犯で取り押さえられているという可能性を否定できませんので。

 アレンさんお一人を対峙させておくのは流石に酷ですので、クレイさんを筆頭に私たちも加わります。


「カンナ!大丈夫か?」


「!クレイ王子ですか!?来て頂けたのですね!」


 クレイさんの呼びかけに答えるカンナさん。そのやり取りに、周りを取り囲んでいた一般人の方々もざわめきたちます。中には、兵士たちに敵意の視線を向ける方も。自国のお姫様が兵士たちに乱暴されていれば、それも当然の反応でしょうか?どちらかと言えば民寄りの方とのことですので、人気もありそうですし。何となく、あいつらが悪そうだ、と。

 まあ、それを狙ってのやり取りなのだと思いますが。


「ク、クレイ王子?エルディアノ王国の第三王子か……?」


 兵士たちの中にも動揺が生まれたようで、多少なりとも勢いを殺がれた形となりました。

 とはいえ、彼らも簡単に逃がす訳にも行かないでしょうから、暫くの間黙ってにらみ合う格好となりました。ばちばち。はらはら。

 そんな膠着状況を打開したのは、先ほど別れたばかりのヒュペリカさんでした。


「そこまでです!一旦お引きなさい!

 カンナ様、クレイ王子に失礼ですよ!ここは宮廷騎士にお任せ頂きたい!」


 そう言い、引き連れてきた数名の宮廷騎士とともに割って入られると、渋る兵士たちを説得して引き下がらせました。

 中々の影響力ですね。どちらが上とか、そういう暗黙の上下関係もあるのでしょうか。『所轄は黙って指示に従っていればいい!』みたいな。


「大丈夫ですか!?カンナ様!」


 兵士たちの姿が消えるのを確認したヒュペリカさんは、心配そうにカンナさんに駆け寄られます。


「危ないところでしたが、大丈夫です。助けに来てくれてありがとうございます。

 こちらの方が、割って入って下さいましたので……。」


 そう言い、アレンさんに頭を下げるカンナさん。若干、頬に朱が指しているようにも見受けられます。

 そして、顔を上げると、クレイさんの方へ顔を向けます。


「クレイ王子。手紙一枚でお呼びだてしてしまい申し訳ございません。

 それに、危ないところを助けて頂き、感謝いたします。ありがとうございます。」


「いや。こちらこそ遅れて済まなかった。

 ぎりぎりだったが、間に合ってほっとしているよ。本当に良かった。」


 そう、爽やかに返されるクレイさん。実際かなりぎりぎりな感がしましたので、間に合ってよかったですね。うっかり骨折り損となるところでした。ヒーローは早すぎても、遅すぎてもいけません。


「それと……。お手数ですが、皆様をご紹介頂けますか?

 私はカンナ。スメラギ・カンナと申します。この国、ゼスタネンデ現大皇の妹にあたります。

 若輩ながら、筆頭巫女を務めさせて頂いておりまして、少しばかりですが回復魔術を扱えます。」


 どうやら、レアな回復魔術が使える方のようです。今のパーティーにかけている要素ですね。私は平時限定なので、カウント外です。


「そうだな……。

 こいつはアレン。勇者の子孫にしてその卵。そして俺の親友です。」


 カンナさんに促され、まずはアレンさんの紹介をされるクレイさん。


「アレン・ノアックです。カンナ様。宜しくお願い致します。」


「こちらこそ、宜しくお願い致します。先ほどはありがとうございました。」


 再びアレンさんに熱い視線を向けるカンナさん。

 瞳の仲には星だとか、心臓の形だとかが浮かんでいそうな感じです。

 これは、ロマンスの予兆でしょうか?美男美女カップルの誕生!とか。窮地を救われたお姫様とヒーローとの恋愛物語は定番です。どきどき。


「そして、こいつはミレニア・ローク。

 盗賊王の娘にして、うちのパーティーの金庫番です。」


「宜しくね!」


 クレイさんの紹介に非難めいた視線を向けつつも、元気よく挨拶されるミレニアさん。

 続いて、レンさんが自ら自己紹介を試みますが――。


「俺様は天才魔術士にし――。」


「で、こいつは魔術士のレン・クロサキっていうの。

 古代語魔術と、あと一応精霊魔術も使えるわ。あまり、役に立った事は無いのだけれど。

 まあ、言動が、か~な~り~、自意識過剰でウザったい!と思うけど、まともに相手せず適当に流してくれたらいいから。」


 例の如く、ミレニアさんに被せられて黙ります。

 そんな様子をみて、カンナさんは若干リアクションに困った感じでしたが、愛想笑いをしながら会釈をされます。

 最後は私ですね。笑いをとるネタは思いつかなかったので、普通にいきたいと思います。ウケを狙っても、滑って沈黙を生むのが関の山でしょう。


「私はリリシアです。記録係をしております。宜しくお願い致します。」


「き、記録係、ですか?よ、宜しくお願い致します。」


 私の自己紹介に怪訝な表情をされつつも挨拶を返されるカンナさん。まあ、これも当然の反応ですね。しくしく。

 そんな自己紹介がひと段落したところで、ヒュペリカさんが口を開き、次のアクションに関して提案をされます。


「皆さま。一度、皇城の方へお戻り頂けませんか?

 既にクレイ王子、勇者殿と合流された状態ですから、大皇も強引な真似はされないと思います。

 私も微力ながらとりなしをさせて頂きますので、皇城で十分ご準備頂いた上で、正式にご出立頂けたらと思います。道中何があるか分かりませんので。」


 その提案に、カンナさんも暫し黙考された上で同意されます。


「……そうですね。正式な依頼として、きちっと報酬等もお受け取り頂きたいですので。

 前金をお渡し出来れば、オロチ様のところに行く準備も十分して頂けるでしょうし。」


 こうして、カンナさん・ヒュペリカさんに連れられて、今度は制止されることも無く皇城内部へと歩を進めることができました。

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