第26話 万神皇国 ゼスタネンデ②
「申し訳ございませんが、お引き取り下さい。」
文字通り、皇城前で屈強な宮廷騎士たちに門前払いされてしまいました。誠実そうではありますが、融通の利かなそうな方たちです。まあ、職務内容的には適役と言えるのかもしれませんが。
「クレイ王子とはいえ、今回は正式なご来訪では無いかと思います。
申し訳ございませんが、ここをお通しする訳にはいきません。」
カンナさんから依頼があった、という話もして手紙も見せたのですが、それでも知らぬ存ぜぬの一点張りで、すげなく追い払われてしまいました。しくしく。
伝達ミスがあったのか、或は……。
「カンナの奴に何かあったのかもしれないな……。
兄との仲があまり上手くいっていないようだったし。」
何でも、カンナさんは現大皇である兄と国の方針で意見の食い違いがあったそうです。
国民の教育水準をあげ、移民合衆国のように民が完全に自治独立出来る国家を目指すカンナさんと、昔のようにスメラギ家が実権を持ち、民を纏め導くという国家への回帰を願う現大皇。口論が絶え無かった、とのことです。
まあ、移民合衆国の軍が一部駐留しているような状態ですので、そう簡単に昔の体制へ戻すことはできないとは思いますが。
因みに、この国の現首相はどちらかというと大皇寄りだそうです。ただ実権は自分で握っている事をお望みのようですので、それを口実に傀儡化と権力の強化をしたいだけかもしれませんが。
それもあって、カンナさんは兄・政府の双方から煙たがられているようです。首相の標榜する『美しい国』を作るには、自分たちに盲目的に従う民衆である方が、都合が良いので、カンナさんのような啓蒙思想は邪魔、という事でしょうか。
何でも、首相は大敗前にスメラギ家が発布された教育の規範を礼賛しているらしいです。主題は単に勉学に励みなさい、皆仲良くしなさい、という内容なのですが、自分たちスメラギ家や国に尽くす事がさも当然であるかのように語っているとか。
主題の部分ではなく、その他のところに真の目的を込める、という話法はこの国では一般的なやり方らしいです。今まで無権限、或は何となく利益を得ていたことをさりげなく正当化する、とか。怖いですね。
そんなこんなで、すごすごと引き返してきた私たちでしたが、そこへ焦った様子の宮廷騎士が一人駆け寄ってこられました。
「クレイ様!お待ちください!」
話しかけて来られたのは女性の宮廷騎士で、優しそうな雰囲気を醸し出しつつも知的な美人、という感じの方でした。
後で聞いたところによると、かなりの才女で、海外出身者にも関わらず、首相や大皇の信任も厚く、若くして大皇付きの宮廷騎士に抜擢されたそうです。俗にいう、すーぱーうーまんという奴でしょうかね。
「私、宮廷騎士のヒュペリカと申します。
カンナ様からご依頼があった、とのことですのに、このような事になってしまい申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。」
そう頭を下げるヒュペリカさん。頭につられて長い茶の髪が宙に舞います。綺麗なお辞儀ですね。イケメンもそうですが、美人もお得ですね。可愛いは正義です!あれ?
何でも、カンナさんが私たちに依頼の手紙を出されたのには彼女の助言があったから、というのもあるようです。勇者の子孫を擁するパーティーなので、カミを鎮めるために協力を得るには最適では、と。
勇者にはそんな能力も備わっているのでしょうか。寡聞にも私は存じ上げないですが。
そこまではよかったのですが、冒険者に依頼を出した事を不快に思った大皇が強行に出て、強制的にオロチの住まう霊山へと連行されそうになり、カンナさんがどうにか城を抜け出されたところだとか。
「まだ近くにいらっしゃるはずです!
カンナ様と合流して頂き、どうにかお力添えをお願いできませんでしょうか!」
そう言い再度頭を下げるヒュペリカさん。その様子にクレイさんたちも頷きます。
「分かりました。急ぎ街に戻って探してみます!」
そうして、私たちは城下の街へ引き返し、カンナさんを探すこととなりました。
土地勘も無い状態でどうにかなるものなのでしょうかね?クレイさんも街を一人探索、なんてされていないでしょうし……。
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