~第三章~ 万神皇国 ゼスタネンデ

第25話 万神皇国 ゼスタネンデ①

「ほら!そっちに行ったわよ!外したらただじゃ置かないからね!」


「ふん!分かっている!」


 盗賊に追い込まれた魔物たちに向かって爆炎を放つ魔術士。

 熱と炎に煽られてちりぢりとなったところを、勇者と戦士が連携して打ち倒します。勇者のパーティーらしく、いいコンビネーションになってきましたね。私はただ見ているだけなのですが。

 皆さんこんにちは。勇者候補一行の記録係、リリシアです。

 そろそろお前にはもう飽きた、という方がいらっしゃるかも知れません。もし次の機会があったら、別の方に冒頭をお願いしてみた方がよいかもしれませんね。しくしく。私とは遊びだったのですね(泣)。

 私たちは今、“万神皇国”と呼ばれるゼスタネンデという国の首都近くまで来ております。この国はレヴァンティアから見て北東側に位置しており、北極海に突き出た大きな本島(半島ですが)と、3つの大きな島から成っております。

 西側の海を挟んだ直ぐ向こうには、100年以上前に“魔王”自称する魔族とその配下たちが侵攻し、居を構えた領域(魔王領)が存在するため、常に魔族の脅威と直面していると言える国です。北側にも魔族の帝国がありますしね。

 政治体制としては、この大陸としては珍しい立憲君主国(但し、君主は実権無し)であり、議員内閣制をとっております。

 私たちが何故そんなところに来ているかというと、平たく言えば知人からの依頼を受けたため、という話です。お友達は大切にした方がいいですね。

 ワイズアビスでレンさんを仲間に加えた私たちは、暫くの間レヴァンティア国内でお仕事をしておりました(冒険者活動、略してボウカツでしょうか?とりあえず、○○カツとしておけば、何か凄い事をしている感がでますかね?目指せトップ冒険者!……みたいな)。

 そんな最中、クレイさん宛で1通の手紙が届いたことが、事の発端となります。


「……?スメラギ・カンナから?何だこれは?」


 手紙を受け取られたクレイさんは、最初しきりに首を傾げておられました。そんな姿も絵になるところがイケメンの特権ですね。○○問わず、但しイケメンに限る、という感じでしょうか。

 ですが、中身を読み始めると直ぐに真剣な表情をされ、読了後直ぐに私たちにせスタネンデ行きを提案されました。


「どうやら、ゼスタネンデで厄介事が起きているらしい。」


 話によると、スメラギ・カンナという方はゼスタネンデの皇族(スメラギ家)の方で、現大皇(当主)の妹にあたられるようです。

 そして、エルディアノとゼスタネンデは国交があることから、王族であるクレイさんとそのカンナさんとは面識があり、その繋がりで私たちに依頼をしてきた、という経緯です。

 ここで、ちょっとゼスタネンデという国に関して補足させて頂きます。私も行ったことはありませんので、全て伝聞になるのですが。現地の人が聞いたら耳を疑うようなトンでもネタが含まれていないという保証はありませんので、ご留意下さい。

 前述の通り、100年以上前に自称”魔王”がこの大陸に侵攻してきたのですが、その際カミの末裔でもあるというスメラギ家と、仲の良かったこの国に住まう八百万のカミたちは、人間と協力して防戦したそうです。

 ただ、どうにか国を守り切ったのはいいものの、傷つき力を使い果たしたカミたちは眠りにつかれてしまわれたとか。

 一方で、カミたちのお陰で比較的被害が軽微だったゼスタネンデはというと、その後順調に復興・繁栄したのですが、同時に増長もしたようです。カミという重石が外れて、羽目を外されたのですかね?

 そして何を思ったか、当時は主権も持っていたスメラギ家が軍部と結託し、周辺諸国に侵攻していきました。

 ある程度までは優勢に軍を進めることが出来、順調に領土も拡大していったらしいのですが、結局、移民合衆国相手に大敗を喫し、実権をはく奪される羽目になったという話です。何事も、引き際が肝心ですね。慢心が慢心を呼び、結局全てを失うというのはありがちな話かもしれません。

 ただ、スメラギ家そのものは幸運なことに存続を認められ、象徴の座に収まったそうです。象徴、というのは曖昧過ぎてその存在意義がよく分からないですが。逆に職業選択自由の自由を奪われる事で、基本的人権が守られていないのではないか、という見方もあるかもしれません。

 神や王といったような存在に盲目的に従う人間がいる理由は何でしょうか?

 やはり、保身と役得狙い、という部分が大きいですかね。逆に言えば、不都合な結果の責任を自身で引き受けず他者のせいに出来る、ということになるでしょうか。あくまで精神的には、で物理的には大変な目にあうと思われますが。

 実際に権力を持つものに利用される、ということも常ですので、スメラギ家の場合も大人しく敗北を受け入れされるのに利用された、といったところが現実でしょうか。まあ、どうやらお友達であるカミを鎮める、という能力・役割もあるそうですので、少しは実利的な側面があるのかもしれません。

 ここからが依頼の本題ですが、どうやら最近になって眠りについていたカミたちが、順次お目覚めになられているようです。

 その中に、特に力が強く、スメラギ家とも親交が深かったオロチというカミがいるようなのですが、その方がどうやら突然暴れだして手が付けられなくなってしまったと。

 寝起きが悪い方なのでしょうかね?或は、寝ている間に悪戯をされたとか。鏡の前で悪戯書きされた自分の顔に呆然とするオロチ、というのはちょっと面白い光景かもしれません。

 そして、そのオロチを鎮める役目を、スメラギ家の一員で特に力の強いカンナさんが引き受ける事になったので、勇者という存在を抱えた冒険者である私たちに協力をして欲しい、という訳です。


「暴れるカミを鎮める、か。

そのオロチというカミは相当強いのだろう?正直、今の俺たちの手に負えるか……。

力を貸してあげたいのはやまやまなんだが。」


「相手は実権が無いとはいえ皇族のお姫様なんでしょ?

だったら、報酬は期待出来そうじゃない?」


 自分たちの実力を冷静に分析し、若干消極的なアレンさん。その一方でミレニアさんはちょっと乗り気です。

 やっぱり、実権が無くとも王皇族の近くにはお金の匂いがするからでしょうか?


「行ってみて無理そうなら断るか、最悪一緒に逃げればいいでしょ!

それもあんたの好きな人助けの一つよ!」


 冒険者は命あっての物種ですが、ある程度リスクを負わないと儲けられない、というのも事実です。

 ミレニアさんの言う通り、ひとまずお話位は伺ってみてもいいかもしれません。詳細如何によって、自分たちの実力と秤にかければいいかと思いますので。


「カミだろうと何だろうと、天才の俺様に――。」


「はいはい。あんたは黙ってて!今、重要な儲け話の相談をしているんだから!

 金儲けの才能が無いあんたが混じっても、ロクな意見を言えないでしょ!」


 頑張って口出しをしようとしたレンさんですが、ミレニアさんに撃沈され、沈黙します。

 彼の家が没落したのは確かですが、レンさんにも才能が無いとまでは言いきれないと思います。まあ、本人自体から推し測ってみても、望み薄なのは確かなのですが。


「ミレニアの言う通り、話だけでも聞きにいって貰えないか?

 知り合いという事もあるが、昨今ゼスタネンデに不穏な動きが見られる、というのもあって、出来れば状況を確認しておきたい。

 現状エルディアノとゼスタネンデは友好国であるが、それが今後も維持できるかが気になる。」


 どうやら、“魔王領”の魔族たちが怪しい動きを見せているという事を理由に、最近専守防衛という方針を転換して軍備を整えようとする動きがあるそうです。また、犯罪抑止を建前に言論統制・思想統制を試みようともしているとか。

 もしかすると、この記録も検閲されてしまうのでしょうか?びくびく。もう少しオブラートに包んだ書き方にした方がよかったでしょうか?言葉の端々を、敬意でもっと装飾して。

 そういった事も踏まえて、一度現地で状況を確認したい、というのがクレイさんの意見です。

 確かに、万が一戦乱が起ころうものならば、故郷の田舎村も煽り食らいそうな感がします。“魔王領”からもそう遠くない位置にありますし。


「どうしても厳しそうであれば、辞退して別の冒険者を紹介、というような話でも構わない。

 どうか、頼む!」


 クレイさんの懇願を受け、アレンさんは黙考します。

そして、暫くすると覚悟を決めたように頷きました。


「……分かった。ひとまずゼスタネンデまでいって話を聞いてみようか。

 確かに、昨今の動向に関しては俺も気になるし、他人事という訳にもいかないからな。」


「よし!決まりね!さーて金儲け、金儲け、と。」


 渋っていたアレンさんも了承し、こうして私たちは一路北上、ゼスタネンデ、その首都へと向かうこととなりました。首都に着くまではすんなりといったのですが――。

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